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ハンクスのコロナ感染、ジョニデの屈辱:ハリウッド、この人たちの1年は

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今年はオスカーを受賞、副業も好調だったブラッド・ピット(写真:REX/アフロ)

 コロナ一色だった2020年のハリウッド。だが、スターたちが直面したドラマは、それだけではなかった。気になる人たち5 人の、この1年を振り返ってみよう。

トム・ハンクス:この人で始まったアメリカのコロナパニック

 アメリカ人にとって対岸の火事だった新型コロナを一気に身に迫る恐怖にしたのは、間違いなくこの人だ。ハンクス(64)と妻リタ・ウィルソンは、3 月上旬、バズ・ラーマンが監督するエルビス・プレスリーの伝記映画を撮影するため訪れていたオーストラリアで、だるさや体の痛みを感じたことからPCR検査を受け、コロナに感染していることを知った。夫妻はただちに隔離生活に入り、ハンクスはソーシャルメディアで全世界に向けて自分たちの感染を報告する。それはテレビのニュースで大きく報道され、翌日にはスーパーに長い列ができるほどのパニック状態になった。このすぐ後、パラマウントの「クワイエット・プレイス PART II」、ディズニーの「ムーラン」といった、すでにプレミアも終えていて公開間近だった映画が延期となり、ブロードウェイも閉鎖される。続いて、まずカリフォルニアで、次にニューヨークでも、州知事が外出禁止令(Stay at Home order)を出し、食料品店や薬局などごく一部を除くすべてのビジネスが営業を停止させられた。映画やテレビ番組の撮影も中止になっている。

 ハンクスが出演するプレスリーの伝記映画は、半年の撮影中止を経て、9月に再開した。ハンクスは、今年公開の主演作が2本あったが、最初の作品「グレイハウンド」は、コロナで劇場が閉まっているのを受けてソニーがAppleに売り、配信にてリリースとなっている。2本目の「News of the World」は、先週、全米の4割の映画館しか開いていない中(L.A.、ニューヨーク、サンフランシスコでは3月からずっと閉鎖したまま)、あえて劇場公開されたが、まったく振るわなかった。日本を含む海外では、来年、Netflixが配信する。

ブラッド・ピット:オスカー受賞に、新たなロマンス

 2016年にアンジェリーナ・ジョリーから離婚を申請されて以来、ピット(56)は、親権問題や財産分与などの揉め事で暗い日々を過ごしてきた。しかし、今年は良いことがいくつか起きている。まずは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でのオスカー受賞。プロデューサーとしても活躍するピットは、「それでも夜は明ける」で作品部門のオスカーを受賞しているが、演技部門での受賞は初めてだ。ピットはこの役でほかの賞も総なめしており、毎回ユーモアあふれる受賞スピーチで人々を魅了している。

 そして夏には、新恋人の噂が出た。お相手はニコール・ポチュラルスキーという名の27歳のドイツ人モデルで、なんと既婚者。子供もひとりいる。68歳のレストラン経営者の夫とは、お互い自由恋愛を許しているとのことだが、今度だけは相手がピットという大スターとあってメディアに騒がれ、夫は不快だったようである。ピットとポチュラルスキーの関係は秋ごろに終わったと報道されている。

 さらに、親権争いがきっかけで禁酒生活を始めたピットにはやや奇妙なことに、この秋にはピットがプロデュースするロゼのシャンパンがデビューしている。ピットとジョリーはカップルだった頃、南仏にブドウ畑のあるシャトー・ミラヴァルという不動産を購入し、ここでロゼワインを作ってきたが、シャンパンのプロジェクトは5年前にピットが提案したものだそうだ。最初のビンテージの生産数は2万本。Wine.comには、1本350ドルと出ている。批評家の評価も良く、本業だけでなく、副業のほうも順調のようだ。

ショーン・ペン:PCR検査を拡大したコロナ禍のヒーロー

 今年のヒーローを挙げるなら、ペン(60)は確実にそのトップに入るだろう。2010年のハイチ大地震で積極的な救済活動を行った非営利団体CORE(Community Organized Relief Effort)の共同創設者であるペンは、3月にアメリカでコロナパニックが起こると、すぐにL.A.市長エリック・ガーセッティに「自分たちも何かできないか」と連絡。当時は医療関係者がPCR検査を行っていたが、自分たちがその部分を負担し、検査場の数も増やすことで、医療関係者には治療に専念してもらえるとペンらは考えた。そして5月、ガーセッティ市長とCORE、L.A.ドジャース、L.A.消防局、ライブネーション、レッドロック・エンタテインメントはパートナーシップを組み、ドジャースタジアムに全米最大規模の、無料のPCR検査場をオープンしたのである。また、COREは、近くに検査場がない、あるいは車を持っていなくて行きにくいという人たちが多く住むエリアにも足を伸ばし、人々に無料検査を受けてもらうよう促した。

今年4月、ガーセッティL.A.市長と一緒に会見に出席したショーン・ペン(右)(筆写撮影)。
今年4月、ガーセッティL.A.市長と一緒に会見に出席したショーン・ペン(右)(筆写撮影)。

