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ケイト・スペードに、アンソニー・ボーディン。ハリウッドに愛されるふたりが立て続けに自殺

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アンソニー・ボーディンとアーシア・アルジェント(写真:Shutterstock/アフロ)

 なんという週だったのか。こんなことは、もう繰り返してほしくない。

 ケイト・スペードがニューヨークの自宅で首を吊っているのを発見されたのは、アメリカ時間5日。それから3日後には、アンソニー・ボーディンが、レギュラー番組のロケのため訪れていたフランスで自殺を図ったのである。スペードは55歳、ボーディンは61歳だった。

 スペードはハンドバッグデザイナーで、ボーディンはシェフ。だが、ふたりはいずれもハリウッドと関係が強く、セレブたちに愛され、尊敬されていた人物だった。スペードの夫アンディは、デビッド・スペードの兄。デビッドは90年代「Saturday Night Live」にレギュラー出演し、番組の同期だったアダム・サンドラーの映画などにもたびたび出てきたコメディアンだ。ハリウッドとのつながりは夫側だけでなく彼女自身の筋にもある。Amazonのドラマ「マーベラス・ミセス・メイゼル」でゴールデン・グローブ主演女優賞に輝き、大注目されているレイチェル・ブロスナハンは、彼女の兄の娘、つまり姪なのだ。

 ボーディンは、CNNの「Anthony Bourdain: Parts Unknown」に出演中で、その前にはトラベルチャンネルで「No Reservation」「The Layover」を持っていた。2000年に出版され、ベストセラーとなった著書「キッチン・コンフィデンシャル」に映画化の話が浮上した時には、ブラッド・ピットが主演に興味を示している。

 また、ボーディンの恋人は、イタリア人女優アーシア・アルジェントだ。ハーベイ・ワインスタインにレイプされた過去を昨年秋の「New Yorker」で明かしたアージェントは、「#MeToo」運動を引っ張ってきた女優のひとり。彼女の勇気ある行動を常に賞賛し、支えてきた彼もまたこの運動の重要な仲間で、訃報を受け、ローズ・マッゴーワン、オリヴィア・マン、パトリシア・アークエットなど、ワインスタインの被害者たちが、アルジェントにお悔やみのメッセージを送った。

 ほかにも、ツイッターには、ギレルモ・デル・トロ、デイン・デハーン、ミア・ファロー、オバマ前大統領らによるメッセージが見受けられる。そんな中、ヴァル・キルマーのコメントは、ちょっとした論議を呼ぶことになった。彼は、ボーディンの自殺を「身勝手な行為」と書いたのだ。

 その投稿については、「ケイト・スペードもそうだったけれど、子供を置いて死ぬなんて、本当に身勝手よ」と賛同する人もいれば(スペードには13歳、ボーディンには11歳になる娘がいる)、「自殺は身勝手ではない。その人は辛さから逃げたいだけ」と反対する人もおり、また、「こういう状況でその人を責めるなんて。あなたという人がよくわかった。もうフォローをやめます」と、キルマーを批判する人もいる。だが、キルマーは、その長い投稿を、「昨夜、僕は、(ボーディンの番組の)ウルグアイの回を見ながら眠りに落ちてしまった。再放送だったけれど、見るたびに新しい発見があるんだ。君は早く逝きすぎた。僕は、それを証明してやる」という言葉で締めくくっている。彼がもっとも言いたかったのは、きっと、やりきれない思いと、ボーディンへの愛だったのだ。

 ボーディンは、過去に、鬱に悩んでいることを番組内でも告白している。スペードの夫も、彼女が鬱を抱えていたと明かした。スペードの姉は、彼女を、キャサリン・ゼタ=ジョーンズが双極性障害に苦しんだ時に入った施設に連れて行こうとしたこともあったのだが、結局、本人が行かないと決めたと語っている。そんなことがあったため、姉にとって、彼女の自殺は「驚きではなかった」のだそうだ。ツイッターには、鬱の危険を見逃してはならないと警告するメッセージも、いくつか見受けられる。

 CNNは、この日曜日に、急遽、ボーディンの追悼番組を放映すると発表した。世界中で撮影された、それら数々の映像を通して、人々は、彼が教えてくれたさまざまな味や文化、そして彼のユーモアや好奇心を思い出すことだろう。スペードのバッグも、彼女の死後、ファッション専門のショッピングサイトで売り上げが500%から600%もアップしているという。

 ふたりが私たちに与えてくれたものは、大きかった。キルマーが言うとおり、逝くのはあまりにも早すぎた。ご冥福を心よりお祈りする。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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