「#MeToo」が勃発して4年。だが、今も、過去の傷を内に秘めたまま苦しんでいる女性は数多い。そんな中、アラニス・モリセットが、15歳の時の辛い体験を初めて告白した。

 モリセットがそのことについて語ったのは、現在開催中のトロント国際映画祭でプレミアされたドキュメンタリー映画「Jagged」の中。映画は、カナダのオンタリオ州オタワで生まれた彼女が、子供番組出演などを経てデビューし、アルバム「ジャグド・リトル・ピル」を記録的なヒットに持ち込むところまでに主な焦点を当てている。現在の彼女が当時を振り返って話す合間に、バンド仲間や音楽評論家などのコメント、また過去の映像などが盛り込まれる形で展開するのだが、映画の終わり近くになって、彼女はその出来事について語ったのだ。

「このことについて、私は決して語らないのだけど」と前置きしたモリセットは、具体的に何があったのか、加害者は誰だったのかを明かさない。しかし、「何年も心理カウンセリングを受けてようやく何らかの犠牲になったのだと自分で認められるようになった」と、被害に遭ったことを長いこと自分でも否定してきたのだと打ち明ける。「あれは同意の上だったのだと。でも、あの時私は15歳だったの。15歳を相手に同意は成立しない。今なら、彼らがみんな小児愛者だったんだとわかる。あれらはレイプだったの」というところから、相手はひとりではなく、複数いたと察せられる。

 そのことについて今まで公にしなかったのは、「家族を守りたかったから。自分の未来のパートナーも、自分自身も」。だが、誰にも言わなかったわけではない。「何人かに話したことはあるけれど、いつも無視された。立ち上がって、部屋を出て行かれた感じ」というモリセットは、「#MeToo」が起こって以来よく聞かれる「なぜ今さらそんな昔のことを持ち出すんだ」という批判に、「なぜあの女性は30年も黙っていたのかという人には、黙れと言いたいわ」と、Fワードを使って反論する。「女性たちは30年待っていたわけじゃないのよ。誰も耳を傾けてくれなかっただけ。それに、生計を立て続けなきゃいけなかったし、家族を守らないといけない。女性は待っているんじゃないの。私たちの文化が聞いてくれないの」と、きっぱり、力強く述べた。

女性差別にも言及

 この映画で、モリセットは、数々の女性差別についても言及している。ひとつは、女性はルックスが重視され、痩せているよう強要されること。15歳か16歳の頃、体重が少し増え始めると、彼女はプロデューサーに呼び出され、そのことについて注意されたというのである。冷蔵庫に入っているチーズが何切れあるかもチェックされていて、減っていると、「君はチーズを食べたのか?」と言われた。食事に行っても、プロデューサーは大きなピザを食べるのに、彼女はブラックコーヒーをすするだけだ。

 そんな生活を続けるうちに、モリセットは摂食障害に陥ってしまった。誰にも秘密にしていたが、ある時、気づいた親友のおかげで、立ち直りに向けて努力することができたという。それでも、「回復には一生かかった」と、モリセットは述べている。

 自分を捨てた元カレに辛辣なメッセージを送る歌「ユー・オウタ・ノウ」で大ブレイクして以来、「怒っている女」というレッテルを貼られたこともそうだ。男だったら、同じような揶揄や批判はされないはずである。だが、他人が決めたイメージに合わせて選ばれた服を着て、マーケティングしやすい歌を歌うのではなく、私服で、自分が歌いたいことを率直に歌ったモリセットは、その後に来る女性ミュージシャンたちのために道を切り拓いたのだと、この映画は賞賛を送る。事実、「ジャグド・リトル・ピル」は、今に至るまで、女性アーティストのアルバムとしては、史上2番目の売り上げを誇っているのだ。彼女はものすごいことを成し遂げたのである。

映画のプレミアをなぜかボイコット

 だが、なぜかモリセットはこの映画を気に入らなかったようなのだ。

 オンタリオ州出身である彼女のドキュメンタリーをプレミアするのに、オンタリオ州で開かれるトロント映画祭は、最もふさわしい場所。トロントは、彼女がキャリアの初期を過ごした場所でもある。にもかかわらず、なぜかモリセットはプレミアに出席しないと決めたのだ。自分についてのドキュメンタリーが作られたのに、そのプレミアを欠席するというのは、明らかにボイコットである。映画の製作にはここまで協力したのだし、内容的に彼女を批判するような部分は見受けられないだけに、ますます謎が深まる。アリソン・クレイマン監督は、「Washington Post」に対し、「理由を憶測することはしたくない」とコメントした。モリセットは、ソーシャルメディアなどでもこのことについては何も述べていない。モリセットのパブリシストも、ノーコメントを通している。

 この映画を製作したのは、HBO。今後どのような形で今作が公開されていくのかはわからないが、その時にはもっと世間から関心が寄せられることだろう。彼女はその時、今作についての本音を語ってくれるだろうか。いずれにしても、彼女がこの映画の中で辛いことを語ってくれた勇気には、心から拍手を送りたい。