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キャプテン4人態勢で挑む。アジアパラへ水泳日本代表合宿が開催される!

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
タッピングでターンの合図を伝えてもらう富田宇宙 (写真・内田和稔)

 8月24日に発表されたアジアパラ日本代表選手のうち水泳は、身体障害、視覚障害、知的障害のある合計46名(男子23・女子23)で、陸上の68名に続く2番目に多い人数である。リオパラリンピック(2016年・ブラジル)に引き続き、峰村史世監督が代表チームを率いる。

 チームのキャプテン、副キャプテンはそれぞれ2名ずつの体制で、キャプテンには、ベテラン鈴木孝幸(四肢欠損/ゴールドウイン)と、エース木村敬一(全盲/東京ガス)。二人は現在、海外を拠点としているため今回は不参加だった。

JISS合宿のようす (写真・内田和稔)
JISS合宿のようす (写真・内田和稔)

 副キャプテンは、木村敬一のライバルに急浮上した富田宇宙(全盲/日体大大学院・EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング)。進行性の視覚障害が進み、クラス分けにより弱視のS13から全盲のS11へと変更になったのだ。それにともない、IPC(国際パラリンピック委員会)の記録も修正され、富田は現在100Mと400Mの自由形で世界ランク1位、800Mの自由形で世界記録をもつトップスイマーとなった。

 昨年メキシコでの大地震で世界選手権が延期となり日本代表は出場を取りやめたため、来月のアジアパラがクラス変更後の富田の実力を知らせる初のステージとなる。

 ちなみに、クラスが変わってからも富田の障害は進行しつづけ、生活面ではできないことが増えてきたという。競技では見えていた時に培った感覚を生かし、ライバル木村に、そして、いくつかの世界記録をもつ中国のヤン・ボーゼンに挑もうとしている。

 ーいま、400M自由形の練習はどんなことをポイントにしていますか?

記者のインタビューに応える富田宇宙(全盲/日体大大学院・EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング) (写真・内田和稔)
記者のインタビューに応える富田宇宙(全盲/日体大大学院・EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング) (写真・内田和稔)

 「(見えないため)コースロープにさわるために、手を戻す動作で横にブレがはいるのを修正、後ろから前にまっすぐすすむようにフォームを修正している。それがうまくいくといいです」

 ー(ターンを知らせる)タッピングについての対策は?

 「アジア大会は選手が多いですし、だれ(どのコーチ)が叩くかきまっていないです。自分が決めることのできないところですから、気にしたら負けでしょう!」

 ー(ライバルの)木村とはどんな感じ?

 「木村くんはアメリカを拠点にいろんな刺激をうけている。一緒に会うといろんな話をしてくれる。ぼくも国内にいるからこそできることもたくさんあるので、お互いにまったく違う引き出しを共有できていると思う。お互い刺激になれる立ち位置にあると思っています」

 同じく副キャプテンとなったのは、大学2年になる池愛里(左足機能障害/日体大)。5年前のアジアユースパラ(2013年・クアラルンプール)で初めて日本代表入り、アジアパラ仁川(2014年・韓国)、グラスゴー世界選手権(2015年・イギリス)、リオパラリンピックと急激なピッチで経験を重ねた。178センチの長身を生かした泳ぎで毎回7種目に挑戦するタフな競技スタイル。峰村監督自らが指導するクラブチームでトレーニングを積んできた。

池愛里(左足機能障害/日体大) (写真・内田和稔)
池愛里(左足機能障害/日体大) (写真・内田和稔)

 「今回の合宿では、副キャプテンを拝命したのでチームのいろんな選手とコミュニケーションしていきたい。自分の泳ぎの面ではスピードを重視したトレーニングをします。前回のアジア大会ではメダルはとれましたが自己ベスト更新できなかった。今回は出場する7種目全部で自己ベストを更新して、メダルを獲得するのを目標にしています」と記者のインタビューに落ち着いた様子で答えていた。

 経験豊富な主力2名のキャプテンと、2020東京に向けた新勢力を象徴する副キャプテン。アジアパラは4人のリーダーたちによる楽しいチームになりそうだ。

知的障害クラスのアジアパラは・・

東海林大(知的障害/三菱商事) (写真・内田和稔)
東海林大(知的障害/三菱商事) (写真・内田和稔)

 「東海林くんは、正直自分にとってトラウマです。僕はリオの選考レースでは勝ちましたけど、まだ彼の世界記録を超えるられないです。3秒も離れており、ライバルではない。目上の存在です!」

