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人種差別発言でクビ、ハリウッドで相次ぐ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
番組を降板させられたシャロン・オズボーン(写真:REX/アフロ)

 人種差別は、今、アメリカで最も話題に上がる問題。意識が高まっているはずなのに、いまだに無神経で愚かな発言をする人が後を絶たない。この週末にも、ふたりのハリウッド関係者が、そのせいで職を失った。

 ひとりは、ハリウッドの大手タレントエージェンシーCAAのベテランエージェント、ジェイ・ベイカー。「ミナリ」の監督リー・アイザック・チョン、ウォン・カーウァイ、ルパート・サンダース、オリバー・ストーンなどを担当するベイカーは、黒人の同僚ジュエル・キーツ・ロスが電話で仕事上のお願い事をしてきたのを受けて、「『ポケットいっぱいの涙』(1993)のドラッグ依存症の人のシーンを思い出した」と言い、そのシーンの映像をロスに送ったのだ。電話での会話中、ロスは、どんなシーンのことを言っているのかピンとこず、受け流していたが、夜になってベイカーが送ってきた映像を見て、大きな屈辱を覚えた。

Deadline.comが入手したメールで、ロスは、「(映像を見て)最初に思ったのは、もし僕が白人だったら、あなたはあの映像を思い出し、僕に送っただろうか、ということでした。僕はハリウッドで仕事をする黒人男性です。ハリウッドで仕事をする黒人男性の中に、あのシーンと比較されたい人はいません。あなたは権力を持つ白人です。権力を持つ立場からあのシーンを見ているあなたを思うと、心が張り裂けそうです」とベイカーに訴えている。彼はまた、「昨夜、ボーイフレンドにこの話をしていて、僕は泣いてしまいました。こんなに泣いたのは、2019年にきょうだいが死んだ時以来です」と、いかに辛い思いをしたかを打ち明けた。そのメールを出した翌日の金曜日、ベイカーは解雇されている。

「泣くとしたら私よ」と黒人共同司会者に言ったシャロン・オズボーン

 同じ日には、シャロン・オズボーンが、CBSの昼番組「The Talk」を降板させられた。

 直接のきっかけとなったのは、今月7日のメーガン妃とハリー王子のインタビュー番組だ。イギリスの司会者ピアース・モーガンは、このインタビューでメーガン妃が語ったことを「信じない」と言い張り、「Good Morning Britain」を降板したが、その直後、モーガンの昔からの友人で、やはりイギリス人であるオズボーンは、ツイッターでモーガンを弁護していた。そして10日、自分の番組「The Talk」でモーガンの話題が出ると、オズボーンは落ち着きを完全に失って「私は人種差別者ではない。ピアースも違う」「多くの人が人種差別者だと思っている人を友達に持っているせいで、私は電気椅子に座らせられている気分だわ」などとわめいたのである。黒人の共同司会者シェリル・アンダーウッドに向かっては「泣かないでよね。ここで泣くとしたら私なんだから」と言い放ち、唖然としている彼女にさらに追い討ちをかけるように「教えてよ。彼(モーガン)がいつ人種差別的なことを言ったというのよ?お願いだから教えて」と食いついた。

 この回の後、CBSは、急遽、「The Talk」の放映停止を決めている。パニックしたオズボーンは、別の番組に出てはその件について釈明をしたが、それらのインタビューで「メーガンのインタビューを放映したのはCBS。CBSはピアースが言ったことを気に入らなかった。そして私はCBSの番組内でピアースの味方をした。キャンセルカルチャーよ」などと言ったりしたことも災いして、オズボーンは番組をクビになってしまった。

 CBSは、「3月10日の放送は、家で見ている視聴者にとっても不快なものでした。この回におけるシャロンの共同司会者への態度は、敬意のある職場を重視する私たちの価値観にそぐわないものでした」「番組がいったん放映停止になっている間、私たちは、司会者、クルーに向け、平等、インクルージョン、文化についての意識などについてのワークショップを行います」との声明を発表している。CBSによると、番組は4月12日に復帰する予定とのことだ。

 オズボーンは、あの回の放映でモーガンの話題が出てきたのは不意打ちで、自分は嵌められたのだとも語っており、ソーシャルメディアにはオズボーンを弁護する声も多少は見られる。だが、オズボーンの差別発言は今に始まったことではなく、過去の共同司会者で中国系アメリカ人のジュリー・チャンを「ワンタン」と呼んだり、同性愛者であることを公言しているサラ・ギルバートのことも侮辱的な呼び方をしたりしていたとの内部告発もある。

 オズボーンはまた、過去の番組で、ジャスティン・ビーバーのお行儀の悪い行動について、「自分は黒人じゃなくて白人なんだということを彼にわかってもらいたいわね」と言ったことがあった。当時、そんな発言が見逃されていたというのは、今としては驚くばかりだ。その頃と同じような態度を取り続けても大丈夫と、オズボーンは信じていたのだろうか。CAAのエージェント、ベイカーにも言えることだが、今は2021年。時代は正しいほうに変わっているのだということに、今一度、気づいてもらいたい。 

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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