Yahoo!ニュース

未来のヒット商品を探せ!地方や老舗が発信する新たなスイーツの可能性

笹木理恵フードライター
愛媛・西条市から全国へはばたいた「ひなのや」のポン菓子 ※画像提供/ひなのや

グローバル化が進む昨今、スイーツ業界も、都心の専門店からトレンドが生まれる流れだけでなく、地方や老舗が新たに発信するスイーツが注目を集めることも増えてきている。スイーツのヒット商品を作るには、どんな課題があるのだろうか。地方発スイーツの成功例を紹介するとともに、事業者の販路拡大を支援する取り組みを取材した。

米農家の支援が発想の原点。全国に販路を広げた「ポン菓子」

洗練されたデザインのポン菓子。オープン当初からあるフレーバーは、「キャラメルナッツ」「玄米きび砂糖」「伊予柑」の3種類。※画像提供/ひなのや
洗練されたデザインのポン菓子。オープン当初からあるフレーバーは、「キャラメルナッツ」「玄米きび砂糖」「伊予柑」の3種類。※画像提供/ひなのや

愛媛・西条エリアで親しまれている「ポン菓子」の専門店として、2010年に設立した「ひなのや」。代表の玉井さんは、大手電機メーカーの営業職を経て、実家の農業機械店を継ぐべく、28歳で愛媛県にUターン。しかし、農家の減少・高齢化が進む中で、高額な農業機械は思うように売れない現実を目の当たりにする。米農家の売上げを増やすきっかけになればと、米の販売代理店をやってみたりと試行錯誤するなかで着目したのが、6次産業ビジネス。最初はおにぎりや餅などを製造販売してみたが、生ものなので売れなければ廃棄ロスになる。そこで目をつけたのが、地元で「パン豆」の愛称で親しまれているポン菓子だった。「自分が憧れるライフスタイル誌やセレクトショップで扱ってもらえる商品にするには、どうしたらいいか。早い段階からコンセプトやパッケージのデザインにこだわり、地元産の食材を取り入れるなどして味のバリエーションも増やしていきました」(玉井さん)。

地元産のお米を原料に、常時10種類前後のフレーバーをラインナップ ※撮影/吉川侑冶
地元産のお米を原料に、常時10種類前後のフレーバーをラインナップ ※撮影/吉川侑冶

地元の直売所から販売をはじめ、香川・高松のセレクトショップに卸すようになったのをきっかけに都市部のバイヤーの目に留まるようになり、全国の店舗へと販路が拡大。創業初期は卸に特化していたが、「ひなのや」というブランド、そして西条市というまちを広く発信するために、直営店をオープン。現在はオンラインショップにも力を入れている。「地元の人に、自分たちの町にこんな素敵なお店があるんだと自慢に思ってもらいたい。そして県外の人から遊びに来たいと思ってもらえるように、西条市を盛り上げたい。ブランドを育てていくには、地域との関わりは欠かせません」(玉井さん)。

創業220年の老舗が手掛ける「フルーツわらび餅」専門店

長崎・対馬産「豆酘(つつ)みかん」を丸ごと使用した「MANDARIN WARABI(豆酘みかんわらび)」1個486円 ※画像提供/まるさんかじつ
長崎・対馬産「豆酘(つつ)みかん」を丸ごと使用した「MANDARIN WARABI(豆酘みかんわらび)」1個486円 ※画像提供/まるさんかじつ

江戸時代より茨城・鹿島神宮の参道に店を構える「丸三老舗」。今年創業200周年を迎える老舗和菓子店だが、7代目の笹沼さんが店を継いだ十数年前は経営が思わしくなく、和菓子職人の働き方改革も含めて事業の立て直しを図ってきた経緯がある。「地元のお土産菓子店、というイメージを脱却して普段使いの店にしたいと考え、時代に合わせた新しい和菓子として開発したのが、生産者から直接仕入れる最高級フルーツを用いた『極大福』です」(笹沼さん)。「極大福」の商品のヒットで全国から催事の依頼がかかるようになり、ECも順調に推移。さらに2021年4月には、コロナ禍で鹿島神宮への観光客が減少したことを受け、現地を訪れることができない人にもお菓子を届けたいとの思いから、新ブランドのフルーツわらび餅専門店「まるさんかじつ」を立ち上げ、東京進出を果たした。

大人気の「ICHIGO WARABI SHIRO(白あん)」 1個486円 ※画像提供/まるさんかじつ
大人気の「ICHIGO WARABI SHIRO(白あん)」 1個486円 ※画像提供/まるさんかじつ

「まるさんかじつ」は、「極大福」で培ったフルーツの仕入れと、老舗の技術を活かしたなめらかなわらび餅を組み合わせた商品づくりが特徴。厳選した季節のフルーツを使い、常時7~8種類を揃え、冷凍で通販も対応している。独自の配合で透明感を出したわらび餅は、大福よりもなめらかで口当たりの食感。ほどよい甘さの白あんが主役のフルーツを引き立てる。完熟いちごを使ったこの時期だけの「ICHIGO WARABI SHIRO(白あん)」は、連日完売となる人気ぶりだ。

地方発の商品を、トップバイヤーが開発から支援

地方の産品を使った商品や、歴史ある伝統菓子のアレンジ品、老舗の新商品など、新たなスイーツはたえず全国で開発されているが、商売として成功させるためには、商品力の向上や、販路の開拓、ブランドの知名度アップなどクリアすべき課題も多く、せっかく商品化しても、思うような売上げを上げられないケースも少なくない。

