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アンバー・ハード、控訴には賠償金全額と利子が必要。利子だけで毎年6,800万円

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判が、ついに終盤を迎えた。現地時間本日24日、判決命令に署名がなされ、正式に裁判記録として残されたのだ。

 この日程は、陪審員が判決を出した今月1日、ペニー・アズカラテ判事がデップとハードの弁護士に伝えていたもの。陪審員は、ハードに合計1,500万ドルを払うこと(ただし、ヴァージニア州では懲罰的賠償金に上限があるため、判事によって1,035万ドルに引き下げられている)、デップに200万ドルを払うことを言い渡したが、判決が正式になる本日までの間、双方には歩み寄る時間があった。そのため、巷では、今後一切名誉を毀損する発言をしないことを条件に賠償金をチャラにするとデップがオファーするのではないかとの予想がささやかれてきたりしている。しかし、それどころか、この間ハードはテレビに出て裁判での自分の証言を死ぬまで貫くとまで宣言。結局、双方が話し合うことはなかったようで、陪審員の判決がそのまま最終命令となった。

 今日はデップもハードも法廷に出席する必要がなかったせいか、裁判所にカメラは入らず、生中継は行われていない。だが、法廷内に入ったYouTubeチャンネル「Law & Crime」のアンジェネット・レヴィがレポートするところによると、短い時間であっさりと済んだとのことだ。先日のハードのテレビインタビューを受けて、デップの弁護士が判事にこういった発言の差し止めを要求するのではとも言われていたが、それもなかった。

 レヴィはまた、ハードの弁護士イレーン・ブレデホフトが控訴へのステップについて判事に質問をしたとも報告している。そのやりとりの中で、控訴に必要な保証金について聞かれると、判事は、ハードが払うべき賠償金全額と、1年あたり6%の利子と答えた。控訴をするために賠償金のいくらかが保証金として要求されるのは普通だが、30%か40%ほどを入れればいいという場合もあるらしい。しかし、今回は全額だというのである。また、控訴をするならば、今から30日以内にしなければならない。デップがハードに支払う分を差し引いた835万ドルを、ハードは即座に用意しなければならないのだ。

 さらに、6%の利子。これはヴァージニア州の規定のようである。本来そのお金を受け取れるべき人(今回の場合はデップ)が、相手が控訴したせいで受け取りを引き延ばされることへの代償として発生するもののようだ。835万ドルの6%といえば、50万1,000ドル。日本円にして6,800万円が、控訴の実現を待っている間、毎年出ていくということ。しかも、控訴には長い時間がかかる。1回で済むという保証は到底ない。

 判決が出た直後に出演したテレビ番組で、ブレデホフトは、ハードは賠償金を「絶対に払えない」と断言していた。たしかに、ハードはそんな大金を持っていないはずだ。これは彼女にとって大きな壁だろう。しかし、いつものことながらハードは強気だ。この判決命令が記録されてまもなく、ハードはスポークスパーソンを通じて声明を発表している。その中でハードは、トランプが望む通り選挙結果を覆そうとした共和党議員が恩赦を求めたことを例に出し、「昨日の議会公聴会で言われた通り、無実だったら恩赦は求めません。自分が正しいとわかっていたら、控訴を拒否することはしません」と述べた。つまり、控訴をする意思に変わりはないということだ。

デップが控訴する可能性も?

 興味深いことに、勝訴したデップもまた、今になって控訴への可能性を示唆している。この判決命令が正式になった後、デップは、不服を申し立てる書類を提出しているのだ。

 陪審員は、デップの友人で弁護士のアダム・ウォルドマンがイギリスのメディアに語ったことのひとつがハードへの名誉毀損に当たると判断し、デップに200万ドルの支払いを求めた。だが、その書類の中で、デップはその判断は不当であり、200万ドルという金額も過剰だと主張。さらに、最終弁論でハードが「デップに勝たせたらほかのDV被害者たちにメッセージを送ることになる」と述べたのは不適切で、裁判所はそれを許すべきではなかったと指摘した。これはふたりの問題であるのに、社会的問題として判断しろと陪審員に言ったことになるからだ。

 ハードが払う分と差し引きすればデップに支払いはないし、デップは最初からお金の問題ではないと言ってきている。だが、真実と正義を追求する彼は、全体から見れば小さなことであっても、この判決に納得がいかないのかもしれない。いずれにしても、この件はまだ完全に解決はしていない様子だ。今日は、第1章の終わりだったということだろう。次の章では何が起こるのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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