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ウィル・スミス、クリス・ロックに仕返しの場を与えたNetflixに憤慨。ショーは見ず

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
クリス・ロックに平手打ちをした後も、ウィル・スミスは会場に残り受賞スピーチをした(写真:ロイター/アフロ)

 ウィル・スミスが、顔に平手打ちされたような気分を味わっている。アメリカ時間先週土曜日にNetflixがライブ配信したスタンダップコメディショー「Chris Rock: Selective Outrage」の中でクリス・ロックにネタにされたことを屈辱に感じ、傷ついているというのだ。

「ETonline」がスミスに近しい人の話として伝えるところによると、スミスはショーを見ていないが、ロックの発言については周囲の人たちから聞いたとのこと。ソーシャルメディアやネットはこの話題で持ちきりなので、世間がどんな反応をしたかも知っているという。

 昨年のオスカー授賞式でプレゼンターとして舞台に立ったロックが自分の妻をネタにしたことにブチ切れ、舞台に上がってロックを平手打ちしたことのツケを、スミスはこの1年、たっぷり味わってきた。「ETonline」によれば、「アカデミー主催のイベントに今後10年出席できないという制裁も受けたし、もう自分は十分やった、クリスも世間の人たちももうあのことは忘れてほしい」とスミスは思っていたそうだ。だが、事件が起きた当時は冷静を保ち、ほとんどコメントしなかったロックが、今になって思うことを遠慮なくぶちまけたのである。

 スミスは、ロックがそれをやれるためのお膳立てをしてあげたNetflixに対しても怒っているとのこと。このショーでロックがあの平手打ちについて何か言うであろうことは前から予想されており、それを期待して見た人も多いと思われ、その意味で確かにNetflixは共犯かもしれない。しかも、あちこちの都市を回ってショーを行っているにもかかわらず、ロックは、このライブ配信を行う場所にあえてスミスの妻ジェイダ・ピンケット=スミスの故郷であるボルチモアを選んでいる。そのゆかりある場所で、ロックは、ロックとスミス夫妻の確執はそもそも7年前にピンケット=スミスが始めたことなのだと世間に言ったのだ。「これは彼女が始めた。僕はそれを終わらせただけ」と、ロックはこのショーで容赦なく夫妻をネタにした理由を語っている。

1時間強の「Chris Rock: Selective Outrage」の中で、ロックはスミス夫妻のほかにメーガン妃もネタにした(Kirill Bichutsky/Netflix 2023)
1時間強の「Chris Rock: Selective Outrage」の中で、ロックはスミス夫妻のほかにメーガン妃もネタにした(Kirill Bichutsky/Netflix 2023)

 それを「終わらせた」のが今のタイミングだったのも、偶然ではないのではないか。オスカー授賞式が間近に迫る中、業界はまた、あの平手打ち事件のことを思い出している。先月、アカデミーのCEO、ビル・クレイマーは、今年のオスカーにクライシス(危機)チームを配置すると述べた。それはオスカーの歴史で初めてのこと。「私たちはいろんな可能性を想定してみた。予想しなかったことが起きても対処できるよう願っている。何かが起こった場合を考え、備えている」と、クレイマーは語っている。

 事実、昨年のあの事件に関しては、アカデミーも強く非難された。スミスによる暴力を目の当たりにしながら何もせず、スミスがそのまま会場に残って受賞スピーチをすることを許したのだから当然だ。暴力を振るったのが主演男優賞受賞を予想されているビッグスターのスミスではなく、たとえば撮影監督や美術監督などだったりしたらすぐに追い出されたのではないかと、特別扱いを指摘する声も出た。だが、あの時は、「警察に被害届を出しますか」と聞かれたロックも、出さないと答えたのだ。それもかなり関係している。スミスはそのことを忘れるべきではない。今、絶妙なタイミングで仕返しされたことは悔しいかもしれないが、もしあの直後にロックが被害届を出すと決めていたら、もっと大変な展開になっていたはずである。

 さて、そのロックはと言えば、言いたいことを言ってすっきりしたようだ。「ETonline」は、事情を知る人の話として、ロックは「前から言いたかったことを全部言えた。それらはファニーで、自虐的で、挑発的で(満足だった)」と伝えている。そんなロックは、もうこれはここでおしまいにし、これからは前に進むつもりでいるそうだ。「僕はこれを終わらせた」とロックが言ったのは、文字通りだったのかもしれない。だとしたら、スミスにとってもそう悪くないのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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