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リュック・ベッソンが語るキャスティングの妙、ビジネスマンになったワケ、彼の奥に潜む女の顔

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
リュック・ベッソンの最新監督作は、彼が子供の頃から影響を受けた「ヴァレリアン〜」(写真:ロイター/アフロ)

 80年代末から90年代前半にかけて、「グレート・ブルー」「ニキータ」「レオン」などを発表し、独自の才能を評価されたリュック・ベッソンは、近年、監督としてよりも、プロデューサーとして忙しい。彼が創設したヨーロッパコープは、「トランスポーター」「96時間」など、数々の作品をヒットさせてきているのだ。

 だが、30日に日本公開となる「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」は、どうしても他人にはまかせられない、特別な映画だった。10歳の時から原作のコミックブックの大ファンだった彼が、原作者のひとりジャン=クロード・メジエールに「これを映画化してほしい」と言われたのは、20年も前のこと。壮大なスケールをもつこのSFの世界を映像化するのは、当時、とても無理な話だったが、ジェームズ・キャメロンの「アバター」(2009)を見て、本気で考え始めたという。

 製作費1億7,700万ドルという、フランスの会社としては桁外れな大作の主演に選ばれたのは、デイン・デハーンとカーラ・デルヴィーニュ。ほかに、リアーナやハービー・ハンコックなど、やや意外な顔ぶれも混じっている。

 今作は最新のCGを駆使しているが、本人いわく、テクノロジーには疎い。画家の祖父を持つも、その才能は引き継いでいないと謙遜もする。この映画が実現したのは夢のようかと聞くと、「人生そのものが夢だ」と答えるベッソンに、仕事への思いを語ってもらった。

カーラ・デルヴィーニュ(左)とデイン・デハーン
カーラ・デルヴィーニュ(左)とデイン・デハーン

「ヴァレリアン〜」を映画化することは、以前から願っていたことだったのですか?

 あのコミックは、僕の子供時代そのもの。だけど、映画化することなんて、考えてもいなかったよ。きっかけは、「フィフス・エレメント」(1997)に、(デザイナーのひとりとして)ジャン=クロード・メジエールの手助けを得たことなんだ。彼は僕に、「こんなくだらない映画じゃなくて、『ヴァレリアン』を作るべきだ」と言った。僕は、「無理ですよ。あの物語には1,000人くらいのエイリアンが出てくるじゃないですか」と答えたよ。

 だけど、「フィフス・エレメント」が完成した後、僕は、再びあのコミックを手に取り、もしかしたら、いつかこれを実現させられる日が来るかもと想像をめぐらせたんだ。映画化権を買ったのは、10年くらい前。その前にはワーナー・ブラザースが持っていたんだが、嬉しいことに、彼らは何も手をつけないままだったんだ。

そして「アバター」を見て、可能かもしれないと思ったのですね?

 ジェームズ・キャメロンは天才。テクノロジーを常に先に推し進めている人だ。僕は、全然そうじゃない。コンピュータすら持っていないんだよ。iPhoneは持っているけど、写真を撮ったりテキストメッセージを送ったりするのにしか使わない。iPadも、できることのうち5%くらいしか使ってないね(笑)。ビデオゲームは、人生で一度もやったことがないよ。

 そういうのが得意な人たちを雇っているから、映画を作る上で問題はないさ。絵を描ける人に僕の求めるエイリアンを説明し、いくつか描いてもらっては、「これは嫌い」「これはいい」と言って決めていく。それをCG担当の人に、「これ、お願いね」と渡す。

映画には多数のエイリアンが登場する
映画には多数のエイリアンが登場する

リアーナは歌手、カーラもモデル出身で、まだ演技の経験が浅いですが、不安はありませんでしたか?

 スポーツに例えてみよう。スポーツでは、どこからともなくすごい選手が現れることがある。だが、その人はおそらく12歳くらいの時から学校では才能を発揮していて、プロの目に留まるくらいのことをやっていたんだよ。一般観客は、そこを知らない。

 僕も、同じことをやる。カーラとリアーナは、役に求めるものを持っていた。僕が望むことを徹底してやってやるというやる気も感じた。それに、映画作りには時間がかかるんだよ。これにも、どこから数えるかによって3年だか5年だかがかかっている。ついに公開される時、その人は人気があるのか、スキャンダルで嫌われているのか、そんなことは全然わからないんだ。だから、この役にはこの人が一番だという直感に従うしかない。

リアーナは「声も好きだった」とベッソン
リアーナは「声も好きだった」とベッソン

ハービー・ハンコックに出てもらおうと思ったのは?

 僕は13歳の時から彼の音楽のファンだった。彼の顔も好きで、僕は「あなたが俳優でないのは知っていますけど、簡単な役なのでやっていただけませんか?」と聞いたのさ。彼は、映画にちょっとしか出ない。でも、演技の経験がないから、プロの俳優をやや混乱させたりもする。そこから新鮮なものが生まれたりするんだ。

ヨーロッパコープの経営者でもありますが、ビジネスにも以前から興味があったのですか?

 いや、僕はビジネスマンじゃないよ。そのふりはするけどね。銀行の人と話す時、ふんふんともっともらしく頷くが、実は何もわかっていない(笑)。この会社が始まったのは、単に楽しいからという理由で、ばかばかしいフランス映画「TAXI」(1997)を書いたことなんだ。それがバカ当たりしてしまったわけ。どうしようというくらいお金が入ってきてしまったので、もっと映画を作ることにしたんだよ。それだけのことさ。じゃないと、税金に取られるだけなんだから。「TAXI」はその後4作目までできたし、「96時間」も成功して、「LUCY/ルーシー」もいい感じだ。

「ニキータ」「フィフス・エレメント」、それに最近も「LUCY/ルーシー」など、あなたの映画には強い女性が出てきますが、あなたは自分には女性がわかると思いますか?

 僕には女性の友達がたくさんいる。僕の友達の9割は女性だよ。女性の方が、人生についておもしろい見方をするからね。男だと、最初の1時間は車とサッカー、そしてどうやって賢く節税しているかの話。次の1時間になって、やっとまともな話になる。その意味で、僕の中身は女っぽいのかもしれないな(笑)。

画像

「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」は、30日(金)、日本全国公開。配給/キノフィルムズ 場面写真コピーライト:2017 VALERIAN S.A.S. -TFI FILMS PRODUCTION

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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