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ジョニー・デップ裁判:デップに捨てられた人たちの恨み節

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップに捨てられた人たちが、ここぞとばかりに恨みを晴らした。アンバー・ハードを相手にした名誉毀損裁判で、ハード側の証人として呼ばれ、デップについてのひどい思い出を語ったのだ。

 そのうちひとりは、女優のエレン・バーキン。「ラスベガスをやっつけろ」(1998)で共演する前から友達だったバーキンとデップは、バーキンがニューヨークからデップの住むロサンゼルスに引っ越したのをきっかけに肉体関係を持つようになった。バーキンによると、関係が続いたのは3ヶ月から6ヶ月ほど。その間は、週3日ほど、どちらかの家で会った。デップが酒やドラッグを使っていたかと聞かれると、バーキンは、彼はいつも飲んでいて、コカインやマリファナなどを使っていたと答えている。だが、「ハイにはなるものの、態度が変わることはなかった」とも述べた。

 イギリスのタブロイド紙を相手にしたデップによる2020年の名誉毀損裁判でも証言していたことだが、この裁判でもバーキンは、「ラスベガスをやっつけろ」の撮影でラスベガスに宿泊していた時、デップが、友人だったかアシスタントだったかに対して怒り、ワインのボトルを部屋の向こう側に放り投げたのを目撃したと語っている。バーキンやほかの人たちがいたほうに向けてではあったが、誰かに向けて投げつけたわけではなく、誰にも当たらなかった。そのボトルが空だったのか、中にまだワインが入っていたのかという質問には、「覚えていない」と答えている。

 バーキンは、デップが嫉妬深い男だったとも語った。バーキンの背中に引っ掻き傷を見つけると、デップはバーキンが誰か別の男と寝たのだろうと疑ってきたそうだ。バーキンによると、ふたりの関係は、バーキンがデップより早くラスベガスから家に帰ったことで終わった。「その後は一切、彼から連絡がありませんでした」と、バーキンは述べている。

ビデオで証言をしたエレン・バーキン(Law & Crime)
ビデオで証言をしたエレン・バーキン(Law & Crime)

 デップは嫉妬深く、いつも自分の浮気を疑っていたと主張してきたハードは、ビデオによるバーキンの証言を聞きながら、満足そうな笑みを浮かべていた。一方で、デップは過去に、バーキンは真剣な交際を望んできたが、自分にはそのつもりがなかったことで恨まれたのだと語っている。

デップにクビにされたエージェントが語る遅刻癖

 もうひとりは、2016年10月にデップにクビにされるまで、30年も彼のエージェントを務めてきたトレイシー・ジェイコブス。デップがトップスターに上りつめるお手伝いをしてきた彼女は、彼を担当した最後の10年ほど、業界人はデップを雇うのをためらうようになっていたと証言している。理由は、デップがいつも遅刻をするからだ。

「クルーは彼を好きでしたが、何時間も待たされるのが嫌になっていったのです」と、ジェイコブス。そのように慢性的に遅刻をするのには、酒とドラッグが関係していたと彼女は見ており、そのことについて何度もデップに注意をした。「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」(2017)を撮影していた時には、そのために直接ロケ地のオーストラリアまで出かけて行ったとも彼女は語っている。彼女はまた、「パイレーツ〜」6作目にデップが出演することについての話は何も出ていなかったとも述べた。

 これらは、ハード側にとって嬉しい証言だ。デップは、ハードがDV被害者として2018年12月に「Washington Post」に寄稿した意見記事のせいで「パイレーツ〜」6作目から降板させられたと主張している。デップの現在のマネージャーも、「パイレーツ〜」6作目でデップは2,250万ドルのギャラをもらえることになっていたと証言した。それに対し、ハード側は、デップが役を失ったのは長年にわたる行いが原因で、意見記事は関係ないと反論している。

 いずれにしても、この人たちの証言にどこまでパワーがあるのか不明だ。ジェイコブスは、デップの怠慢さが「パイレーツ〜」の役を失うことにつながったと述べるが、ジェイコブスの後にデップのエージェントを務めたクリスチャン・カリーノは、ひと足先にデップ側の証人として登場し、デップが役を失ったのはハードが持ち出してきたDV疑惑のせいだと述べているのである。デップがだらしない人であるのはみんなが知っていたことで、そんな彼に合わせていくことにみんな慣れていたともカリーノは語った。

 また、ジェイコブスは酒とドラッグの問題を挙げたが、それは90年代にデップと付き合ったバーキンも挙げていたこと。カリーノが言うように、今に始まったことではなく、デップと仕事をする人はずっと前から知っていたことなのだ。何より、デップ自身が、酒、ドラッグの使用歴についてこの裁判で正直に証言している。一時は痛み止めの処方薬にも依存し、そこから抜け出すのは本当に辛かったとも語った。今さら他人に言われても、単なる繰り返しにすぎない。

デップが暴力を振るうのをこの人たちは見ていない

 何より大きいことに、ハードのために証言した人たちは、デップがハードや女性に暴力を振るうのを見たことがありますかと聞かれると「ない」と答えているのだ。ジェイコブスもそうだし、ハードのエージェントも同様。ハードの当時の親友で、デップの所有する家に恋人とともにタダで住まわせてもらっていたラケル“ロッキー”・ペニントンや、やはりハードの取り巻きのひとりだったiO・ティレット・ライトも、デップがハードに暴力を振るうのを目撃したことは一度もないと述べている。ただし、ペニントンは、あざがあるハードの顔を撮影した人なので、そういったハードの顔を見たことは否定していない。それでも、今はもうハードと疎遠になっているというペニントンは、問題の写真を見せられ、「これを撮ったのはあなたですか」と聞かれると、憂鬱そうに「覚えていません」と答えていた。

 来週の裁判で、ハード側は、証人としてデップを呼び出すつもりだと言われている。陪審員と世界の人々が見守る前でデップを徹底的にやっつけるつもりなのかもしれないが、それはデップが真実を証明する新たなチャンスになり得る。さらに、ハードの妹ウィットニー・ヘンリケスの友人が、デップのために証言をすることになったようだ。ヘンリケスは姉の語るシナリオ通りの証言をしたが、ヘンリケスが「姉妹のような存在」と言ったその友人は、どんなことを語るのか。残り1週間となった裁判の行方がますます注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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