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アジア系ハリウッドセレブが「ヘイトはやめて」と懇願

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アジア系へのヘイトをやめてと強く呼びかけるオリヴィア・マン(写真:ロイター/アフロ)

 アジア系セレブが立ち上がった。コロナ感染と同時に始まったアジア系へのヘイトが、感染拡大が収まりつつあるにもかかわらず、ますます過熱しているからだ。

 セレブらがさらに声を上げるきっかけとなったのは、今週、ジョージア州アトランタで3軒のアジア系マッサージ店が襲撃され、8人が亡くなる事件が起きたこと。8人のうち6人はアジア系女性、容疑者はロバート・アーロン・ロングという21歳の白人男性だ。先週、ジョー・バイデン大統領は、演説の中でアジア系アメリカ人に対する嫌がらせや暴力を非難し、アジア系アメリカ人をスケープゴートにしてはならないと強く国民に訴えたばかりだったが、その直後にこんな事件が起こってしまったのである。

 COVID19というちゃんとした名前があるウィルスのことを、当時大統領だったトランプが頑なに「チャイナ・ウィルス」と呼び続けたこともあり、アジア系に対する偏見は、感染拡大が本格化した頃から存在してきた。昨年3月にテレビドラマを撮影していたニューヨークで感染したダニエル・ディ・キムも、隔離中にハワイの自宅から発信したソーシャルメディアのメッセージで、自らの体験を語るほか、差別的に「チャイナ・ウィルス」と呼ぶのはやめてほしいと人々にお願いしている。

 その翌月には、ジョン・チョーが「Los Angeles Times」に意見記事を寄稿し、コロナのせいでアジア系アメリカ人が生きづらくなったことを告白。「2日ほど前、私は両親に電話をし、外出する時は注意するように言いました。言葉の暴力、あるいは肉体的暴力に遭うかもしれないからと。役割が逆転したのは奇妙な感じです。ヒューストンで育った子供時代、そういったことを言うのは両親だったのに」という文で始まるその記事で、チョーは、「パンデミックは、私たちがここに所属できるのは条件付きだったことを思い出させました。これまではアメリカ人だと認められていても、次の瞬間には外人になるのです。ウィルスを持ち込んだ外人に」と書いた。

 先月は、オリヴィア・マンが、知人が遭遇したヘイトクライムについて多くの発言をしている。被害者はマンの友人の母親。ニューヨークのクイーンズ地区のパン屋の前で並んでいたところ、男性にいちゃもんを付けられて強く押され、頭をぶつけて10針を縫うケガをしたというのだ。マンが事件の動画をネットに投稿したことも助けとなって犯人は逮捕されたが、その後もマンはソーシャルメディアでヘイト反対のメッセージを送り続けた。出演したテレビでも、「アジア系コミュニティ、とくに高齢者への攻撃が増えています。ニューヨークだけでもこの1年で1,900%も増えているんですよ」と、視聴者に厳しい現実を語っている。アジア系の高齢者はおとなしく、立ち上がらない傾向にあり、友人の母親も、おそらく被害を警察に通報することはないだろうとも、マンは語っていた。

“ヘイトクライム”とはっきり呼ばないことにも激怒

 そんなところで今週の事件が起こると、マンはまたもやテレビやソーシャルメディアで積極的にメッセージを送り始めた。MSNBCの番組では、「私たちは、単に私たちであるということで攻撃されているのです。助けてもらうのに、私たちはどうしていいかわかりません。もっと多くの人に、私たちのことを思いやってほしいです。メディアにもそのことをもっと取り上げてほしい。ソーシャルメディアでも私たちへの攻撃をもっと批判してほしい。私たちは長いこと目立たない存在だっただけに、そうしてもらうことはとても大事なのです」と、アジア系以外のアメリカ人に助けを訴えている。また、インスタグラムには、「この白人テロリストが殺人というひどい行為をしたことに対する言い訳を聞くのは、もううんざり。彼がセックス依存症だったとか、悪いことが起こった日だったとか。そんなことを言っても無意味でしょう」「彼に責任を取らせないと。そういう考え方をする人には責任を取らせるの」と長いメッセージを投稿した。

 この事件を警察やメディアがはっきりヘイトクライムと呼ばないことに対しては、マン以外のセレブも怒りを感じている。コメディアンヌのマーガレット・チョーも、ツイッターに投稿したビデオで、「私はすごく怒っている。そして悲しい。昨日起こったことのせいで。私はアトランタに7年住んでいたの。これはヘイトクライムよ。アジア人の女性を8人も殺したなんて、絶対ヘイトクライム。なぜそこに疑問の余地があるのか不思議だわ。これはテロリズムよ。そしてヘイトクライム」と断言。ジョージ・タケイも、「最初からアジア系女性を殺すつもりだったのか、犯人が行った、それぞれにかなり離れている場所3ヶ所がたまたまアジア系の店だったのか、どちらだったにしろ、この犯罪に人種が関係していることに変わりはない」とツイートした。

 アジア系以外のセレブも発言をしている。実は4分の1、アジア系の血が入っているというションダ・ライムスは、ジョージア州の事件を「とてもパーソナルに感じる」とツイート。「でも、間違っているとわかるのに、パーソナルである必要はないのよ。発言して。ハッシュタグもいいけど、命を救うのは行動よ」と訴えかけた。エヴァ・デュヴァネイも、「ツイート以上のことをするには?アジア系に対してもっている偏見を見直すこと。自分の中でそれをなくすように努力すること」とツイート。ジョン・レジェンドも、「アジア系の人々に対する攻撃が増えている。そのことを国民は考えなければいけない」と、ツイートで注意を促した。

 NBA選手レブロン・ジェームズも、犯人を「臆病者」と呼び、遺族とアジア系コミュニティにお悔やみの言葉を送るコメントをツイッターに投稿した。オバマ元大統領は、複数のツイートを通じ、アジア系への攻撃をやめろということに加え、銃規制の必要性にも言及。この銃撃事件は「常識的な銃の安全に対する法を成立させるために、また社会に根強く残るヘイトと暴力のパターンを根絶するために、やることはまだまだあるとあらためて思い出させた」と述べた。

 これらの言葉が、できるだけ多くの人の心に響くことを願いたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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