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ジョニー・デップ以外にも。役をクビにされたハリウッドスター

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 イギリスのタブロイド紙「The Sun」を相手にした裁判に負けたのを受けて、ジョニー・デップが「ファンタスティック・ビースト」シリーズから降板させられた。裁判は、同紙がデップを「妻に暴力をふるう男」と呼んだことに対して名誉毀損を訴えたもの。16日間に及ぶ裁判で、デップ側は、ハードも相当に暴力的だったことを示したのだが、裁判の争点はそこではなく、「The Sun」が書いたことが嘘なのか、本当なのかである。それについて「記事の内容は概ね真実である」との判決が出たことで、ハードがどうなのかはさておき、デップはDV男だということになってしまったのだ。家族向け映画「ファンタスティック・ビースト」にDV疑惑のあるデップを起用したことについては以前から批判もあり、巨大企業AT&Tの傘下にあるワーナー・ブラザースとしては、しかたない判断だったのだと思われる。デップ演じるグリンデルバルドは、1作目でカメオ的に登場し、シリーズが進むにつれてますます重要になっていくはずだっただけに、デップとしては相当に無念だろう。デップは上訴するかまえだが、ワーナーは新たな俳優を雇って撮影を続けるつもりでいる。

 シリーズ物の途中で演じる役者をクビにすることは、スタジオ側としても、できるかぎりやりたくないこと。だが、過去にも例はある。たとえば「アイアンマン」のローディ役。1作目ではテレンス・ハワードが演じたが、2作目以降はドン・チードルになっている。ハワードがクビにされたのは、やりづらい人だったから。彼の演技も求められているものと違っていて、何度も撮り直しが必要だったとも言われる。そこで、マーベルは、2作目で彼の出番を大幅に減らすことにし、その分ギャラも減額するとハワードに言ったのだ。最初の契約では、2作目でギャラが上がることになっていたので、明らかに「辞めてくれ」との勧告である。

 同様の理由で、エドワード・ノートンもマーベルからクビにされている。マーベルが自分たちのスタジオを立ち上げる前、ソニー・ピクチャーズで製作された「インクレディブル・ハルク」で、ノートンは主人公ハルクを演じるにあたり、脚本にいくらでも口出しができるという条件を契約書に盛り込んでいた。そのせいで、現場ではほぼ毎日、書き直しがあり、しかもその内容をマーベルは気に入らなかったのである。マーベルとノートンはぶつかり合い、最終的にマーベルがノートンの意図に反して映画の尺をカットしたことでノートンは激怒、宣伝活動をほとんどボイコットした。それでも、その4年後、「アベンジャーズ」で再びハルクを出してくる際、ジョス・ウェドン監督はノートンとミーティングをしている。その話し合いは順調だったそうだが、マーベルは「共演者とコラボレーションできる人がいい」との理由で、ノートンでなくマーク・ラファロを選んだ。

トビー・マグワイアは未来の義父のおかげで役を取り戻す

 やはりマーベルのキャラクターであるスパイダーマンでも、危機が起きている。初代のスパイダーマンを演じたトビー・マグワイアは、2作目を一度クビになっているのだ。1作目が大ヒットし、鼻高々になっていたマグワイアは、2作目の準備で全身スキャンを受けるはずだった日に現れず、サム・ライミ監督とプロデューサーを怒らせる。さらに、「シービスケット」で背中をケガしたからと、2作目ではあまりスタントをこなせないとも言ってきた。しかも、自分で言うのではなく、医師を送り込んで伝えたのだ。これにはソニー・ピクチャーズも腹を立て、マグワイアをクビにし、代わりにジェイク・ギレンホールを雇うと決めた。ギレンホールは映画でメリー・ジェーンを演じるキルステン・ダンストと交際していたし、年齢もマグワイアより5歳若くて高校生であるピーター・パーカーに近い。こんな展開を予測しなかったマグワイアは大ショックを受けたが、後に妻となるジェニファー・メイヤーがユニバーサルのトップであるロン・メイヤーの娘だったことで救われた。メイヤー(父)は、マグワイアを「キャリアのために、この役は絶対にあきらめてはダメだ」と説得した上で、自らソニーのトップであるエイミー・パスカルに掛け合ってくれたのである。マグワイアは監督とスタジオに謝罪し、なんとか役を取り戻した。それから15年後、ギレンホールは「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」にミステリオ役で出演、ついにスパイダーマンの世界にデビューを果たしている。

 テレビ界では、チャーリー・シーンが、高視聴率を上げていたコメディ番組「Two and a Half Man」の主役をクビになった。薬物とアルコールの依存症で、しょっちゅう現場に迷惑をかける間、プロデューサーらは辛抱強く彼を支えてあげていたのに、感謝をするどころか、クリエーターを侮辱する発言をしたからである。テレビ界で最もギャラの高いスターだったシーンは、自分がいなくなったら誰も番組を見ないだろうとたかを括っていたが、主役を引き継いだアシュトン・カッチャーのもとでも、番組は人気を保ち続けた。

 また、コメディエンヌのロザンナ・バーは、人種差別的なツイートをしたことが原因で、自分の名前を冠した番組「Roseanne」を失っている。番組は当時、高視聴率を誇っていたにもかかわらず、ディズニー傘下のテレビ局ABCは、躊躇することなく、打ち切りを言い渡したのだ。しかし、共演者たちは、あきらめられず、バー抜きで番組を続けようと動き出し、新たに「The Conners」(コナー一家)というタイトルで復活させた。バーが演じた主人公ロザンヌ・コナーは死んでしまったことにして、残りの家族で話を続けるというものである。番組は、それから2年経つ今も続いている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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