Yahoo!ニュース

ハリウッドがロシアの軍事侵攻を批判。スタジオ、映画祭も対応を迫られる

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
受賞スピーチでロシアの軍事侵攻を批判したブライアン・コックス(右)(写真:REX/アフロ)

 ロシアの軍事侵攻に対し、ハリウッドからも強い抗議の声が上がっている。ウクライナを支持しようという彼らの姿勢は、テレビを見ていても明らかだ。

 たとえば、「Saturday Night Live」。長年の人気を誇るこのコメディ番組は、先週、普段とガラリとスタイルを変え、ニューヨークで活動するウクライナの合唱団の歌で番組をスタートしている。彼らの前には、「KYIV(キエフ)」という形になるように置かれた小さなキャンドルがともされていた。お決まりの「Live from New York. It’s Saturday Night!」という掛け声も、いつもの明るいノリではなく、静かで控えめな口調だ。

 その翌日にL.A.で行われた全米映画俳優組合賞(SAG)授賞式の中継番組も、ホストのひとりであるレスリー・オドム・Jr.による「祝福の夜ではありますが、ウクライナの人たちのためにお祈りする気持ちも忘れないでいましょう」という言葉で始まった。また、ミニシリーズあるいはテレビ向け映画の男優賞を受賞したマイケル・キートン(『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』)は、受賞スピーチの中でウクライナのゼレンスキー大統領がコメディアンだったことに触れ、「彼は俳優。僕らの仲間。彼が戦っていることは誉められるべきだ」と述べている。

 ゼレンスキー大統領については、ブライアン・コックス(『メディア王〜華麗なる一族〜』)も、受賞スピーチで「彼は優れた喜劇俳優だった。そこから大統領になったんだ。それはすごいこと」と称賛した。コックスはまた、この情勢の影響を受けている同業者たちに強く同情を示し、「ロシアにいる男優、女優、脚本家、批評家は、ウクライナについて何も言うなと言われている。それは最悪。今の情勢に反対しているロシアの人々、とくにアーティストと、僕らは力を合わせなければいけない」と呼びかけてもいる。

 ほかのセレブたちは、ソーシャルメディアを通じてメッセージを送っている。ライアン・レイノルズとブレイク・ライヴリー夫妻は、ツイッターとインスタグラムで、ウクライナからの難民のために寄付を募った。彼ら夫妻は、集まった金額と同額を、最大100万ドルまで寄付するとのことだ。

 ウクライナにゆかりのあるセレブの発言も見られる。ミラ・ジョヴォヴィッチは、インスタグラムで「私の国、私の人たちに爆弾が落とされています。家族、友達が隠れています。私のルーツはロシアとウクライナ。国が破壊され、人々が家を失い、彼らの生活が粉々になっていく様子を見て、私はふたつに引き裂かれる思いです」と、今の心境を打ち明けた。オルガ・キュリレンコも、やはりインスタグラムを通じ、「ウクライナと、ウクライナ人の安全のためにお祈りを捧げます」というメッセージを送っている。ウクライナ出身のミラ・クニスを妻にもつアシュトン・カッチャーは、「僕はウクライナを支持します」とツイートした。

 一方で、ロシアとウクライナの関係についてのドキュメンタリーを撮影中のショーン・ペンは、現地から声明を発表。ウクライナが戦うのをただ眺めているのだとしたら、アメリカの精神が失われると、自分の国に対して呼びかけた。その言葉に共感したアリッサ・ミラノは、ツイッターでペンの声明を拡散している。

ハリウッド映画の公開や映画祭にも影響が

 かたやメジャースタジオは、今のところ公式な発言をしていない。しかし、ウクライナの映画アカデミーがロシアの映画産業のボイコットを呼びかけたことで、対応を迫られるのは必至だ。

 ウクライナの映画アカデミーは、各国がロシアに経済制裁を与えていることを認識しながらも、まだロシアの作品が世界の映画祭で上映されているという事実を指摘。それはロシアのプロパガンダを助ける役割を果たす可能性があると警告した。また、世界各国の映画プロデューサーらに対しては、ロシアと一切ビジネスをしないでほしいとお願いしている。映画の売り上げから得られる税金は、ロシアの軍隊が使う武器の購入に使われるからだ。

 そのメッセージを受けて、いくつかの映画祭は早くも判断を行った。今月開催されるグラスゴー映画祭は、予定されていたロシアの映画2本の上映をキャンセルすると発表。11月のストックホルム映画祭は、ロシア政府に利益をもたらす映画は上映しないという方針を定めた。逆に、8月に行われるロカルノ映画祭は、表現の自由と映画という芸術への支持を理由に、ロシアをボイコットすることはしないと「Deadline.com」に述べている。5月のカンヌ、8月末のヴェネツィアも、映画祭事務局の中で、おそらく話し合いがなされていることだろう。

 ハリウッドのスタジオも、ロシアでの公開を保留にするのかどうか、早急に決める必要がある。映画館のオーナーは個人だったにしても、映画の宣伝においては国営メディアがしばしば使われるため、そこからもロシア政府にお金が流れてしまうのだ。現状は、ロシアでもハリウッド映画は上映されており、現地時間3日には超大作「THE BATMAN-ザ・バットマン-」の公開も控える。スタジオがいつ、どのような決断をするのかが注視される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事