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2019年ハリウッドの10大ニュース

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
長女を裏口入学させたフェリシティ・ハフマンは14日の実刑判決を言い渡された(写真:ロイター/アフロ)

 今年もいろいろあったハリウッド。お悔やみ以外で最も思い出に残る出来事を振り返ってみよう。

長く愛された作品の終了

 現在世界中で大ヒットしている「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」は、1977年の「新たなる希望」で始まった“スカイウォーカー・サーガ”の完結編。もちろん、これで「スター・ウォーズ」そのものが終わるわけではない。ディズニーは40億ドルも払ってルーカスフィルムを買収しており、その投資を最大限に活かすべく、これから「スター・ウォーズ」をどうもっていくのかを検討中だ。今現在も、Disney+で「マンダロリアン」が配信中だし、ほかにもスピンオフの企画が進行している。それでも、ひとつの大きな区切りがついたのはたしかだ。ほかに、今年は、「X-MEN/ダーク・フェニックス」で、フォックス時代の「X-MEN」が完結。テレビでは「ゲーム・オブ・スローンズ」が終了した。

裏口入学事件でエミー賞女優が刑務所入り

 今年前半、全米に衝撃を与えた、名門大学の裏口入学事件。手口は、テスト結果を改ざんする、やってもいないスポーツの優待枠にねじこむなどだ。その斡旋をしたのは、ウィリアム・“リック”・シンガーという男性。彼の“顧客”になったとして逮捕された中には、エミー賞受賞女優フェリシティ・ハフマン(『デスパレートな妻たち』)や、「フラーハウス」のロリ・ロクリンがいた。ハフマンの夫ウィリアム・H・メイシーも、長女を裏口入学させるためにハフマンがシンガーと行った話し合いに同席していたが、起訴されていない。

 ハフマンは潔く罪を認め、14日間の実刑判決を受けた。一方でロクリンと夫でファッションデザイナーのモッシモ・ジャンヌリは、無実を主張。証拠があるにもかかわらずねばり続けるこの夫妻への求刑は、さらに重くなるのではとの推測もある。

女性監督の活躍状況に進歩

 ハリウッドの男性優位については散々言われてきたが、中でも最も男女差が顕著なのが、監督という職業。しかし、2019年は、ついに多少の変化が見られた。この秋から冬にかけては、グレタ・ガーウィグの「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」や、カシ・シモンズの「Harriet」が高い評価を受け、各アワードで健闘しているのだ。

アルマ・ハレル監督の「Honey Boy」は、監督部門を含む4部門でインディペンデント・スピリット賞にノミネートされている(Amazon Studios)
アルマ・ハレル監督の「Honey Boy」は、監督部門を含む4部門でインディペンデント・スピリット賞にノミネートされている(Amazon Studios)

 また、女性監督だからといって、女性についての映画にかぎられる必要はないことも、証明され始めている。たとえばマリエル・ヘラーが監督したトム・ハンクス出演作「A Beautiful Day in the Neighborhood」は、実在の子供向け番組パーソナリティ、フレッド・ロジャースの伝記映画。また、アルマ・ハレルは、シャイア・ラブーフの自伝映画「Honey Boy」を監督した。人種問題に鋭く迫るメリナ・マツォウカスの「Queen & Slim」もある。ハレルは、「今、いよいよ変化が起こり始めていると、私も感じている」と希望を語っている。

「フレンズ」25周年で再フィーバー

 日本人にはピンとこないかもしれないが、ジェニファー・アニストンを大ブレイクさせた「フレンズ」(1994-2004)は、アメリカの歴史に永遠に残るメガヒット番組だ。10年続いたこの番組の最後の2年、主要キャスト6人が、30分1話あたり100万ドル(約1億1,000万円)のギャラを獲得したことも、業界史に残る出来事である。

 デビューから25周年にあたる今年、アメリカでは、おなじみのオレンジのカウチが期間限定で街に登場したり、映画館で特別上映イベントが行われたり、ブランドとのコラボ商品が発売されたりなどのお祭りがあった。それがまた、この番組がカルチャーにもたらした意味について、さまざまな考察を喚起している。さらに、今年は、Netflixが、この番組をあと1年配信させてもらうため、権利をもつワーナー・ブラザースに1億ドル(約110億円)を払ったこともニュースになった。ワーナーは、来年春、独自のストリーミングサービスHBO MAXを立ち上げ、「フレンズ」もそちらに移動するはずだったのだが、Netflixとしては、このすばらしいお友達とまだお別れする心の準備ができていないようである。

「ROMA/ローマ」のオスカー作品賞ニアミス

 ライバルの乱立で「フレンズ」以外にも昔の番組や映画を失い続けるNetflixは、以前にも増す勢いで、多額の予算をつぎ込んでは、高品質のオリジナルコンテンツを作り続けている。そんな中、今年はついに、「ROMA/ローマ」が、オスカー作品賞を獲得しそうになった。結果的には「グリーンブック」に負けたが、そこには、ストリーミングは映画なのかどうかの線引きが曖昧な中、Netflixの「ROMA〜」に賞をあげてしまうと、事実上決まってしまうということへの牽制があったと思われる。

