Yahoo!ニュース

「ジェームズ・ボンドを女にするな」メーガンと大坂なおみの天敵が強く主張

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ダニエル・クレイグは「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でボンド役を卒業する(写真:REX/アフロ)

 次のジェームズ・ボンドは女性であるべきか?

 今週末、日本を含む世界各国で「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」が公開になるのを受け、その論議がまた復活している。今作でボンド役を去るダニエル・クレイグが、最近のインタビューで「ジェームズ・ボンドと同じくらい良い、女性のための役があるのに、なぜ女性がジェームズ・ボンドを演じる必要があるんだ?」と語ったことは話題となったが、今度は著名なイギリス人ジャーナリスト、ピアース・モーガンが、女性のボンドを望む人たちを強烈に批判するコラム記事を書いた。

 モーガンは、この春、メーガン妃がオプラ・ウィンフリーとのテレビインタビューで語ったことを「ひとつも信じない」と言って、出演していた朝番組を降板させられる羽目になった人。この時は、彼を人種差別者扱いする声も出たものの、彼の主張に納得した人も少なくなかった。彼によるメーガン妃とハリー王子へのバッシングはその後も続いているが、最近は大坂なおみもターゲットにされている。内向的だという理由で会見を拒否したのに他のところには出る彼女に対していくつかの攻撃的なツイートをしたのだが、これに対しては「自分よりずっと年下の女性をどうして執拗にいじめるのか」と、モーガンを批判する声が圧倒的だった。

「最後の血を振り絞っても」ボンドを守る

 しかし、今回の記事では、彼に新たな敵はそれほどできなかったようだ。“ウォーク”(人種差別など社会の不平等に対して敏感な人たちのこと)が世の中を支配しようとしていると以前から警告してきているモーガンは、「かつて、人生で確実なものはふたつしかないと言われてきた。死と税金だ。だが、今は3つ目がある。ウォークの集団が、良いもの、楽しいものを全部めちゃくちゃにしてしまうことだ」という言葉でこのコラムを始めている。続いて彼は、「男性は彼のようになりたいと願い、女性は彼のような男と寝たいと願ってきた」と、ジェームズ・ボンドという男性がいかに愛されるキャラクターであるかを説明し、「避けられなかったことなのだろうが、ウォークは今、007に狙いを定めたのだ」と嘆いた。

 その例として、モーガンは、イギリスの労働党党首キアー・スターマンの発言を挙げる。テレビの朝番組に出演し(皮肉にも、モーガンが降板させられた『Good Morning Britain』だ)、「あなたがお気に入りのボンドは誰ですか?」と聞かれたスターマンは、「お気に入りはいないが、ボンドを女性にする時が来たのではないか」と答えたというのだ。「ヨーロッパで最もベテランの政治家のひとりが、史上最も有名な男性のスパイに性転換をさせろと言ったのである。そんなことを言う必要は何もなかったのに。そう言わざるを得ない政治的プレッシャーがあったわけではないのに」と、モーガンは疑問を投げかける。しかし、同じことを主張した男性は、彼だけではない。クリス・ヘムズワースは「もうずっと前に起きているべきだった」と言ったし、ボンドを演じた俳優のひとりであるピアース・ブロスナンも「僕らは男性がボンドを演じるのを40年も見てきた。もう男は女性のために道を開けるべきだ。それはきっとエキサイティングだと思うよ」と語ったと、モーガンは振り返っている。

 逆に、やはりボンドを演じたロジャー・ムーアは、ボンドを女性にするアイデアについて「それだとイアン・フレミングが書いたキャラクターではなくなる」と言った。「まさにその通り。これで論議は終了ではないか?」と、モーガンはこの意見に拍手を送る。

「女性中心のシリーズものの主役を男性にできないのと同じで、ボンドを女性にすることはできない。次の『ワンダーウーマン』が『ワンダーマン』になると発表されたら、激怒の声がどれだけ上がるか想像できるだろうか?オーストラリアから南極に至るまで、フェミニストたちが怒り狂うだろう。それには同感だ。『ワンダーマン』が『ワンダーウーマン』に取って代わることは、ジェーン・ボンドがジェームズ・ボンドに取って代わるのと同じくらい、意味をなさない。だから僕らの007に構わないでくれ」と、モーガン。それでも相手が引かなければ、「最後の一滴の血を振り絞ってでも、僕はウォークから彼を守ってやる」と、彼は誓う。

プロデューサーも女性のボンドには反対

 このコラムに対して、ツイッターでは、「これに関してはあなたに同感」「やっとあなたと意見が合った」「よく言ってくれました」といったコメントが多数見られる。過去に、次のボンドの候補としてイドリス・エルバの名が挙がったこともあったが、「ボンドの人種が変わるのはいいが、女性になるのは嫌」という意見があるかと思うと、「ボンドは白人のイギリス人だ」「彼を黒人やゲイにしてはいけない」というコメントもあった。「007が女性になったら私は見ないわ」という女性の声もあれば、「狂った世の中になったものだ」という発言もある。

 しかし、心配する必要はなさそうだ。「007」シリーズのプロデューサー、バーバラ・ブロッコリーも、ボンドを女性にすることには反対なのである。昨年の「Variety」のインタビューで、ブロッコリーは、「ボンドは男性。女性たちのためには、強くて新しいキャラクターを作ってあげるべき。男性のキャラクターを女性に演じさせることに、私は興味がない」と述べているのだ。

 そもそも、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」で25作目の節目を迎えた「007」は、59年も続いてきた大人気シリーズである。1本作るのに2億5,000万ドルを費やす超大作なのに、突然主人公の性別を変えてしまうようなリスクは負えないだろう。ただし、ブロッコリーは、「皮膚の色は違ってもいい」とは言っている。それはつまり、黒人のボンドの可能性はまだあるということ。ボンドを演じる次の俳優が誰になるかによっては、モーガンはまた「ウォークの襲撃」と騒ぐだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事