インド人材のマネジメントのコツは?

今回は、インド駐在歴8年目になるパソナインディアの谷さんにインタビューしました。

【雇用ミスマッチを防ぐマッチング力が問われるインド】

”優秀なローカルスタッフ”を熱望する声が高まっている。

ーー谷さんは、TEAM PASONA INDIAの立ち上げをされたんですよね。

そうですね。2007年の1月にインドで創業した時からなので、僕自身はインド駐在歴が8年目になります。TEAM PASONA INDIAも当時はインドの企業と合弁会社でした。トップ同士が懇意だったこともあり『事業を一緒にやろう』ということで、インドに進出することになりました。それが今年の1月に、パソナ100%の出資率に変わり現在に至ります。

ーー現在、パソナ社全体が海外展開に乗り出しているのですか?

北米やアジアを中心に12地域41拠点で展開しており、最近はインドやASEANからのニーズが特に高いです。また、会社全体の売り上げのなかでも、海外の割合を増やしていこうという流れも生まれています。基本的には海外へ進出する日系企業がメインクライアントですが、国によってはローカルクライアントに力を入れているなど、オペレーションは各国のトレンドやニーズに応じて対応しています。

ーーTEAM PASONA INDIAでは、どういった事業を展開しているのですか?

現在、事業の柱は人材紹介と人材派遣の半々になっています。クライアントからのご依頼は90%以上が“インド人の採用について”で、みなさんが『日系企業に合うであろう優秀な現地社員を採用したい』という想いを持たれています。しかしながらインドでは、日系企業の歴史が浅いこともあり、インド国籍の方で日系企業の良さを知っている人がそもそも少ない。それにインドは口コミが強い国で、『友達も働いていないのに、どうして日本の会社に行くんだ?』と思われてしまうんですよ。

ーー日系企業の認知がそこまで低いとは、意外ですね。

ただ、こうしたなかでも、嬉しいことに去年くらいから口コミでパソナを利用してくれる方の割合が増えてきたんです。『友達がパソナ経由で転職したから』『友達にいい会社がないか』と紹介で来て下さっています。やはり”イイ人の友達はイイ人”の割合が極めて高く、改めて口コミの力を感じています。日系企業で活躍するローカルスタッフが増えるなかで最近見受けられるのが、ローカルスタッフをマネジメントする際に『日本のやり方が良いのだ!』と押し付けてしまって、反感を買うパターンです。採用から採用後のマネジメントや適切な人事制度の構築等までを行ってはじめて良いマッチングが実現します。

【誰もが悩む、インド人材のマネジメント】

日本の人事とインドの人事、ここまで違うんです。

ーー日系企業のマネジメントがうまくいかないということですが、どういったところが課題なのですか?

状況や業種によって違いますが、権限委譲ができないことですね。逐一進捗管理しなければいけなかったり、自分でやるしかないということも…。規模がある程度小さい時は社長が全体のオペレーションを見られますが、組織が大きくなってきた時に仕組みを創れるのか、仕組みを守れるのか、できているのか、それらをできる人がいるのかという課題が生まれます。

ーーそれらの課題が解決されるにはどうすればいいのですか?

優秀なローカルスタッフを採用する、です。それも給料は日本人と同じくらいで、マネジメントクラスに配置できるような人材を雇うことをオススメします。時々、人事担当者が、自分がコントロールしやすい人を採用するケースを聞きますが、『俺が採ってやったんだぞ!いつでもクビを切れるんだぞ!』という採用ではお互いウィン・ウィンの関係は生まれません。

ーーそれは、日本の人事のイメージとは大きく異なりますね。

そうですね。同じ「人事」といっても日本のイメージにあるような”良い人材を育てる、今持っている力を伸ばす、評価制度を創る”という概念はあまりインドの人事業務にありません。海外で社員を採用する際は、職種や業務内容について、その国の考えや商習慣を考慮したうえで採用することが重要になります。

【インド人材は、風通しのいい会社を求めている】

押し付けるマネジメントは、良いものを生んでいない。

ーーだいたいの企業様がマネジメントや勤怠管理について悩んでいますよね…。

そうですね。転職することでキャリアアップを図るインド人が多いため、ひとつの企業で長く働いている人は珍しいんですよね。ただ、同じ企業に長く勤めるインド人には、すぐ辞めてしまうインド人と典型的な違いがあるんです。長く勤める人に『どうして転職しないのか』と聞いてみたところ、だいたいみんなが『風通しの良い会社にいるから』と答えるんです。

ーー風通しがいい、とは?