 リオパラリンピックで銅メダルを獲得した中島啓智(知的障害/あいおいニッセイ同和損保)は、澱むところなくそう語った。自分を冷静にみる中島のキャラクターには、ともに切磋琢磨する仲間への尊敬の念と競技への素直な喜びが感じられた。

インタビューに応じる中島啓智(知的障害/あいおいニッセイ同和損保) (写真・内田和俊)
インタビューに応じる中島啓智(知的障害/あいおいニッセイ同和損保) (写真・内田和俊)

 2年前のリオ選考レースを勝ち抜いて中島はパラリンピックに出場。その一方同じ19歳の東海林大(三菱商事)は、実力を期待されながらも標準に届かない泳ぎをしてしまい悔しくもパラリンピック出場を逃した。リオを経験した中島の成長ぶりからも残念に感じるが、大らかな雰囲気を持ち合わせる東海林にはきっと未来が味方してくれるにちがいないと思わせてくれるものがある。200M個人メドレーと100Mバタフライの2種目で世界ランキング1位は東海林がもっている。ジャカルタではリオでは見られなかったトップ争いが実現するだろう。

2020東京へむけたスタート

選考を逃しパンパシフィックパラ水泳には参加できなかったが充実していたと話す一ノ瀬メイ(右前腕欠損/近畿大学)。近大の仲間からのインカレ速報を楽しみに待ちながらの参加 (写真・内田和稔)
選考を逃しパンパシフィックパラ水泳には参加できなかったが充実していたと話す一ノ瀬メイ(右前腕欠損/近畿大学)。近大の仲間からのインカレ速報を楽しみに待ちながらの参加 (写真・内田和稔)

 2020東京パラリンピック開催がきまった2010年以降、峰村監督ら日本のパラ水泳の指導陣も本格的に若手選手の獲得(発掘・育成・強化)に力をいれていた。

 国内のクラブで育ち、2013年のアジアユース(クアラルンプール)で初の国際大会を経験した、一ノ瀬メイ(右前腕欠損/近畿大学)、森下友紀(左前腕欠損/昭和女子大学)、池愛里(左足機能障害/日体大)らは、2014広州(アジアパラ)、2015グラスゴー(世界選手権)、2016リオパラリンピックへと出場しスピーディーに世界を体験している。

水泳チームを率いる峰村史世、日本代表監督 (写真・内田和稔)
水泳チームを率いる峰村史世、日本代表監督 (写真・内田和稔)

 また、ジャカルタへの日本代表選手のうち次世代となる10代の選手は13名。うち昨年のドバイで行われたアジアユースパラゲームズに出場した(15名のうちの)8名がいる。また今年に入ってクラブチームで練習を始めたという16歳の荻原虎太郎(右上肢肩関節全廃/千葉ミラクルズ)は、健常者の大会で好成績を納めていたところから、パラスイムへと転向し国内トップクラスとなった。

 「健常者のなかではレベルが低い大会にしか出れないけれど、パラでは使える部分を使い日本代表選手になれる!」と荻原は話す。練習は健常者と一緒にすることもあり学びが多く、地元千葉の知的障害のクラブ、パラスイム日本代表の練習拠点となっている東京の立教大でも行い、コミュニティをまたいでさまざまに学び楽しんでいるようだ。

昨年ドバイでのアジアユースパラで旗手を務めた、小池さくら(両下肢機能障害/日本体育大学桜華高等学校) (写真・内田和稔)
昨年ドバイでのアジアユースパラで旗手を務めた、小池さくら(両下肢機能障害/日本体育大学桜華高等学校) (写真・内田和稔)

 海外に拠点をおくキャプテン2名が不参加のほか、9月6日の北海道での地震の影響で参加できなかった知的障害の宮崎哲(あいおいニッセイ同和損保)がいた。ゆれによる怪我などはないが、知的障害であるだけに仲間と一緒に練習ができない時間をどう過ごしていることだろう。

 また、災害はいつ、2020大会期間中にも起こるかもしれないことを、この夏の気候による被害、もとい、昨年IPC史上初の世界選手権大会の延期をもたらしたメキシコでの大地震でも思い知らされることが多かった。

 2020東京パラリンピックにむけ最後の総合大会ともなるジャカルタでのアジアパラ競技大会に向け、トビウオパラジャパンの3日間の合宿が始まった。選手たちは合宿後9月22日〜24日に行われる日本最高峰のジャパンパラ水泳競技大会(横浜国際プール)に出場、アジアパラ直前の泳ぎをみせてくれる。

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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