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アンバー・ハード、テレビで語る。「なぜ私の言葉を信じてもらえないのかわからない」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
テレビの独占インタビューに応じたアンバー・ハード(NBC)

「3週間半も証言を聞いたのに、どうして私が信頼に値しない人だと思うのでしょう?」

 今月1日、ジョニー・デップとの名誉毀損裁判に敗訴したアンバー・ハードが、テレビのインタビューでそう語った。

 この独占インタビューを行ったのは、NBCの朝番組「Today」でキャスターを務めるサヴァンナ・ガスリー。全部で1時間に及ぶインタビューは現地時間今週金曜日夜に放映されるが、それに先立ち、「Today」の中で一部が少しずつ公開されていく。冒頭の言葉は、月曜日に放映された2分弱の映像でハードが述べたものだ。

 このごく短い映像を見ても、ハードがまだ自分はDVの被害者であると訴えているのは明らか。この映像の最初で、彼女は「人が私のことをどう思うのか、私の家、私の結婚生活、閉ざされた扉の向こうで何が起こっていたと思うのかについては、気にしません。普通の人がそういうことを知っているとは思っていませんから」と述べている。だが、続いて「ですが、私がこれだけ嫌われるに値すると思っていたとしても、私が嘘をついていると思ったとしても、私の目を見てソーシャルメディアがフェアだったとは言えないと思います」と、ソーシャルメディアでデップ支持者の声が圧倒的に強かったことへの不満を漏らした。

 ハードの弁護士イレーン・ブレデホフトは、敗訴の翌日、ふたつのテレビ番組に出演し、ソーシャルメディアが判決に影響したに違いないと語っている。裁判の間、陪審員は、ソーシャルメディアも、一般メディアのこの件に関する報道も見てはいけないと言い渡されていたが、ブレデホフトは「毎日帰宅すればそこには家族がいます。家族はソーシャルメディアを見ています」と、陪審員らが規則を破っていたことを暗に示唆した。根拠もないのに陪審員を責めるこの彼女のやり方に批判が寄せられたからだろう、ハードはこのインタビューで「陪審員のことは責めません」と言い、ダメージコントロールを図っている。

「彼らのことは責めません。実際、気持ちはわかりますよ。彼(デップ)は愛されるキャラクターですからね。人は彼を知っているように思うのです。彼はすばらしい俳優ですから」。

 それを受けて、ガスリーは、「陪審員は、そういうことに心を奪われてはいけないのです。彼らの仕事は、事実と証拠を見ること。そして彼らはあなたの証言と証拠を信じなかったのです」と、きっぱりと言った。するとハードは冒頭のコメントをしたのである。

 その少し前にも、ガスリーは、「もっと優しい言い方をすることができればいいんですけど、陪審員はあなたが提出した証拠を見て、あなたの証言を聞いた結果、あなたを信じなかったのですよ。彼らはあなたが嘘をついていると思ったのです」と言っている。それに対して、ハードは「どうして彼らはあんな判決をしたのでしょう?3週間以上もあそこに座って、給料をもらっているスタッフからのたくさんの証言を聞いたのに」と言った。

 もちろん、それは正しくない。裁判では、デップのアシスタントや彼が所有するバハマの島の家の管理人などデップから給料をもらっている人たちだけでなく、ふたりが住んだペントハウスのスタッフや、ふたりが泊まったトレーラーパークのマネージャーなど、中立な立場にいる人たちも多数デップのために証言をしているのだ。

 そして、ケイト・モスもいる。デップの弁護士ベン・チュウによれば、デップの過去の恋人モスは、裁判で証言をしたいと自分から言ってきてくれた。ハードが証言の中で、「ケイト・モスのことを思い出し、妹が(デップによって)階段から突き落とされると思ったから自分はデップを殴った」と言ったからだ。彼女がモスの名前を出してきたせいで、デップの弁護団はモスに証言してもらう道が開けたのだが、モスはとてもプライベートな人なので、遠慮していたのだという。イギリスからビデオで証言したモスは、陪審員に向けて、デップから階段を突き落とされた事実は一切ないとはっきり述べている。

プライベートジェットの謎が解けた?

 Deadline.comが報じるところによると、このインタビューは、先週木曜日、ニューヨークで行われたとのこと。周囲に知られないよう、NBCの本社ではなく、別の場所が用意されたようだ。

 その事実は、ひとつの謎につながった。ワシントンDCの空港でプライベートジェットから降りてくるハードのパパラッチ写真が、先週金曜日、ゴシップサイトTMZに掲載されているのである。

 このパパラッチ写真が出た時、ソーシャルメディアには、デップへの賠償金を「絶対に払えない」と言っているのに、なぜプライベートジェットを使えるのかと疑問の声が飛び交った。たしかにハードは今、たとえファーストクラスであったにしても普通の飛行機に乗るのは大変だろうとはいえ、プライベートジェットは究極の贅沢で、手が出るものではない。元恋人イーロン・マスクが手配してあげたのではとの憶測も出たが、TMZの記事にもハードがニューヨークでのミーティングから帰ってきたとあったことを考えれば、これはNBCの手配によるものだったのではないかと思われる。

 プライベートジェットから一緒に降り立ってきた中には、ハードの妹ウィットニー・ヘンリケスの姿もあった。ヘンリケスの元雇用者ジェニファー・ハウエルによれば、暴力をふるうのはハードでデップではないと、当時ヘンリケスは常に語っていたという。また、デップによれば、ハードはヘンリケスをサンドバッグのように扱っていた。彼女もハードのDVの被害者なのだ。

 それでも、ヘンリケスはハードを支えてくれる。妹は、ハードに残された数少ない味方のひとり、いや、ほぼ唯一の味方だ。ハードは、世の中の人たちも、この忠実な妹にならってくれることを望んでいる。長い裁判でできなかったそのことを、1時間のインタビュー番組で果たすことができるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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