それは自分のことを評価してくれて、適宜給与もポジションも引き上げてくれて、サポートしてくれて、自分の言いたいことに聞く耳を持ってくれる、そんな上司に恵まれている社風のようでした。そういった環境で長期的に見据えて働けるローカルスタッフと企業を結びつけるべく、TEAM PASONA INDIAでは新しく研修事業を立ち上げました。

【インド人は、働き方を知らないだけなんです】

採用後のリスクをサポートするため、パソナの研修事業という強み。

ーーインドでは研修を事業として打ち出している企業も珍しいと思いますが、研修を始めたキッカケは何ですか?

お客様のニーズをもとに始めました。インドのローカルスタッフを紹介するなかで、採用のミスマッチを防げるよう選考や面接等は行ってきましたが、採用後、働き始めた後のケアの必要性を感じるようになりました。

ーー採用後のケア、ですか。

社員の能力のミスマッチではなく、日本企業の商習慣や日本独特のコミュニケーション等を知らないがゆえに職場でのミスマッチが起きていました。彼らの働き方としても日本の会社で働くというベースを持ち合わせていないことから、企業からも評価が下がり不満が生まれてしまっていたんです。だからこそ、採用後にクライアント企業をサポートできないかと思い、昨年の10月から研修事業をスタートさせました。

ーーどうしてそのような、クライアントとインド人材の乖離が起きてしまうのでしょうか?

インド人は難しいことや専門知識を持っていても、基本的な「働く姿勢」や「キャリア感」が日本人と異なる、つまり職場でのカルチャーギャップがあるんです。このギャップを解消するために、ビジネスマナーや「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」等、日本独特のビジネス文化を伝える研修事業を本業の派遣と紹介に加えました。

ーーインド人材にとって、世界で活躍するためにも必要不可欠なものですからね。

そうですね。自分の今後のキャリアに役に立つこと以外にも、今の仕事に役に立つことを学んでほしいと思っています。それに、インドの方は向上心が強いんです。インドでは大学を卒業しても、その後2年間は仕事しながら資格取得に費やす方がとても多いんです。MBAなどの資格を取ってはじめて日本でいうところの4年制大学卒業なんでしょうね。

【研修が必要なのは、日本人も一緒です】

ボトムアップとトップダウン。真逆のマネジメントが乖離を生んでいた。

ーー具体的にはどのような研修を行っているのですか?

研修には2パターンあり、ひとつは日本や香港にあるパソナグループの日本人講師を呼ぶ研修。そしてもうひとつは、高いキャリアを積んできたインド人による研修です。このインド人講師は、1人は日本に10年住んだ経験をもち日本語も流暢で、教育研修に熱意を持っている方。もう1人は日系の銀行で副支店長を歴任し、日系企業で働くインド人に足りないものを気づいて実行してきた方。そのような二人を講師に招き、10回以上研修しています。

ーー後者の研修のお話を聞いていると、日本人の感覚とインド人の感覚をうまく繋げることが大事なんですね。

ローカルスタッフは日本の企業で働くわけですから、理念やビジョンを理解したうえでのマインドセットが必要ですよね。でもそれは、実は日本人にも必要なことなんです。インドで働く、海外で働くうえで、改めて外国籍の方や異文化のチームをマネジメントする仕方について、日本から講師を呼び、日本人向けの研修もスタートしました。

ーー日本人インド駐在社員向けの研修まであるのですか?

