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ハリウッドの大物、ツイートのせいでまたもやクビに。10年前の投稿を持ち出すのはフェアなのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
10年前のツイートを持ち出され、ディズニーとの関係を断ち切られたジェームズ・ガン(写真:Shutterstock/アフロ)

 大人気番組の主演女優ロザンヌ・バーが、人種差別ツイートのせいで即座に失脚させられたのは、5月のこと(1本のツイートでキャリアを失ったスターの愚行と、トップ番組を容赦なく切ったテレビ局の英断)。その記憶も新しい中、今度はマーベル映画の監督が、やはりツイートを理由に、次回作をクビになった。だが、今回標的にされたツイートは、10年ほど前のもの。背後に政治的な策略があるのも明らかで、大きな論議を巻き起こしている。

 問題の監督は、ジェームズ・ガン。2014年の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」と、2017年の続編「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」を大ヒットさせたガンは、2020年の公開を狙う3作目でも、監督と脚本家を兼任することが期待されていた。しかし、アメリカ時間先週19日、保守派のウェブサイトdailycaller.comが、彼による過去のツイートの数々を掘り出して掲載したのである。

「笑いは最高の薬。だから僕はAIDS患者を笑うのだ」「これまでに見た最高のデブ男がこっちに向かって歩いてくる。500ポンドはあるぞ」「寝ている彼女に向かって、お尻からレイプをするジョークを言った」などという、差別、あるいはセクハラ発言と思われるそれらの多くは、2008年に投稿されたもの。最も新しいものでも、2011年だった。この記事で紹介された以外にも、「小さな男の子に、体のある場所を触られるのが好き」「レイプされるののいいことは、終わった後、『ああ、レイプされていないっていいなあ』と感じられることだ」などのツイートがあったこともわかった(これらはいずれもすでに削除されている)。

 この報道を受けて、ガンは、19日、「僕のキャリアを早くから追いかけてくれている方々はご存知と思いますが、初期において、僕はタブーなジョークを好む扇動者でした。その後、僕は人間として成長し、僕の仕事やユーモアも、それに伴ってきています」「反応を楽しむがために衝撃的なことを言う日々は、もう僕にとって過去のものなのです」などという弁明のツイートを連続して投稿した。だが、20日、マーベルの親会社ディズニーの会長アラン・ホーンは、「ジェームズのツイートにあるコメントは、弁護の余地がなく、わが社の価値観にそぐわないものです。したがって、我々は、彼とのビジネス関係を断ち切ることに決めました」と声明を発表。「ガーディアンズ〜」3作目は、突然にして、監督を失うことになってしまった。

会社としては、この時点でほかの選択肢はない

 ディズニーの決断は早かったが、この状況において、彼らにほかの選択肢はなかったと言える。先に述べたバーの主演番組「Roseanne」を放映していたABCもディズニーの傘下で、企業としては、彼女は切ったがガンに対しては何もしないというわけにはいかないのだ。セクハラ問題に関してもどこもそうしてきているように、会社にとってどんなに大事な人物でも、例外を作ることは許されないのである。

 とりわけ、悪あがきをやめないバーは、最近になって、自分はトランプ支持者だから切られたのだと言い出している。ガンはツイッターで激しくトランプと保守派を叩いてきた人物で、ディズニーが決断を躊躇しようものなら、ほら言っただろうということになるだろう。

 ソーシャルメディアには、「ディズニーがダブルスタンダードじゃないのはいいことだ」「『少年に触られたい』なんて、気持ち悪い!こいつをクビにして正解」など、評価するコメントも見られる。だが、「これらはただのバカなジョーク。ロザンヌは本気だった。それとは違う」「12歳の時にやったトイレの落書きまで非難されるようになるのか」「昔の間違いを出してこられたら、あなたはどう思う?」といった、ひとつのルールで判断することへの疑問は、それ以上に多い。

 保守派の思うつぼにはまったことへの批判もある。dailycaller.comの記事は、自分たちが目の敵にするガンを貶めるためにこれらのツイートを探り出したことを、最初から隠してもいないのだ。「ガンも、彼を攻撃する人も、彼を弁護する人も、みんなイデオロギーに取り憑かれている。関係者はみんな悪い」「わが子にも、ソーシャルメディアに何か書き込む時は注意するように言おう。何年先に返ってくるのかわからないんだから」というコメントは、ここで起こっていることを言い当てている。

タランティーノは似たような至難を乗り越えた

 直接のセクハラ加害者ではないのに、過去の発言を持ち出されて苦境に陥った人物に、クエンティン・タランティーノがいる。タランティーノは、2003年、毒舌で有名なハワード・スターンの番組に出演し、ロマン・ポランスキーのレイプ事件について、「あれはレイプじゃない。彼女は13歳でも遊び女だったから」「彼女もやりたかったんだ」などと発言した。15年前の彼のコメントなど、誰も覚えてはいなかったのだが、「#MeToo」運動が盛り上がる中、今年2月浮上し、メディアをさわがせることになったのである。

 タランティーノは即座に謝罪の声明を発表したものの、この事実が1億ドルの予算をかける彼の次回作に影響を与えるのかどうかは不明だった。しかし、騒ぎが起きた時すでに出演についての話し合いをしていたブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオは、正式に出演契約を結び、女性であるだけにどう判断するかが注目されたマーゴット・ロビーも、後に出演を承諾した。撮影はすでに始まっており、もうあの話は聞かれない。

 これらの誰も、表立ってタランティーノを弁護することはしなかった。だが、彼と仕事をするのを控えようとも思わなかったわけだ。ひとつには、タランティーノが業界で好かれていることがあると思われる。彼はいつもエネルギーにあふれ、楽しさいっぱいの人。男優陣にタランティーノ作品へのリピーターが多いのは言うまでもないが、「イングロリアス・バスターズ」に出演したダイアン・クルーガーも、彼のことを絶賛している。「キル・ビル」の撮影でケガをさせられたことを明かしたユマ・サーマンも、彼を許した。

 ガンもまた、味方を多くもつ。そして彼の場合は、表立って彼を弁護する人が、すぐに出てきている。ひとりは「ガーディアンズ〜」に出演するデイブ・バウティスタ、もうひとりは長年の友人セルマ・ブレアだ。

 バウティスタは、「ジェームズ・ガンは、僕がこれまでに出会った中で、最も優しくて愛にあふれた人のひとり。人にも動物にも思いやりがある。彼は間違いをおかしたが、それはみんなやること。今、彼に起こっていることを、僕は受け入れられない」とツイート。この投稿には、現在、7万4,000以上の「いいね」がついている。ブレアはさらに踏み込んで、「マーベルへ。ジェームズ・ガンをもう一度雇ってください」とツイートした。「昔とは変わったのに罰を受けるなら、間違いを認めて変わろうとする人はどうすればいいの?」と問いかける彼女は、人々にchange.orgの嘆願書への署名を求めている(RE-HIRE JAMES GUNN)。

 署名は、現段階で12万近く集まっている。果たしてこれら声は状況を変えるのだろうか。それとも、もう門は閉ざされたのか。「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」で消えてしまったスーパーヒーローたちの運命を思いあぐねるように、ファンは、不安と期待をもって、この件の行く末を見つめている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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