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アン・ヘイシュが死去。兄姉3人、父も早くに亡くした壮絶な人生

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
先週、大きな車の事故を起こしたアン・ヘイシュ(写真:REX/アフロ)

「ボルケーノ」「6デイズ/7ナイツ」で知られるハリウッド女優アン・ヘイシュが亡くなった。53歳。大きな車の事故を起こしてから1週間後の死となった。

 西海岸時間先週金曜日、ヘイシュは、ロサンゼルスの住宅街を猛スピードで運転していたところ、コントロールを失い、民家に激突。車に突っ込まれた家はたちまち激しく燃え始め、59人の消防隊員が駆けつけたものの、ヘイシュの車を家から出すのに1時間がかかった。

 ヘイシュは病院に搬送されたが、重体。現地時間昨日には、生き延びられる見込みはないことを家族が発表していた。幸い、家の持ち主とペットは近所の人に助けてもらうことができ、無事だったという。

事故現場の模様。ヘイシュの運転する車は家に突っ込み、燃え始めた
事故現場の模様。ヘイシュの運転する車は家に突っ込み、燃え始めた写真:Splash/アフロ

 5人きょうだいの末っ子であるヘイシュは、きょうだいのうち3人と父をすでになくしている。姉のひとりは脳のガンで、もうひとりの姉は生まれつき心臓が悪く、幼い時に死亡。兄は高校卒業の1週間前に車の事故で亡くなった。ヘイシュは兄の死は自殺ではないかと疑ったが、ヘイシュの母は否定。それでも、「その3ヶ月前に、ホモセクシュアルの父が(AIDSで)亡くなったという事実は、彼を混乱させたのかもしれない」とも、母は過去にテレビのインタビューで語っている。

 亡くなった時、父は45歳、ヘイシュは13歳。ヘイシュは幼い頃、父に性的虐待を受けたと述べている。ヘイシュによれば、そのことを伝えても、母は信じてくれなかった。母は今もこの事実を「信じない」と断言。唯一生き残っているヘイシュの姉も、幼い頃からヘイシュの記憶には信頼できないところがあるとし、父による虐待はなかったと思うと語っている。

 ヘイシュはオハイオ州オーロラ生まれ。一家は貧乏で、教会で知り合った人のリビングルームに寝かせてもらったこともあった。女優デビューのきっかけは、シカゴに住んでいた16歳の時、高校の劇に出たこと。それがタレントエージェントの目に止まり、オーディションを勧めてくれて、ヘイシュは見事に合格したのだ。

 その後、いくつかのテレビ出演を経て、インディーズ映画「Walking and Talking」(日本未公開)に主役級で出演。その翌年には「フェイク」でジョニー・デップやアル・パチーノと、「ボルケーノ」でトミー・リー・ジョーンズと共演した。それから「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」、「ラストサマー」などの映画が続き、「6デイズ/7ナイツ」でハリソン・フォードの恋のお相手役を演じる。同じ年にはガス・ヴァン・サントの「サイコ」にも主演した。

 ちょうどこの頃、私生活では、大人気コメディエンヌ、エレン・デジェネレスとの交際がメディアを沸かせている。女性同士の恋愛をオープンにするのは、1997年当時、相当に画期的なことだったのだ。カップルは3年後に破局。デジェネレスと別れた直後、ヘイシュは、ロサンゼルスの北にあるフレスノ郡の田舎街をブラと短パン姿で歩き、見知らぬ人の家を訪れて、シャワーを浴びさせてもらうという奇怪な行動を取っている。その家の主が警察に通報し、ヘイシュは精神科に連れて行かれたが、数時間後に釈放された。

エレン・デジェネレスと
エレン・デジェネレスと写真:ロイター/アフロ

 ヘイシュが交際した女性は、デジェネレスだけ。デジェネレスと別れた翌年には、カメラマンのコールマン・ラフーンと結婚し、ひとり息子を授かっている。夫妻は5年後に離婚。その翌年、ハッシュは俳優ジェームズ・タッパーとの間に新たな息子をもうけるも、破局後、親権問題で長いこと揉めることになった。

 近年、ヘイシュは、大きな作品にはあまり出ていないものの、コンスタントに仕事をこなしてきている。2020年にはコンテスト番組「Dancing with the Stars」にも出演した。最近出演した映画は「13 Minutes」(日本未公開)。今後公開を控える作品は、映画「Supercell」、テレビシリーズ「The Idol」などがある。

 ヘイシュの長男ホーマーは、「今日、弟アトラスと僕は、母を失いました」と声明を発表した。「僕は、今、言葉にならない深い悲しみを感じています。母が痛みから解放され、永遠の自由を探索し始めたことを願います」とも語る彼は、「アイラブユー、ホーマー」という言葉で、声明を締めくくっている。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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