「バイヤーズルーム」の様子 ※画像提供/全国商工会連合会
「バイヤーズルーム」の様子 ※画像提供/全国商工会連合会

そうした中、地域の資源・技術を活用して開発された特産品の普及や、意欲ある中小・小規模事業者の販路開拓を支援することを目的に行なわれているのが、全国商工会連合会が1988(昭和63)年より開催している「バイヤーズルーム」。2020年度からは「審査会型ビジネスマッチング」をテーマに、商談に重点を置いた形へとリニューアルし開催している。2021年からは、商品開発・改良の支援の場として「バイヤーズワン」という新たな取り組みも行なっている。「現役バイヤーが、開発・改良の時点から出口となる流通までを支援するこれまでにない新しい取り組みです。ユーザーの声に近い小売店の担当者が携わることで、市場性が高く、時流や売場にフィットする商品開発につながっています」(全国商工会連合会・市場開拓課 古柴さん)。

味、見た目、デザインなど様々な視点から、バイヤーのチェックが入る ※画像提供/全国商工会連合会
味、見た目、デザインなど様々な視点から、バイヤーのチェックが入る ※画像提供/全国商工会連合会

「バイヤーズルームワン」では、出品される約100の商品を、第一線で活躍するバイヤーたちが厳しい視点でチェック。経済産業大臣賞をはじめとする賞の授与などによる付加価値向上や、流通業者とのビジネスマッチングの機会提供を図っており、初年度となる2020年度で累計5000万円以上の経済効果を実現しているという。出品される商品は、米・穀物類、調味料・飲料、惣菜、スイーツなど多岐にわたるが、なかでもスイーツはバイヤーからのニーズが多く、毎回注目度が高いジャンルのひとつだという。

バイヤーが見る「売れる商品」の共通点とは

2021年経済産業大臣賞を受賞した「四代目大野屋氷室」の「飲むかき氷」。今夏のヒットが見込まれる ※画像提供/四代目大野屋氷室
2021年経済産業大臣賞を受賞した「四代目大野屋氷室」の「飲むかき氷」。今夏のヒットが見込まれる ※画像提供/四代目大野屋氷室

では、実際にどんな商品がバイヤーの支持を集めるのか。「バイヤーズワン」の参加メンバーであるバイヤーに、百貨店、スーパー、通販、それぞれの視点から、スイーツを選定するときのポイントや将来性があると感じる商品、逆に課題があると感じる商品についての見解を尋ねてみた。

▼スイーツの選定ポイント

・「商品自体に華があるような見た目の商品であり、食べる方が笑顔になれるであろうと想像ができる商品」〈JALUX 冨木田さん〉。

・「視覚的な訴求(見た目の独自性)、安心素材(トレサビリティーが明確)、無添加(余計なものが加えられてない)、作り手の想いやこだわりがある(ストーリー性がある)商品」〈信濃屋食品 岩崎さん〉。

・「昨今は、コロナ禍で旅行なども行きづらくなっているので、その土地で人気のあるもの、食べられているものに、素材・食文化などで地域性が感じられたり、見た目やコンセプト、商品名、内容などで差別化が明確だったりという要素が加わると、面白いと感じます」〈大丸松坂屋百貨店 渡邉さん〉

▼将来性があると感じる商品の特徴

・「価格と商品のバランスがよく、味の想像がしやすい、または味の想像がしにくくとも食べてみたいと思わせるシズル感がある」〈JALUX 冨木田さん〉

・「見た目の楽しさや独自性があり、素材の味を生かしていること、環境に配慮したモノづくりを行なっていること。あとは、ターゲットが明確なスイーツかと思います」〈信濃屋食品 岩崎さん〉

・「流行のアイテムに地域の素材を組み合わせた商品は短期的には人気が出ますが、以前に比べて流行のサイクルがとても短くなっていると感じます。永く地域に根付いているお菓子をアレンジした商品で、地元でもある程度人気になってきていたりすると、大都市圏でのお取り寄せでも成功しやすいと感じます」〈大丸松坂屋百貨店 渡邉さん〉

▼課題があると感じる商品の共通点

・「訴求ポイントにする部分と、現実の商品に乖離がある(訴求する素材のよさが活かしきれていない、売り手の満足感で終わっている、など)」〈JALUX 冨木田さん〉

「同質化、消費者の立場になってない商品作り。素材の味が活かされていない商品など」〈信濃屋食品 岩崎さん〉

・「流行に追随して作り始めただけの商品や、どこでも作れる商品。ブランディング、販路、販促の考え方がうまくいっていない商品」〈大丸松坂屋百貨店 渡邉さん〉

言葉で表現してしまうと至極当たり前のことなのだが、商品開発力、情報発信力が十分でない小規模事業者にとっては、自力で解決するのが難しいケースも少なくない。「地域発の商品はどちらかといえばプロダクトアウトで開発されており、市場性が低いケースもあります。しかし近年は地域の特産品も年々アップデートされ、新しいアイデアのもと個性豊かな商品が開発されています。『バイヤーズワン』、『バイヤーズルーム』の取り組みを通じて付加価値向上を支援することで地域を盛り上げ、リードしていく商品を一つでも多く生み出していきたいと考えています」(古柴さん)。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

笹木理恵の最近の記事