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米映画アカデミーの新会員、「パラサイト」関係者が圧巻

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「パラサイト 半地下の家族」は今年のオスカーを4部門で受賞(写真:ロイター/アフロ)

 オスカー受賞から4ヶ月、「パラサイト 半地下の家族」がまたもやハリウッドで快挙を成し遂げた。西海岸時間6月30日に発表された2020年度の米映画アカデミーの新会員名簿に、この映画のキャストやスタッフが数多く見受けられたのだ。

 今作の出演者で今回アカデミーに招待されたのは、チョ・ヨンジュン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジュンウン、チョン・ヒョンジュン。ほかに、プロデューサーを務めたクァク・シネ、脚本家のハン・チンウォン、衣装デザイナーのチェ・セヨン、音楽のチョン・ジェイル、美術監督のイ・ハジュン、編集のヤン・チンモ、音響のチェ・テヨンが、それぞれの部に招待されている。

 ひとつの年に、同じ映画からこれだけたくさんの、しかもそれまでアメリカでほぼ無名だった人たちが入会することは、非常に稀。アカデミーは、多様化を進めるべく、近年、意図的に、有色人種、女性、若者、外国人を増やしてきた。今年のオスカー受賞作にかかわり、さらにひとりで複数の要素を満たしているこれらの人たちは、今のアカデミーが求める顔ぶれとして、ふさわしかったのだろう。

 日本の俳優や監督は、今回のリストに誰も含まれていない。しかし、撮影監督で「おくりびと」「サクラサク」の浜田毅と「バトル・ロワイヤル」「アウトレイジ」の柳島克己、短編またはアニメーションで1979年の短編アニメ「ピカドン」の脚本を書いた木下小夜子が入っている。ほかに、アジア系では、「フェアウェル」の監督兼脚本家ルル・ワン、女優のオークワフィナとツィ・マー、「クレイジー・リッチ!」の女優コンスタンス・ウー、「いつかはマイベイビー」の俳優ジェームズ・サイトウなどが入った。

 今年度の招待者数は全部で819人。昨年の928人、一昨年の842人には劣るが、アカデミーの歴史の中では3番目に多い。そもそも、5年前まで、アカデミーは欠員を補充する程度にしか新しい人を入れなかったのである。これによって、アカデミー全体の人数も、大幅に増えている。

 今年はアメリカ以外に居住する人が49%を占めたというのも、画期的なこと。過去にはハリウッドのエリートグループを誇っていたアカデミーが、国際的な映画人の団体を目指している姿勢の表れだ。また、今回の新会員のうち、女性は45%、マイノリティは36%を占める。マイノリティと言っても、ただ単に肌の色を見るのでなく、「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」に主演したダウン症の俳優ザック・ゴットセイゲンを入れるなど、幅広いところまで目を配る努力をしている。

 このように投票母体が大きく変わることで、「良い」とされる映画も、必然的に変わっていく。過去に「オスカー好みしそうな映画」と呼ばれたタイプの作品は、もはや必ずしもそうとはかぎらなくなった。それはすでに今年の「パラサイト〜」受賞が証明したこと。今年のようなサプライズは、これからますます起こるだろう。そうなれば、オスカーはもっとおもしろくなる。次のオスカーはコロナでどうなるかわからないながら、これらの人たちが、何らかの形で新鮮な変化を与えてくれることに期待したい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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