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カール・ライナーが死去。アメリカ喜劇の巨匠、ロブ・ライナーの父

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
カール・ライナーと長男ロブ・ライナー(写真:REX/アフロ)

 現代アメリカ喜劇の巨匠のひとり、カール・ライナーが亡くなった。享年98歳。西海岸時間6月29日、ビバリーヒルズの自宅で、家族に囲まれて息を引きとったという。

 その時が近づいているのを感じていたのか、彼は、死の2日前、ツイッターに、「才能豊かなエステル(ステラ)・ルボストに出会い、結婚したことで、私は最高に幸せな人生を送ることができました。そのことに、大きな喜びを感じます。私たちは、多くを必要とし、変化をし続けるこの世の中に、(夫妻の子供)ロブ、アニー、ルーカスを連れてきたのです」と投稿している。アメリカの政治について思い残すことも多かったようで、その翌日には、「朝7時半に起き、どの文明国のリーダーにもふさわしくない腐敗したビジネスマンが選挙を迎えるまでの日を、また1日生きなければいけないのかと思うと、悲しくなりました」「この国のリーダーとなる資格がすべて揃っていたヒラリー・クリントンは、ロシアの操り人形である大統領よりも、国民の票を300万枚も多く獲得したのに」とツイートしていた。

 コメディアン、俳優、コメディライター、映画監督として、70年も活躍。昨年も、「トイ・ストーリー4」に声の出演をしている。最近ではまたスティーブン・ソダーバーグの「オーシャンズ11」3部作に出演。ほかに、日本人に馴染みのある昔の出演作には、ディック・ヴァン・ダイク、ジェームズ・ガーナーらと共演した「恋するパリジェンヌ」、アラン・アーキン共演の「アメリカ上陸作戦」などがある。監督としては、「オー!ゴッド」、「ワン・アンド・オンリー」、スティーブ・マーティンの映画デビュー作「天国から落ちた男」、「スティーブ・マーティンの四つ数えろ」、「オール・オブ・ミー/突然半身が女に!」などを作った。

 しかし、彼が最も大きな貢献をしたのは、初期のテレビ界だ。50年代、当時トップのコメディアンだったシド・シーザーの番組「Your Show of Shows」や「Caesar’s Hour」に出演するほか、メル・ブルックス、ニール・サイモンなどと共にライターも務め、「Saturday Night Live」にもつながるアメリカのコメディ番組の基盤を作ったのである。駆け出しのコメディライターとしてチームに入れてもらえたウディ・アレンも、今年出版された回顧録で、ライナーも名指ししつつ、このグループがいかに最高級だったかを振り返っている。

 60年代には、自分の人生にもとづく新たなコメディ番組を企画。だがテレビ局は彼自身が主演するという部分を嫌がったため、配役を変えて「The Dick Van Dyke Show」として放映されることになった。この番組で、主演のヴァン・ダイクとメアリー・タイラー・ムーアは、国民的スターになっている。

 ニューヨークのブロンクス地区生まれ。父はオーストリア、母はルーマニアからの移民。第二次大戦では兵士たちに娯楽を与える部署に所属、ハワイ、グアム、サイパン、硫黄島などでパフォーマンスを行った。21歳の時、8歳年上のルボストと結婚。2008年にルボストが亡くなるまで添い遂げている。ふたりの間に生まれた長男ロブは、映画監督、プロデューサー、俳優。彼の監督作「恋人たちの予感」で、オーガニズムを感じるふりをしてみせたメグ・ライアンに「彼女と同じものをちょうだい」という女性客役を演じているのは、母ルボストだ。「マジェスティック」で声の共演をするなど、父子でのコラボレーションもある。

 父の死を受けて、現地時間30日朝、ロブは、「昨夜、父が亡くなりました。書いていても胸が苦しいです。彼は私の道案内人でした」とツイートした。ほかにも、ロン・ハワード、ジェリー・サインフェルド、スティーブン・キング、ジョージ・タケイ、ビリー・クリスタルなどが、追悼のツイートをしている。「オーシャンズ11」シリーズで組んだジョージ・クルーニーも、「カール・ライナーがやってくると、部屋はいつも、もっとファニーになり、賢くなり、優しくなりました。彼はそれを楽々とやっているようでした。なんという素敵な贈り物を彼は私たちにくれたのでしょうか」と、声明を発表した。偉大な人物を失ったのは悲しいが、彼はきっと今頃、天国で妻との久しぶりの再会を喜んでいることだろう。たくさんの笑いをありがとうございました。ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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