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今度はブラッドリー・クーパー。ハリウッドセレブがオスカー後まで破局を待つ理由

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今年のオスカーにカップルで出席したブラッドリー・クーパーとイリーナ・シェイク(写真:Shutterstock/アフロ)

 ブラッドリー・クーパーと、スーパーモデルのイリーナ・シェイクが、ついに破局した。4年間つきあったふたりの間には2歳の娘がいる。

 実は、このカップルの危機説は、昨年秋ごろから浮上していた。レストランで食事中にふたりがいっさい口をきかなかったというような目撃証言もある。それでも、このアワードシーズン、シェイクは、クーパーに付き添ってさまざまなレッドカーペットに登場している。オスカー授賞式で、クーパーと「アリー/スター誕生」の共演者レディ・ガガが熱々デュエットをした時も、シェイクは客席で静かに微笑みつつ見守っていた。しかし、このアワードシーズン、とくに初期には有力視されていたこのクーパーの監督デビュー作は、結局、ガガが歌曲賞を取ったのにとどまり、クーパー自身は手ぶらのまま帰ることに。それから3ヶ月ちょっと経つ今、そろそろいいでしょうとでも言うように、クーパーとシェイクの関係は終わりを告げたのだ。

 オスカー候補に上がったセレブが、授賞式が終わるまでパートナーとハッピーなカップルを演じるのは、これまでにもあった。たとえばベンジャミン・ブラットとジュリア・ロバーツも、ロバーツが主演女優賞を取った3ヶ月後に別れている。リース・ウィザスプーンと元夫ライアン・フィリップが別居を発表したのも、ウィザスプーンが「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」で主演女優賞を取った、およそ半年後。しかし、フィリップが「Stop-Loss」(日本未公開)の共演者アビー・コーニッシュと不倫をしているとの噂が出るなど、夫婦仲についての良くない憶測は、その前からあった。ウィザスプーンとフィリップがデキ婚をしたのはウィザスプーンが23歳の時で、今になって、ふたりは共に、「自分たちは若すぎたのだ」と語っている。

一度は愛した人にしてあげられる最後のこと

 オスカーキャンペーン中、彼らが仮面をかぶるのは、もちろん、キャリアのためだ。誰だってオスカーは喉から手が出るほどほしい。だが、どんな演技派や大スターであっても、ノミネートされる、さらには最有力と呼ばれるチャンスなど、めったにめぐってはこないのである。せっかくその機会が訪れた時に、私生活のネガティブなゴシップが出回っては、投票者の気持ちに影響が出るかもしれないし、演技を見ることに集中してもらえないかもしれない。それだけは、どうしても避けたい。

 また、カップル社会のアメリカでは、レッドカーペットを歩く上で、横に誰かいたほうがいいというのもある。公の席に恋人を連れ回すことをしないレオナルド・ディカプリオですら、「アビエイター」で主演男優部門に初めて候補入りした2005年には、当時つきあっていたジゼル・ブンチェンを同伴している(このカップルもまた多分に漏れず、オスカー後に破局した)。トム・クルーズとの離婚後に「めぐりあう時間たち」で主演女優賞を受賞したニコール・キッドマンが後に語っているように、その夜、誰もいない家に帰ることになりたくないというのもあるかもしれない。

 パートナー側にしてみたら、こうやって隣で微笑んであげるのが、一度は愛した人に対するせめてもの思いやりであり、最後にできることなのだろう。とは言え、キャンペーンシーズンの過酷さは、異常だ。メジャーな授賞式のほかにも、候補者は投票者向け試写会に付いてくる質疑応答をはしごし、カクテルパーティで愛想をふりまき、ラジオやテレビに出演する。そんな分刻みのスケジュールをこなして家に帰れば、ついピリピリしてしまったりするかもしれない。しかし、時々並んでフラッシュを浴びるだけのパートナーには、それがどんなにきついことか、本当にはわからない。そんなふうに、表で良い顔を見せている間、裏ではすでにあったヒビがどんどん深くなっていっているというのは、ありえることなのである。

パートナーだけが仮面をかぶっていたサンドラ・ブロックの例

 そんな中でちょっと違うのはサンドラ・ブロックのケースだ。彼女も、「しあわせの隠れ場所」でオスカー主演女優賞を受賞したすぐ後に、当時の夫ジェシー・ジェームズと離婚している。だが、ブロック本人は、この授賞式の夜、自分は私生活でも幸せだと信じていたのである。

 それがひっくり返されたのは、授賞式のおよそ10日後。ブロックが受賞してニュース性が高まるのを待っていたかのように、ジェームズの浮気相手がゴシップ誌にすべてを暴露したのだ。その女性はタトゥーモデル兼ストリッパーで、ブロックが「しあわせの隠れ場所」の撮影で留守にしている間、ずっとジェームズと関係をもっていたとのことである。彼女の告白を皮切りに、ほかにも次々と不倫相手が名乗り出てきた上、ジェームズがストリップクラブで派手に金を使っていた事実なども浮上。人生最高の時期を台無しにされたブロックは、その翌月、離婚を申請した。

 このカップルの場合、仮面をかぶっていたのは、片方だけである。そしてそれは、自らの意思でなく、他人によってはがされることになった。以後、ブロックが恋人を同伴してレッドカーペットを歩いたことはない。だが、そこには何の問題もない。今もまだトップスターの地位に君臨する彼女に、アクセサリーなど必要ないのだ。愛してくれているフリをする男などいなくても、彼女には世界中に大勢のファンがいる。それに値しない人間と分かち合うくらいなら、むしろひとりでたっぷりと愛のシャワーを浴びたほうが、ずっといいではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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