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「スーパーマンはバイセクシュアル」に「やめてくれ」「賢いアイデア」など意見殺到

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハロウィンでもスーパーマンの仮装は定番だが...(写真:ロイター/アフロ)

 スーパーマンの新たな恋人は、なんと日系人男性。しかし彼はゲイではなく、バイセクシュアル。そんな劇的なニュースに、ソーシャルメディアには早くも賛否両論の意見が殺到している。

 ただし、このスーパーマンは、おなじみのクラーク・ケントではない。彼とロイス・レインの間に生まれた息子ジョン・ケントだ。お相手の男性ジェイ・ナカムラは、来月9日に発売になるコミック「Superman: Son of Kal-El」に、レポーターとして登場する。戦いに疲れたジョンの心を癒していくうちに、友情が恋に発展していくのだそうだ。ライターのトム・テイラーは、「みんなにヒーローが必要、みんながヒーローの中に自分自身を見られるようでなければならないと、僕はいつも言ってきました。DCとワーナー・ブラザースが同じ思いを持ってくださったことを、ありがたく思います。(中略)コミック界で最もパワフルなヒーローの中に、より多くの人が自分自身を見られるようになるのです」と声明を発表している。

 つい半年ほど前には、黒人のスーパーマンの映画が作られるというニュースが出たばかり。クラーク・ケントを黒人にするのではなく、原作コミックに出てくるカルヴィン・エリスという黒人スーパーマンを主人公にするのではと想像されているものの、この時も、反対派、賛成派から、さまざまな声が上がった。

 今回もまた同じような論議が展開されているが、ツイッターを見るかぎりでは「ばかばかしい」「もういい加減やめてくれ」「もう子供にはコミックを読ませないことにする」「DCはせっかく作り上げた素敵な世界をぶち壊した」「文化の象徴を台無しにすることで得られることなど何もない」など、反対意見が圧倒的に多い。「こんなことをやるからアメリカでもコミックより(日本の)漫画のほうが売れるようになったんだ」という声もあった。

 業界サイトのコメント欄にも、「ごく一部の人を喜ばせるためにどこまでやらないといけないんだ?」「これでコミックの売り上げが下がるだろう」などの投稿が見られるが、逆に理解のある意見もある。たとえば「DCは賢い。ゲイにしてしまったら、自分には関係ないという人が多くなる。バイにしたことでみんなどこかに共感できるだろう」「どこが悪いんだ?これからもストレートの白人男性だけを喜ばせていけと言うのか?」などといったものだ。一方では、「みんな突然クリプトン星のセクシュアリティについて語り始めているが、あの星ではそうなんだよ。みんながバイセクシュアルなんだ。もしかしたら4つくらい違うジェンダーがあるのかもしれない」と、スーパーマンはそもそも別の惑星から来たエイリアンなのだから、地球上の人間の常識を当てはめるのは間違っているという投稿も見られた。

多様化するスーパーヒーロー

 これらのバイセクシャルカップルがコミックの世界だけで終わるのか、いつか映画化されてビッグスクリーンにも登場するのかは、今のところわからない。ただ、ライターのテイラーがワーナー・ブラザースにも感謝の気持ちを述べているところを見ると、将来的に可能性はあるだろう。5年前に「#OscarsSoWhite」運動が盛り上がって以来、アメリカのエンタメ界は、女性やマイノリティのキャラクターをもっと出してこなければという使命を感じるようになっている。おかげで近年は、アカデミー賞やエミー賞などでも、有色人種や女性、LGBTQが中心の作品がどれだけ候補入りしたかが、毎回注目されるようになった。

 主人公は絶対に白人のストレート男性と決まっていたスーパーヒーロー映画でも、そうだ。かつては「女性のスーパーヒーロー映画は成功しない」という偏見があったが、2017年の「ワンダーウーマン」が大ヒットしたのを受け、その後、「キャプテン・マーベル」「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey」が作られた。また、黒人中心の「ブラック・パンサー」は、興行面で成功しただけでなく、オスカーの作品部門に候補入りする快挙を果たしている。さらに、先月公開されたアジア系中心の「シャン・チー/テン・リングスの伝説」は、「ブラック・ウィドウ」「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」を抑えて、北米で今年1位の売り上げを達成した。もっとも、「ブラック・ウィドウ」はDisney+で同時配信されたことでボックスオフィスの足を引っ張られた可能性はあるのだが、そうだとしても、無名のアジア系俳優の主演映画の成績がスカーレット・ヨハンソンの映画を上回ったというのは画期的なことである。

ポリコレを超えた、現代のトレンド

 つまり、ハリウッドにおいて、今、多様なキャラクターを大作映画に連れてくることは、もちろんポリコレもあるが、同時にトレンドでもあるということ。そして、実際にこれらの映画が大ヒットしたということは、見たいと思う人がたくさんいたということだ。

 そんな中で、あえて昔ながらのことをやり続ける必要はない。「わざわざスーパーマンでやらなくても」との声もあるが、せっかく知名度のあるスーパーマンでやることに価値があるとも言える。そうすることで、昔からのキャラクターをアップデートできるのだ。それに、スーパーマンとは言ってもクラーク・ケントではなく息子なのだから、クラーク・ケントのスーパーマンは、そのままでまた出してこられる。

 このようなスーパーヒーローの多様化は、これからもますます見られていくだろう。ジェンダー、人種の枠が広げられていく中で、セクシュアリティが対象になるのは、時間の問題だったのである。LGBTQのスーパーヒーローが出てくるのは、おそらくこれが最後ではないはず。もう後戻りはできないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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