 この状況に危機感を高めたスピルバーグは、オスカー終了後すぐにでもルールの改変を示唆したが、結局、大きな変更は加えられなかった。来年のオスカーでは、やはりNetflixによる「アイリッシュマン」の大健闘が予測されており、ジャッジメント・ディは、ただ1年延びただけになる可能性もある。

授賞式“ホストなし”時代の到来

 今年のオスカーは、舞台裏もまた大騒動だった。ホストがケビン・ハートと発表されてすぐ、彼の過去のゲイ差別発言が再浮上し、彼は降板。次のホストを探すも決まらず、最終的に、アカデミーは、ホストなしで行くと決断したのだ。どうなることやらと思われたが、評判はまずまずで、来年もまたホストは使わないことが、早々と決まっている。

 そのどたばたの過程では、オスカーのホストは責任が重いわりにギャラが安く、誰もやりたがらないという、アカデミーにとって恥ずかしい実情も露呈されてしまった。プレッシャーの少ないゴールデン・グローブやインディペンデント・スピリットなどは、来年もまたおなじみのホストを立てて行われる。

「アベンジャーズ/エンドゲーム」が世界興収新記録を達成

 今年最高のヒット作は、言うまでもなく「アベンジャーズ/エンドゲーム」。世界興収は27億9,780万ドルで、これまでトップだった「アバター」の27億8,995万ドルを上回る新記録だ。とは言っても、僅差である上、「アバター」が公開されたのは2009年。チケットの値段は今より安かったし、世界における映画館の数も少なかった。また、ディズニーは、まさにこの目的を達成するために、夏に今作を劇場で再上映してもいる。もちろん、それでも1位は1位だ。ちなみに、インフレ調整をした史上最高ヒット作は、今も「風と共に去りぬ」である。

「ジョーカー」の爆発的ヒット

 ランキングでは今年の世界興収で7位ながら、本当の意味で大ヒットしたのは、間違いなくこの映画だ。上位9位のうち、R指定で、予算1億ドル以下なのはこれだけ。また、一応スーパーヒーローというジャンルに入りつつ、普段スーパーヒーロー映画を見ない人たちに受けたところも、特筆すべきだ。エンディングのセリフの意味、ストーリーの解釈のしかたなど、さまざまな論議が交わされ、社会現象にもなっている。あらゆる意味で、2019年を代表する映画だったと言えるだろう。

「ジョーカー」は世界興収10億ドルを達成。ストーリーの解釈をめぐってさまざまな論議も起こり、社会現象になった(Warner Brothers)
「ジョーカー」は世界興収10億ドルを達成。ストーリーの解釈をめぐってさまざまな論議も起こり、社会現象になった(Warner Brothers)

人気ドラマに出演する黒人俳優にヘイトクライム自作自演の疑惑

  今年最も怒りを呼んだニュースは、TVドラマ「Empire 成功の代償」のジャシー・スモレットをめぐる事件だ。ことの始まりは、スモレットが、「Empire〜」が撮影されているシカゴで白人男性ふたりから暴行を受けたとし、ケガをした状態で病院を訪れたこと。警察の調べに対し、スモレットは、犯人らが、ゲイ差別発言や、「ここはMAGA(Make America Great Again: トランプのスローガン)の国だ」などと言ったと証言した。世間はスモレットに強く同情し、ヘイトクライムへの抗議の声が上がる。だが、まもなく状況は逆転。その犯人ふたり組は、白人ではなく黒人の兄弟で、スモレットと親しい間柄にあったことがわかったのだ。

 兄弟が捜査に協力しても、スモレットは自作自演を否定。シカゴ市は彼の嘘のために無駄にされた捜査費を取り戻すべく彼を訴訟、それを受けてスモレットもシカゴ市を逆訴訟し、泥沼になった。そんな中、「Empire〜」を製作放映するフォックスは、次のシーズンでこのドラマを終えると発表している。

Disney+のデビューでストリーミング戦争が本格化

 矢は、ついに放たれた。ディズニーの野望だった、独自のストリーミングサービスDisney+が、先月、堂々デビューしたのである。そもそも、巨額なお金を払ってフォックスを買収した目的も、このためのコンテンツ確保だ。すでにマーベル、ピクサー、ルーカスフィルムを抱えるディズニーが、フォックス作品まで加えて新たなサービスを立ち上げるとなると、Netflixがリードしていたストリーミング界の力関係は、大きく変わる。ディズニーによるこの構想が明らかになって以来、業界は、まさにカウントダウンのように11月10日という日を見つめていた。ついにその日がやってくると、最初の24時間だけで、1,000万人が加入している。

Disney+は初日に1,000万人の会員を獲得。好調なスタートとなった(筆者撮影)
Disney+は初日に1,000万人の会員を獲得。好調なスタートとなった(筆者撮影)

 すでにAmazon Prime Video、Hulu、CBS All Accessなどがしのぎを削るこの市場は、来年春、ワーナーのHBO MAXとNBCユニバーサルのPeacockが参戦することで、さらに混み合う。これら全部を見る時間も、お金もない消費者は、必然的に取捨選択を迫られることになる。事実、Cowen & Co. 社の調査によると、Disney+のデビューを受けて、すでに1,100万人がNetflix を解約したとのことだ。ストリーミングのさらなる充実が、苦戦を強いられている映画館の経営にどこまで影響を及ぼすのかも注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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