主演スターがプロデューサーでもある状況は、監督にとってどんなことなのか

「アイ、トーニャ〜」のマーゴット・ロビーとクレイグ・ギレスピー(写真:Shutterstock/アフロ)

 現在日本公開中の「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」は、フィギュア界のお騒がせ選手トーニャ・ハーディングの半生を描くブラックコメディ。11日公開の「ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜」は、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件で両脚を失った青年の苦悩と葛藤を描く感動のドラマ。作風こそまるで違うが、このふたつの映画には、いくつかの共通点がある。近年起こった出来事を描く、実在の人物の話であること。主演がハリウッドのトップスターであること。さらに、そのスターにとってプロデューサーとしてのデビュー作であることだ。

 ハリウッドスターがプロデュースを手がけること自体は、昔から非常によくある。ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、ジョージ・クルーニーなど、黙っていても美味しい役が次から次へとやってくるトップの男性スターの場合は別だが、たいていは、自分がやりたいような役を、待っているだけでなく自分のほうから作り出そうという目的で始めるものだ。あるいは、「女性やマイノリティなど、映画にあまり登場させてもらえない人々の話を語っていきたい」というジェシカ・チャステインのように、もっと大きな視野をもち、正しい方向に変化させていくことを目標とすることもある。

「アイ、トーニャ〜」のマーゴット・ロビーと、「ボストン ストロング〜」のジェイク・ギレンホールは、その小さな視野のほうもあるが、むしろ大きな視野を理由に、プロデュースに飛び込んだ。動機として、ロビーは「女優みんなにとっての役を、もっと作ること。女優が中心の映画がヒットしてお金を稼げば、大手スタジオも同じことをしようとして、女優にとっていい方向に変わるはずだから」、ギレンホールは「僕自身が優れていると見るフィルムメーカーを支援し、新しいビジョンをスクリーンに反映させること」と述べている。

 それぞれの映画の企画に出会った時、ロビーも、ギレンホールも、自分のプロダクション会社を立ち上げたところだった。ロビーは最初からプロデューサー兼主演女優として「アイ、トーニャ〜」にたずさわったが、ギレンホールはまず主演に決まり、途中からプロデューサーの肩書きも得ている。資金集めに難航していたところへ、ギレンホールが、過去の主演作「ナイトクローラー」に資金を提供したボールド・フィルムズを連れてきたことがきっかけだ。

「ボストン ストロング〜」で、ギレンホールは、マラソンのゴール付近に居合わせてしまった実在の男性ジェフ・ボーマンを演じる(写真/Roadside Attractions)
「ボストン ストロング〜」で、ギレンホールは、マラソンのゴール付近に居合わせてしまった実在の男性ジェフ・ボーマンを演じる(写真/Roadside Attractions)

 監督が決まったのは、いずれも彼らより後。「ボストン ストロング〜」の監督にデビッド・ゴードン・グリーンを提案したのはギレンホールではないが、彼はグリーンとじっくり話し合う機会をもった上で、承認をしている。「アイ、トーニャ〜」のクレイグ・ギレスピーも、ロビーに自分をしっかり売り込んだ結果、監督の座を獲得した。

「僕はまず、ほかのプロデューサーおよび脚本家のスティーブン・ロジャースと面接をした。その次に、マーゴットだ。彼女が最初に聞いてきたのは、どんなトーンをもつ映画にしようと思っているのかということ。それは非常に重要な問題で、僕らは45分にわたってそのことを話し合ったよ。家庭内暴力(DV)のシーンをどう扱うかを聞かれた時、僕は、『手加減はせず、正面からぶつかります。そうすることで、トーニャがどんな環境に置かれていたのかが理解できますから』と答えた」(ギレスピー)。

ロビーは監督よりも先に「アイ、トーニャ〜」に主演女優兼プロデューサーとして関わることが決まっていた(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)
ロビーは監督よりも先に「アイ、トーニャ〜」に主演女優兼プロデューサーとして関わることが決まっていた(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)

 映画を見た人ならご存知のとおり、今作では時々、トーニャ(ロビー)が観客に向けて語りかけてくる場面がある。その方法は、DVというテーマにぶつかりつつも、重くなりすぎないために、ロビーとギレスピーらが考案したものなのだ。

「トーニャにとって、DVは日常のこと、普通のことだった。彼女がこっちに向かって平気そうな顔を見せてくれれば、観客も少しは気分が楽になるだろうと、僕らは考えたんだよ」(ギレスピー)。

主演俳優がプロデューサーであることの、監督にとってのメリットは

 ディカプリオはマーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で主演とプロデューサーを兼任しているが、彼はその前に何度かスコセッシ作品に俳優のみとして出演している。「ギャング・オブ・ニューヨーク」で初めて組ませてもらうまで、スコセッシは、ディカプリオにとってあこがれの巨匠だった。プロデューサーとして一緒に名を連ねるようになったのは、実際に組んで、お互いに最高のパートナーだとわかってからである。やはり巨匠と呼ばれるデビッド・フィンチャーも、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で、主演のケビン・スペイシーと共にエグゼクティブ・プロデューサーを務め、いくつかの回で監督も兼任したが、ふたりは1995年の「セブン」からお互いを知る仲だ。

