Yahoo!ニュース

ラリー・キングが死去:8度の結婚をした「最高の聞き手」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカで最も有名なテレビの司会者でインタビュアーのラリー・キングが亡くなった。87歳。死因は発表されていないが、先月のホリデーシーズン中にコロナに感染し、ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ病院に入院していたことがわかっている。一時は集中治療室に入っていたものの、容態が改善して自分で呼吸ができるようになり、最近は普通の病棟に移っていたそうだ。かつてヘビースモーカーだったキングは、過去に何度か心臓発作を起こし、ガンも患っている。2019年には脳卒中を起こして、数週間、昏睡状態にあった。「こんなふうに生きていたくない」と、その直後には自殺も考えたと、後に彼は告白している。

 1933年、ニューヨークのブルックリン生まれ。本名はローレンス・ハーベイ・ザイマー。両親は東ヨーロッパからのユダヤ系移民。9歳の時に心臓発作で父が亡くなり、家計を助けるため、高校卒業後は大学に進学できなかった。あこがれのラジオの仕事に就けたのは、友人の知り合いであるメディア関係者に「ラジオ局で働くにはどうしたら良いですか」と聞いたのがきっかけである。その人は、「ラジオ局がたくさんあり、組合に入っていない人も雇ってくれるマイアミで挑戦してみたらどうか」とアドバイスをくれ、言われたとおり、マイアミに引っ越して、見事、DJの職を得た。デビューにあたり、上司に「ザイマーという名前は変わっていて良くない」と言われ、たまたまそこにあったキングスという酒屋の広告を見て、ラリー・キングを名乗ることになる。

 その後、地元のテレビにも出るようになり、70年代末には平日の深夜ラジオ番組「ザ・ラリー・キング・ショー」で全米放送デビューした。1982年には「USA Today」紙で連載を開始。そして1985年、CNNで「ラリー・キング・ライブ」が始まる。最初のゲストは、現在のニューヨーク州知事アンドリュー・クオモの父で、当時のニューヨーク州知事だったマリオ・クオモだった。番組は高視聴率を誇り、賞も受賞したが、25年続くうちに次第に人気が衰え、2010年に終了。その後はネットで「ラリー・キング・ナウ」という番組を配信している。キングがインタビューした人は50,000人以上。その中には、リチャード・ニクソン以後のすべての大統領も含まれる。

 結婚歴は8回。最初の結婚は19歳の時で、すぐに取り消している。2度目の妻との間には息子を授かるが、キングはその子ラリー・Jr.の存在を33年後まで知らなかったという。3番目の妻にはアンディという連れ子がおり、キングと養子縁組をしたが、2年で離婚。そのすぐ後には4番目の妻と結婚し、娘を授かるも、離婚。次にはまた3番目の妻と再婚、娘チャイアを授かるが、5年後に離婚。6回目の結婚は1976年、7回目は1989年。8回目の相手ショーンとは、1997年、心臓手術を受ける直前、UCLA大学病院で結婚をしている。ショーンとの間にはチャンスとキャノンという名前の息子を授かったが、2019年に離婚した。彼の子供であるアンディとチャイアは、昨年、時期をほぼ同じくして亡くなっている。

「マッド・シティ」「ジャッカル」「パーフェクト・カップル」「ジョンQ -最後の決断-」など、映画にも数多く出演。「シュレック」「ビー・ムービー」などアニメ映画に声の出演もした。「ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル」「アグリー・ベティ」「30 Rock/サーティ・ロック」など、人気のテレビ番組にもたびたびゲスト出演をしている。90年代後半からビバリーヒルズに住み、近所にある老舗のユダヤ系デリカテッセンに週7日通っていた。近年は土曜日にしか来なくなっていたが、いつも同じ席に座り、店の経営が危うくなった時には、この店を守ろうと積極的に声を挙げている。ブルックリン・ドジャースの頃から熱心なドジャースファンで、ロサンゼルスのドジャースタジオでもたびたび姿が目撃されていた。

 キングの死を知って、ツイッターには多くの人が追悼のコメントを寄せている。リース・ウィザスプーンは「彼にインタビューしてもらえた私はラッキーでした。彼は思慮深く、知性豊かで、優しい人でした」、セリーヌ・ディオンは「ずっと昔からの友達と話しているように感じさせてくれた人。彼のような人はほかにいません」、ベット・ミドラーは「すばらしい取材者で、すばらしい聞き手。それは同じことではありません。彼はいつも、この部屋にいるのは私だけであるかのように感じさせてくれました」とツイートしている。ビル・クリントンは、「率直でフェアな質問をして、相手から真実を聞き出す人だった」と振り返っている。クオモ州知事も、「ニューヨークは、彼のご家族と友人にお悔やみを申し上げます」とツイートした。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事