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「鬼滅の刃」全米公開2週目は首位に上昇。批評家の総合評価はやや下降

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Funimation/Aniplex)

 先週末、「モータルコンバット」と首位を争った末、全米2位デビューを果たした「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が、今週末は一転して首位を獲得しそうだ。現地時間2日(日)午前現在の推定によると、この3日間の「モータル〜」の北米興収は620万ドル、「鬼滅〜」は640万ドル。公開5週目となる3位の「ゴジラVSコング」の270万ドルとは大きく引き離しているものの、「モータル〜」と「鬼滅〜」の差は20万ドルとわずかだ。これくらいの違いだと、日曜午後から夜にかけての売り上げ状況によっては逆転される可能性もある。

 「モータル〜」の公開館数が3,114であるのに対し、「鬼滅〜」は1,870。少ないスクリーン数でより大きな数字を稼いだのは立派だが、ワーナー配給の「モータル〜」は、劇場公開と同時にHBO Maxで配信デビューしているという事実も考慮すべきだ(コロナ禍での戦略として、ワーナーは、アメリカでは今年の新作をすべてこのスタイルで公開する)。

 もうひとつ特筆すべきは、2作品とも前週より激しく数字が落ちたこと。先週、この2本はどちらも予想を上回る好成績でデビューしたが、2週目に当たるこの週末は、前週に比べ、「鬼滅〜」が70%、「モータル〜」は73%も落ちている。これはつまり、もともとファンだった人たちやターゲット層の観客が一刻も早く見たいと公開直後に駆けつけたということ。現在までの「鬼滅〜」の北米興収トータルは3,220万ドルだが、今後、ここから大きく伸び続けることはあまり期待できないかもしれない。

 今のところ日本のアニメ映画で北米興収の最高記録を持つのは、1998年の「劇場版ポケットモンスター/ミュウツーの逆襲」の8,500万ドルだ。「鬼滅〜」が17歳未満は大人の同伴が必要であるR指定を受けたのに対し、子供向けの「ポケモン〜」は最も緩いG指定で、公開初週末の成績は3,100万だった。「鬼滅〜」の最終的な北米公開初週末興収は、2,100万ドルである。

批評家の総合批評は100%から95%に

 一方で、Rottentomatoes.comで100%だった批評家の総合批評は、批評本数が増えたのに伴い、95%に下がっている。先週の段階でRottentomatoes.comが集めていた批評総数は15本と普通に比べて極端に少なく、本数が増えて違う感想が入ってくるにつれて下がっていくのは予想されていたことだ。

 足を引っ張ったのは、「Indiewire」のデビッド・アーリックの評。彼が「C」の評価をつけたのは、テレビ版を見ていない人にはわかりづらいというのが主な理由のようである。「子供っぽいものを慣れているアメリカの観客に、このビビッドなアニメーションと洗練されたファンタジーバイオレンスは、新鮮かつ違って見えるだろう。しかし、ここに至るまでの長い話を知らないと、その後は目を開けているのもきつい我慢比べになってしまう」「比喩的にも、文字通りにも、始まる前にもう列車は駅を出ているのだ。そして操縦士は新しく乗り込もうとする乗客のために速度を落とすことをしない」と、アーリック。また、夢のシークエンスについても「外で起きていることにも興味を感じられない人にそこまで気にかけろというのは酷というもの」と書く。

 ただし、魘夢のキャラクターについては「記憶している最近の映画の中で最も魅力的な悪者」と絶賛。また、R指定だからといって親が心配する必要もないとも述べている。アーリックに言わせると、「パパとママにお願いして連れて行ってもらう子供たちを待ち受けるのは、家で見てきたもの(バイオレンス)に比べればお子様サイズ」。これまでテレビ版を見てきたならば何の問題もないはずだと親たちを安心させつつ、「だが、それ以外の人はよく考えるべき」と、自分はテレビ版を見ていないという親や、今作を見に行くかどうか迷っているほかの人たちに警告した。

 ただし、新たに加わったほかの評は概ね評価が高い。中には満点をつけているものもある。それに、下がったとはいえ、95%は非常に高い数字だ。また、同じくRottentomatoes.comの観客評価のほうでは、ほとんどが満点の5つ星、あるいは4つ星半をつけている。今作のアメリカでの評価はとても良いという事実は、1週間経った今も変わりないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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