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ウィル・スミスがダブル主演!最新作「ジェミニマン」は「この年齢だからやれた映画」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
フッテージ上映会に登壇したブラッカイマー、スミス、リー(筆者撮影)

「アラジン」で再びウィル・スミスの魅力に目覚めた人たちに、朗報。この秋公開になる次回作「ジェミニマン」で、彼は、主演どころかダブル主演を果たしてみせるのだ。つまり、最初から最後までウィル・スミス祭り状態なのである。

 アン・リーが監督、ジェリー・ブラッカイマーがプロデューサーを務めるこの近未来アクションエンタテインメントで、スミス演じるヘンリーの命を狙うジュニアという若い男は、彼のクローン。ハリウッドのパラマウントスタジオで行われたフッテージ上映会に登壇したスミスは、この役は若い頃にはできなかったと語る。「若い自分に会えたら、自分はなんと言うだろう?そして、若い自分は歳を取った自分を見てどう思うのだろう?」というテーマは、50歳の今だからこそ理解できるというのだ。

「アンと今作について話し合いを始めた時、彼はその部分をとてもパーソナルな視点から語ってくれた。それを聞いている自分がもし23歳だったら、彼の言いたいことはまるでピンとこなかったと思う。若い自分が、自分のたどってきたのと同じ道を歩もうとしている。自分が今後悔していることを、まさにやろうとしている。それを自分は今、正してあげられるのかもしれない。そんな状況は、人生を振り返ることができるようになったこのタイミングだからこそ、共感できるんだよ」。

手前はジュニア、後ろがヘンリー。ジュニアはまるで若い頃のスミスそのものに見えるが、100%デジタル。しかし演技はスミスのパフォーマンスキャプチャーだ(2019 Paramount Pictures)
手前はジュニア、後ろがヘンリー。ジュニアはまるで若い頃のスミスそのものに見えるが、100%デジタル。しかし演技はスミスのパフォーマンスキャプチャーだ(2019 Paramount Pictures)

 興味深いのは、ジュニアを演じているのはスミスでありながら、スクリーンのジュニアは完全にCGで作られていること。デジタル加工でスミス本人を若く見せるのでなく、スミスによるパフォーマンスキャプチャーの演技を使い、この分野の第一人者であるWETAデジタルが一から作り上げているのだ。スミスの若い頃の映像は大いに参考にするが、あくまで参考である。

 撮影の手順としては、まずスミスがヘンリーを演じる部分を撮影し、それが終わるとジュニアのほうに移った。ジュニアを演じる上で意識しなければならなかったのは、その年齢だった頃の自分と同じレベルに演技を落とすこと。スミスの演技は、彼が20代だった頃から格段に上手くなっているのだが、当時のスミスを覚えている観客は多いので、彼らしく見せるためには、そこも昔通りでないといけないのだ。

「アンはしょっちゅう僕に『そんなに上手くやらないで』と言ったよ。昔の僕の映画を見せられて、『こんなふうに』と言われることもあった。僕は、かつて自分がエンタメ業界に提供した悲劇の大きさをまざまざと見せつけられたというわけさ(笑)」。

リー(左)とスミスが組むのは、今回が初めて。一方でスミスとブラッカイマーの関係は95年の「バッドボーイズ」にさかのぼる(2019 Paramount Pictures)
リー(左)とスミスが組むのは、今回が初めて。一方でスミスとブラッカイマーの関係は95年の「バッドボーイズ」にさかのぼる(2019 Paramount Pictures)

 リーが今作を通常の1秒あたり24フレームでなく120フレームで撮影したことも、さらなるチャレンジを与えた。24フレームだとごまかせることが、120フレームだとごまかせないのである。

「しかも3D。すべてのディテールが映し出されてしまう。顔の毛穴まで見えるよ。それは、役者にとって恐ろしいこと」。だが、見返りも大きかった。たとえば、アクションシーンがそうだ。120フレームならではのリアル感と迫力はフッテージでも明らかだったが、戦う相手ジュニアがCGのキャラクターであることも大きく貢献していると、スミスは言う。普通ならば、相手も人間なので、ケガをさせないよう、いかにも殴られているように見える撮り方をしなければならないが、今作では拳が本当に顔に当たるようなシーンがいくつも出てくるのである。

「これほどクリアに殴り合いが描かれる映画は、これまでなかった。少なくとも僕が出た映画では、絶対になかったね」と、スミスは誇らしげに微笑む。あらゆる意味で大胆な今作は、どんな映画に仕上がるのだろうか。公開は10月25日とまだ先だが、今のところは予告編を見ながらぜひ期待を高めてほしい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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