スタートアップがインドの医療を救う?

(写真:アフロ)

日本では医療系のスタートアップはそれほど多くはありません。すでに病院などの医療施設が揃っており、規制も厳しいので、なかなかスタートアップが入り込む隙間がないからです。一方、インドの医療は課題だらけ。そもそも病院のベッド数も足りていないし、基本的な医療も十分に提供されているとは思えません。そうした状況下で、ここ最近インド国内で医療系のスタートアップが立ち上がってきています。こちらの記事によると、モディ政権は限られた財政の中で、これら医療系のスタートアップの力を借りて、インドの医療サービスを拡充させようと目論んでいます。

●インド国内の大きな矛盾

インドの携帯人口は9.3億人以上と言われており、スラムに住んでいる人でも携帯電話を持っていますが、きれいな水を得ることはできません。医療サービスの中心的な監督機関はなく、ほとんどのインド人が保険に加入していません。インドが中進国に追いつくには病院のベッドに500億ドルの投資が必要だといわれています。

2つのインドがあります。一つはバンガロールのように中間層が急拡大していてテクノロジーのハブになっている都市部と、インフラやサービス教育が不十分な農村地帯です。政府の財源は、生活必需品の提供と、施設の設立を目的とした官民パートナーシップに使われます。一方でスタートアップも、ローカル事情を加味してインド人のための問題解決を考える企業と、グローバル市場向けにプロダクトを開発していく企業にはっきりと分かれます。

2014年の世界経済フォーラムでは、ハーバード大学公衆衛生学部はインド経済に非感染性疾患が影響を与えるデータを公表しました。それによるとインドは非感染性疾患と精神疾患により、2030年までに4.58兆ドルを失う見込みです。新政権であるBJP政権は、市民の基本的なニーズを満たそうと考えているインドの社会企業家をうまく利用しようと考えています。

●医療系スタートアップの取り巻く環境

医療系スタートアップの道を切り開く要因は、1.GDPの成長率、2.スマートフォンの普及、3.人口の半分を占める25歳以下の3つになります。アクセル(USの投資会社)のような大企業は3億ドルを投資していて、買収やエグジットは一般的になってきています。昨年(2014年)だけでも、年間の資金調達は、昨年の3倍で300以上のディールで50億ドルにのぼります。

●インドの代表的な医療系スタートアップ

※下記は、弊社インターンの井上君(元薬剤師)が代表的なサービスを利用してみた感想になります。

<PORTEA> http://www.portea.com/

自宅診療・ナーシング・理学療法などの専門医・看護師などを自宅に呼べるサービス。名前・email・電話番号・都市を入力したら、10分ほどでオペレーターから連絡が来ました。完全なネット完結型のサービスよりも高齢者にはフレンドリーかと思います。管理画面からは予約・治療歴の管理、オンライン決済、検査値の記録などが可能のようです。日本でもお薬手帳などを電子化する試みが何度も行なわれては失敗していますが、このようなプラットフォームで一括管理できれば受診歴や併用薬の管理が簡単で効率的になります。これらの記録が単なる自己管理用なのか医師も利用できるのかによって意味合いは大きく異なりますが、基本的には時代のニーズに合ったサービスかと思います。友人を紹介すると500ルピー分の割引クーポンがもらえるようで、そういったところも医療サービスの値引きが禁止されている日本とは違って面白いと思いました。

<Practo> https://www.practo.com/

PORTEAのように自宅で医療を受けるのではなく、受診する病院などを選ぶための情報提供/共有と予約管理のサービスです。そのため、前提として多くの選択肢を持っている都市居住者が主なターゲットという印象です。PORTEAが医療・介護に特化しているのに対して、Practoは幅広いサービスを提供しています。現時点では病院、クリニック、診断センター(治療は行なわず、検査と診断に特化した診断センターがインドには多くあります)など医療系の他、スパ、ヘアサロン、ネイルサロン、マッサージ、スポーツジムなどがあり、近日中にヨガ、エアロビクス、ピラティスなどが追加されるようです。密に提携している医師とは以下の画像のようにオンラインでの予約が可能で、それ以外の医師や施設は電話番号が記載されているだけでした。インドでのオンライン予約がどの程度機能するのかは個人的にはやや疑問もありますが、上手く使えば駐在員にも便利なサービスになり得ると思います。自分が確認した範囲内ではオンライン予約が可能なのは一部の医師のみで、ヘアサロンやジムなどはまだ対応していないようでした。また、モバイルアプリもあるようです。アプリだけの機能としては、Uberと連携して予約した病院に直行できる、というのが個人的には面白いと思いました。

<lybrate> https://www.lybrate.com/

ビデオ電話を用いた自宅での診療サービス。僻地の医師不足・病因不足に対する一つの答えとして興味深いですが、基本的に問診しか行なえないという大きな欠点もあります。登録されている中には歯科医などもいますが、どのように診察をするのか僕にはわかりません。処方箋をもらっても近くに薬局がなければ、服用開始までに時間がかかることも問題です。遠隔医療とは別に、緊急時の相談窓口などという側面もあると思われます。Topカテゴリーの欄には以下の7つがありました。これを見る限り突発的な陣痛の際の対応や、自殺防止ホットラインのような役割も果たしているのではないかと思いました。またSexologistは直接受診するのが恥ずかしいという人、特に女性に対してニーズがあると思われます。利用は簡単で、ウェブサイトから希望する医師のスケジュールを確認し、予約するだけ。医師の予定が空いていればNOWから即時対応も可能と思われます。また、practo同様モバイルアプリもありました。

それぞれターゲットやビジネスモデルが異なっており、うまく棲み分けが出来ているのが印象的でした。ただし、一人で複数のサービスを使ってしまうと、上述の受診歴や併用薬の管理というメリットが機能しなくなるのは薬剤師としては少し心配です。また、ユーザーのリテラシーが不十分な状態で先進的なサービスが提供されることにたいする懸念もあります(たとえば、即日入院すべき症状をビデオ通話だけで済ませようとする、など)。この辺りの啓蒙も合わせて進めていく必要があると感じました。いずれにしても、いままで医療を受けられなかった人に対しての選択肢を提示できるのは大きな進歩かと思います。また、全体的に日本の医療者としての立場で考えてしまいましたが、ユーザーとしての利便性はかなり高いと思われます(ビデオ通話の回線の問題や、オンライン予約のダブルブッキングなどの問題がクリアできるのなら、という条件付きですが)。また、日本で同様のサービスを行なうには法整備・医療保険制度・既得権益などが大きな壁になると思われるので、非常にインド的で興味深いシステムだと思いました。

●まとめ

インドの医療系スタートアップは、インドローカルの課題に向き合いながら発展しています。日本では医療を受けるときに病院を選ぶことから始まりますがインドでは医師を選びます。日本では病院へ来訪することが多いですがインドでは医師が自宅へ来てくれる在宅医療や遠隔医療も進んでいます。ユーザーの利便性を獲得したイーコマースと同様にインドの医療サービスも今後爆発的に伸びることが予想されます。