「ボストン ストロング〜」は、悲劇の真っ最中にいながらも、ボストンの人々からヒーローとして扱われることに対する葛藤が描かれる(写真/Roadside Attractions)
「ボストン ストロング〜」は、悲劇の真っ最中にいながらも、ボストンの人々からヒーローとして扱われることに対する葛藤が描かれる(写真/Roadside Attractions)

 ロビーがギレスピーと、またギレンホールがグリーンと組むのは、これが初めて。ロビーとギレンホールは、プロデューサーとしては新米でもある。しかし、ふたりは役者として撮影現場にいた経験でたっぷり経験を積んできた人。いずれの映画も低予算なだけに、トップスターである主演俳優が、製作の内情まで理解して、文句も言わずにがんばってくれるのは、実際のところ、監督にとってありがたいことだった。プロデューサーは、映画全体に責任を負う代わりに、作品がヒットしたら、経済的恩恵も受ける立場にある。オスカー作品賞を受賞した時には出演者も含め、多数が舞台に上がるが、実際にオスカー像を家にもって帰るのは、プロデューサーだ。

 最初から予算がきついのに、撮影が遅れ気味で資金繰りに頭を悩ませていた時も、ギレンホールはとても気を使ってくれたと、グリーンは振り返る。

「撮影中、(ほかの出演者やクルーに聞こえないよう)ジェイクは僕を隠れた場所に呼んで、もう1テイクやるのか、それともお金が苦しいから(クルーの残業代がかからないように)今のでこのシーンは終わりにしなきゃいけないのかと聞いてきた。僕が、『できればもう1テイクやりたいんだよね』と正直に言うと、『わかった、じゃあやろう』と言ってくれたよ。(プロデューサーという)決定権がある人が主演俳優だというのは、すごくありがたいこと。限られた予算の中で最高のクオリティを得ることの難しさを理解し、その上で最善を尽くしてくれるんだから」(グリーン)。

 ギレンホールも、ロビーも、意見はたっぷり言ったが、カメラが回っている時は、あくまで役者として監督の指示に従ったと、それぞれの監督は言う。

「マーゴットが役者とプロデューサーのギアを実に簡単に切り替えるのには驚かされたね。彼女には一度に複数のことをこなせる能力が備わっているんだよ。同時に、知らないことは知らないと言う素直さもある」(ギレスピー)。

 彼女が知らなかったことのひとつは、お金を使わず効果的にCGのシーンを作り出すやり方だ。彼女が出演した「ターザン:REBORN」や「スーサイド・スクワッド」で使われた量とは比較にならないが、「アイ、トーニャ〜」でも、スケートのシーンでいくつかCGが必要だったのである。

「アイ、トーニャ〜」のためにロビーはスケートの特訓をたっぷりしたが、オリンピック選手を演じるとあって、CGも多少使われている(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)
「アイ、トーニャ〜」のためにロビーはスケートの特訓をたっぷりしたが、オリンピック選手を演じるとあって、CGも多少使われている(写真/2017 AI Film Entertainment LLC.)

「私がスケートをして、次にスタントダブルがジャンプをする。その後、クレイグは私を氷の上に置いたブルーのシートの前に立たせて、『こっちを向いて、次にあっち』と指示をしたの。そんなので大丈夫なのかと不安だったけれど、彼は『信用して。これで編集すればいけるから』と言うので、従ったわ。そして彼の言うとおりだったのよ。『スーサイド・スクワッド』では、事前に40分もかけて全身スキャンをしたのに、これでできちゃったなんてね(笑)。彼の経験と知恵がなかったら、ありえなかったわ」(ロビー)。

やってみてわかった、プロデューサーのもつ力と、仕事の現実

 ロビーもギレンホールも、すでに次のプロデュース作を複数抱えている。ロビーは、自分が立ち上げたのではない企画でも、最近、プロデューサーとしての影響力を証明したところだ。「スーサイド・スクワッド」で彼女が演じたハーレイ・クインを主人公にするスピンオフ映画で、監督が中国出身の女性に決まったのには、彼女の意向も反映されているのである。メジャースタジオの大作映画、それもスーパーヒーロー映画を、アジア系女性が監督するのは史上初めてのこと。「女性のために」という彼女の目的に、まさにかなっている。

 ギレンホールも、「僕のプロデュース業はフルスピードで進んでいるよ」と満足げだ。「自分が出るのはそのうち半分くらいだね。僕はもう、プロデュースをしたいかどうかという段階を超えて、実際にやっているのさ。それも、野心的に」と言う彼はまた、今回の経験を通して、プロデューサーの仕事の現実も、さらによくわかったと告白する。

「プロデューサーは全体をコントロールできる人と思われがちだが、そうじゃないんだ。自分が信じ、応援すると決めた人のために徹底して闘うのが、プロデューサーの仕事。誰も耳を貸してくれない時だって、説得し続けるんだよ。そしていざ動き始めたら、影に隠れて、感謝されない存在になる(笑)」(ギレンホール)。

 記者である筆者としては、プロデューサーも兼ねる場合、俳優が取材に積極的になってくれることがありがたい。先にも述べたように、作品が成功した場合、恩恵をより広く受けられるということもあるが、最初から最後まで関わっただけに、思い入れが大きく、言いたいこともたくさんあるせいだ。役者としても旬であるこのふたりには、今後も主演兼プロデューサーとして、どんどん良い映画を作っていってほしい。そして、どんどん語ってもほしいところである。