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「ドライブ・マイ・カー」オスカー作品賞、受賞の可能性は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Sideshow/ Janus Films)

「ドライブ・マイ・カー」が、作品、監督、脚色、国際長編映画の4部門でアカデミー賞にノミネートされた。勢いに乗っている今作が作品部門に食い込めることを筆者は予測していたものの、実際にここまで快挙を達成してくれたのは、嬉しいことである。

 だが、果たして今作が受賞できる可能性はどれくらいあるのだろうか。そこを予測するのは、かなり難しい。作品部門が採用している独特の投票方法のせいだ。

オスカー作品部門の投票形式は独特

 オスカーの作品部門に関して、投票者はひとつの作品を選ぶのではなく、全部の候補作に順番をつける形で投票する。開票した結果、1位に挙げた人が最も少なかった候補作はそこで振り落とされ、その作品を1位に入れた人の票は、2位の作品を1位に繰り上げて、再び全体を数え直す。それを何度か繰り返し、ひとつの作品が半分の人の票から1位を獲得できたら、それが受賞作となる。

 このやり方の良いところは、多くの投票者が「まあ、この作品ならば良いか」と納得できる作品が選ばれること。それに、すべての人の票ができるかぎり活かされることだ。自分が1位に入れた作品が取らなかったにしろ、最後の段階まで自分の意見に耳を傾けてもらえるわけである。

 ただ、この方法では、好き嫌いが極端に分かれる映画よりも、「大好きというほどではないが良いと思う」と思われる映画のほうが強い。今回の10作品の中でそれに当たるのがどれかを見極めるのは非常に困難。しかし、「ドライブ・マイ・カー」だったということになったとしても、不思議はない。

 とは言え、客観的に見ると、今回のフロントランナーは間違いなく12個のノミネーションを獲得した「パワー・オブ・ザ・ドッグ」である。今作は演技部門で4つ候補入りしているのも強みだし、鍵となる編集部門でもノミネーションを果たした。一見地味ながら、編集部門はかなり重要。編集部門にノミネートされずして作品賞を受賞したのは、この40年ほどの間では「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」だけなのだ。しかも「バードマン〜」は意図的に長回しをした作品である。2年前にサプライズ受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」も、しっかりと編集部門に候補入りしていた。

最大のライバルは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Kirsty Griffin/ Netflix)
最大のライバルは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Kirsty Griffin/ Netflix)

 残念ながら「ドライブ・マイ・カー」は編集部門を逃している。だが、やはり鍵となる監督部門に入った。近年では「グリーンブック」「アルゴ」が監督部門に入らなかったにもかかわらず作品賞を受賞したものの、それらは稀な例。さらに、脚色部門でも候補入りしている。これはすばらしいことながら、このふたつの部門は激戦だ。

 とりわけ強力なのは、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のジェーン・カンピオン。彼女が監督賞を取れば、つい最近まで圧倒的に男性だったこの部門を2年連続で女性が受賞したことになり、多様化を目標に掲げてきたアカデミーとしては進化したことの証明となるだろう。それも彼女にとっては追い風となるかもしれない。ところで、脚色部門のノミネーションは、先に発表された英国アカデミー賞と完全に一致している。3月13日の英国アカデミー賞授賞式で、オスカー脚色部門の行方も少しは読めるのではないか。

国際長編部門ではダントツのフロントランナー

 そんな中、安心材料は、国際長編部門だ。この部門のほかの候補作は、デンマークの「Flee」、イタリアの「The Hand of God」、ノルウェーの「The Worst Person in the World」、ブータンの「Lunana: A Yak in the Classroom」。「Lunana〜」が、ペドロ・アルモドバルの「Parallel Mothers」など、ほかに有力視されていた作品を制して候補入りしたのはサプライズだったが、ほかの3本はこれまでもほかの賞にノミネートされたり、受賞してきたりした秀作だ。今回のオスカーでも、「Flee」は、長編アニメーションと長編ドキュメンタリー部門、「The Worst Person〜」は脚本部門にもノミネートされている。

 それでも、この部門においては「ドライブ・マイ・カー」がパワー全開で爆走しているのが事実。この勢いをほかの部門をプッシュするのに使えるものだろうか。オスカー授賞式は3月27日、本投票期間は3月17日から22日まで。これからの5、6週間、どこまで多くの投票者に「良い映画だった」と思ってもらえるかどうかに勝負がかかる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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