 そんなペンの活動ぶりを見て、ニューヨークのアンドリュー・クオモ州知事も彼に救いを求めている。6月、毎朝恒例の会見で、クオモは、「感染が爆発しているエリアについてミスター・ペンに相談したところ、彼のグループはすぐやって来てくれて、あっというまに検査体勢を整えてくれた。おかげで検査数が格段に増えた」と述べた。クオモはまた、「ニューヨーカー全員が感謝している。私たちはあなたに借りができた」とペンに言い、コロナが収束したら食事をおごらせてくれとも言っている。現在、ニューヨークでは、アウトドア席でしかレストランの営業が許されていないが(L.A.はアウトドア席も営業禁止)、すべてが落ち着いたら、ペンは、ニューヨークでも、L.A.でも、素敵な店で美味しいものをたっぷりご馳走してもらうべきだ。

ジョニー・デップ:名誉毀損裁判敗訴で役をクビに

 離婚成立からほぼ4年経つ今も、デップ(57)とアンバー・ハードの争いは続いている。この夏、デップは、ハードの肩を持って自分をDV男呼ばわりしたイギリスのタブロイド紙とロンドンの裁判で闘ったが、判事は「記事が書いていることは概ね真実である」とし、名誉毀損を認めなかった。裁判の過程では、ハードもデップに暴力をふるっていたことが明らかになっているものの、この裁判は、記事の中のデップが暴力をふるっていたという記述が正しいかそうでないかについてのものであるためだ。これだけでもデップにとっては屈辱だったのに、デップが公にDV男と認定されたのを受け、ワーナー・ブラザースは、「ファンタスティック・ビースト」3作目からデップをクビにしてしまう。1作目はカメオ的出演、2作目でも出番は少なく、この3作目でついにデップが演じるグリンデルバルドは大活躍するようになるはずだった。それだけに、彼の悔しさは想像に難くない(ただし、クビになってもギャラは満額出る契約になっている)。

 この展開に、デップのファンは激怒した。ツイッターには「#JusticeForJohnnyDepp」のハッシュタグが飛び交い、ハードを「アクアマン2」から降板させろという署名運動も始まっている。「アクアマン2」もワーナーの映画であるだけに、デップだけを降板させるのはおかしいというのがファンの主張だ。また、こんな中でもデップを香水「ソヴァージュ」のキャンペーンに使い続けているディオールを支持し、感謝の気持ちを示そうと、ファンがソヴァージュを買い漁る光景も見られた。そんなファンたちに向けて、今週、デップは、インスタグラムに、「今年は多くの人にとって苦しい年でした。これから先が良くなりますように。みなさん、良いホリデーを。愛と敬意を込めて」というメッセージを投稿している。この投稿にはこれまでに200万以上の「いいね」が付いている。

 今回のロンドンでの裁判とは別に、デップには来年、アメリカ国内で、ハードに対する名誉毀損裁判が控えている。こちらはハードが「Washington Post」にDV被害者として書いた意見記事をめぐってのもの。デップを名指しはしていないが、それがデップであることは明確であり、デップはハードに5,000 万ドルを要求している。

シャイア・ラブーフ:演技は光るも私生活でトラブル

 依存症の更生プログラムの一環で、過去の自分に向き合うよう言われたラブーフ(34)は、胸の内にあった子供時代の体験を脚本にし、「ハニーボーイ」というタイトルで映画化した。その映画で自分を苦しめた父親を演じたラブーフの演技は評価され、今年のインディペンデント・フィルム・スピリット賞に助演男優部門で候補入りしている。しかし、立ち直りへの道のりは、まだ険しいようだ。以前から警察にお世話になりっぱなしの彼は、今年もまたトラブルを起こしているのである。

 まず、6月には、見知らぬ男性と喧嘩をし、最後にその男性の帽子を奪って逃げたことから、暴行と盗難の軽罪で起訴された。どちらにもケガはなかったのだが、相手の男性が警察に通報したのである。そして今月は、シンガーソングライターで元恋人のFKAツイッグスから虐待と性的暴行で訴訟された。その訴状で、FKAツイッグスは、一緒に旅行中の夜、ラブーフに首を絞められて目覚めたことや、彼が運転する車の中で「言わなければ車を衝突させてやる」と、「愛している」と言うよう強要されたことなどを挙げている。また、ラブーフは、知っていながら彼女に性病をうつしたという。今になって訴訟という手段に出たのは、お金目当てではなく、世の中の女性たちに彼が危険人物だと知らせるためだそうだ。ラブーフの弁護士は、「Variety」に対し、ラブーフに問題があることを認め、「シャイアは治療が必要。本人もわかっている。私たちは、長期の、効果のある治療を受けられる施設を探しているところだ」と語った。

「私というパズル」のシャイア・ラブーフとヴァネッサ・カービー(Benjamin Loeb/ NETFLIX)
「私というパズル」のシャイア・ラブーフとヴァネッサ・カービー(Benjamin Loeb/ NETFLIX)

 しかし、演技活動では、あいかわらず興味深いことをやっている。今年のヴェネツィア映画祭とトロント映画祭で上映された「私というパズル」(1月7日Netflixにて配信)では、主役のヴァネッサ・カービーの恋人役を熱演していたし、この秋はコロナ禍のL.A. で、サウスセントラルに特設のドライブインシアターを限定期間オープンし、車の中にいる観客を前に芝居をするという実験的なことを行っているのだ。彼はまた、オリヴィア・ワイルドが監督、クリス・パイン、フローレンス・ピューらが出演する話題作「Don’t Worry Darling」でも役を得た。だが、彼の素行が悪く、ほかの人たちとうまくやれないことを問題視し、ワイルドは彼をクビにしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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