日本とインドは、マネジメントにおいて根底から違うからこそ必要なことなのです。日本の多くの企業は、自分たちで課題を見つけて解決策を考えて、上司に確認をとりにいき、上司が現場の人たちとは違う視点で良い・悪いことをジャッジする「ボトムアップ」のマネジメント。一方でインドでは、すべて権限を上司が持っていて、部下がその指示のもとやる典型的な「トップダウン」のマネジメントなんです。

ーーそうして整理すると、たしかに真逆なのですね。

このように日本でボトムアップのマネジメントのなかで働いてきた人が、トップダウンでいきなりやれと言われても無理なわけです。

このようなギャップをいかに解消し、前述にもあったような、いわゆる”風通しの良い会社”作りができるかは社員の意識変化や仕事の進め方の研修が必要になります。

【本当の意味で優秀なインド人材に出会わないと、戦えません】

キャリアにおける、欧米と日本の違いで生まれる『差』

ーーただ、人の問題となると答えがないですよね。

そうですね。インドには優秀な方が多くいます。ただ、担当以外の業務は『何も知りません』となってしまうのもよくあるパターンです。

そこをうまくマネージし、その人を活かすか、あるいは、特定の専門分野より総合的にバランス良く業務ができる人を採用するのか、ここが大きなポイントにはなってきます。

ーー優秀なインド人を採用することは、よほど大変なことなのですね…。

本当に優秀なインド人は、『こんな人見たことない』というくらい優秀なんですよ(笑)。以前お会いした方で、会話も早く、理解も早く、年収は1000万という方がいらっしゃいましたね。そこまでいかなくても、そうなりうる方もいるわけで、そこをうまく日系企業が採用できれば万々歳なのに…と思う一方で、このような優秀な人材も組織の中での立場や他の社員とのシナジーがうまくいかなければせっかくの才能が活かしきれないまま終わってしまいます。

ーー優秀な人材は取り合い?

在印のフランス系の会社で、取締役のインド人の方がいるのですが、その方が敏腕の方で。東南アジアで工場を立ち上げたとか、中国でマネジメントをしていたとか、とにかく実力がものすごいんです。欧米系企業ではそういった人材を採用し、マネジメント層に起用しているんです。一方で日系企業は、優秀な人を他社から引き抜く文化があまりない上、予算ありきで採用活動を行う場合が多いため、給与や待遇の条件で外資企業に負けてしまうこともあります。

ーーなるほど、だからこそどうしても良い人材

”本当の意味で”優秀な人材を確保する、優秀な人材を育てていくことをしないと、太刀打ちできないんです。インドに進出する日系企業も新たな成長ステージに突入しているところも多く、本当の意味で『エグゼクティブ人材がほしい』と言われるようになったように感じますね。

【インドで成功するものは、まだまだ日本に沢山あります】

一度たりとも同じ日のない、刺激的な国で。

ーーもしそれだけ勢いと能力のある優秀なインド人がより増えれば、日本人でインドで働く意義をとられてしまいそうです。

頑張らないと負けちゃいますよね。インドというローカルの場所に、日本から来て何ができるのか考え続けなければいけません。製造業なら技術を持っていますが、自社の強みをしっかり考えていなければ『インドに何しに来たの?』となりかねないですから…。

ーーそこに関しては、谷さんも意識していますか?

私自身、インドに来て8年が経ちましたが、『5年間は何が何でもインドで歯を食いしばって頑張る』と決めていました。そうして5年を越えてからも、インドで新しいことをやりたいと思ったり、仕事が面白いと思うからこそ、こうしてインドに居続けているんですよね。インドにいて同じ日は、一度たりともないです。毎日大きなニュースが飛び込んでくる、それだけインドはマーケットの期待も高いです!

ーー日々変わりゆく市場だからこそ、事業をしていてもやりがいがありそうですね。

最近、日本の企業から、アメリカへの新規進出のお問い合わせが増えています。今さらという感じがあっても”今だからこそ”と進出する企業も多い。ただ、『またそろそろインドが来る』とも感じます。経営者の方々は、インド市場を無視できない、これから来る兆しがある国であることを実感されていますね。

ーー特に日本からまだ進出の少ない小売業がインドに進出したら、もっと市場が明るくなりそうですよね。

はい。ユニクロ様もインド進出を検討していますが、とても売れると思います。日本に出張した時にインド人社員を店舗に連れて行ったのですが、帰りたがらないほど気に入っていました(笑)。あの高いクオリティなのに、あの価格で提供できるところにインド人も魅了されていました。この例にもあるように、今後も日本からインドに進出してうまくいくもの、持って来られるものは沢山あると思います。(協力・みやけよう

パソナインディア谷さん
パソナインディア谷さん

関連リンク

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