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次期大統領候補?ゴールデン・グローブで盛り上がるオプラ・ウィンフリーとはどんな人

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ゴールデン・グローブ授賞式で注目されたオプラ・ウィンフリー(右)(写真:ロイター/アフロ)

「2020年は、オプラ!」

 西海岸時間7日のゴールデン・グローブ授章式以来、ソーシャルメディアはすっかりこのネタでもちきりだ。オプラ・ウィンフリー本人は何もコメントしていないのだが、メリル・ストリープが「彼女にその気はなかったと思うけれども、もう選択肢はないわよね。立候補してほしい」と言えば、スティーブン・スピルバーグは「すばらしい大統領になるだろう。彼女が出るなら、僕は支持する」と言ったりして、盛り上がりは輪をかける一方である。

 アメリカで最も影響力のある彼女は大統領立候補を考えるだろうかという半分冗談の推測は、過去に何度もささやかれてきた。このゴールデン・グローブで功労賞に当たるセシル・B・デミル賞を受賞することになった彼女を紹介する際にも、ホストのセス・マイヤーズは、このネタで始めている。マイヤーズは、2011年、ホワイトハウスの記者会夕食会で、トランプがいかに大統領にふさわしくないかについてのジョークを自分が言った結果、彼が本当に立候補してしまった話を引き合いにだして、「そういうことがあったから、オプラ、あなたは大統領になりませんよ、とここで言うことにしましょう 」と言ったのだ(ついでに、会場にいたトム・ハンクスに向かっても、あなたに副大統領は無理、と冗談を言っている)。

 その後に舞台に立ったリース・ウィザスプーンが、さらに追い討ちをかけた。「今夜、舞台でオプラを紹介するの、と私が言うと、みんなから『彼女にありがとうと言ってね』と言われました。インスピレーションをくれてありがとう、教えてくれてありがとう、元気をくれてありがとう、私たちをわかってくれてありがとうと 。オプラ、あなたは私たちの人生を変えてくれたのです」と言うウィザスプーンはまた、「オプラのハグには戦争を終わらせる力がある」とも述べている。

 そして、いざ本人が登壇すると、彼女は、もはや伝説の仲間入りをしたあのスピーチを始めたのだ。9分に及ぶスピーチの概要は、以下のとおり。

 1964年、私はミルウォーキーの母の家で、第36回アカデミー賞を見ていました。アン・バンクロフトは、封筒を開けて、文字どおり、歴史を変えることを言いました。シドニー・ポワティエがオスカーを取ったのです。黒い肌に白いネクタイをした彼は、私がそれまでに見た中で、最もかっこいい男性でした。そして、彼は祝福されていました。黒人男性があんなふうに祝福されるのを、私は見たことがありませんでした。

(中略)1982年、彼はこのセシル・B・デミル賞を受け取ったわけですが、それと同じ賞を、今、私が黒人女性として初めて受け取る様子を、どこかで小さな女の子が見ているのだという事実を、私は忘れてはいません。(中略)

 複雑な時代である今、私は、これまで以上に、メディアの力というものに価値を見出しています。真実を語ることこそ、私たちがもつ最もパワフルなツール。とりわけ、個人的な体験を、勇気をもって語ってくれた女性たちのことを、私は誇りに思います。ここにいるのは物語を語る人たちですが、今年は、私たちそのものが物語になったのです。しかし、これはエンターテイメント業界だけの話ではありません。すべての場所、文化、人種、宗教、職場で起こっていることなのです。長い間、ひどい行動に耐えてきた女性たちに、私は感謝を捧げたいと思います。私の母のように、彼女らは子供を養わねばならず、生活費を稼がなくてはいけなかった。名前を知られない、それらの女性たち。お手伝いさんや、農業に従事する女性たち。工場やレストラン、大学、医療業界、科学の分野で働く女性たち。テクノロジー、政治、スポーツ選手、軍隊の女性たち。(中略)

 テレビでも、映画でも、私はキャリアにおいていつも、人がどう振る舞うかについて語ってきました。(中略)人生で最も辛いことを経験した人々をインタビューしてもきましたが、その人たちはみんな、やがて明るい朝が来るという希望をもっていました。だから、私は、今、これを見ている小さな女の子たちに、新しい時代がやってくるよと言いたいのです。その新しい時代は、ここにいる多くのすばらしい女性たちと、何人かの優れた男性のおかげでやってきます。もう二度と、誰も「#MeToo」と言わなくてよくなるよう、彼らは一生懸命、リーダーとして闘っているのです。

 このスピーチの後、会場は総立ちとなり、大きな拍手が延々と続いた。

総資産30億ドル(3300億円)のメディア王。クインシー・ジョーンズに発掘されて映画デビュー

 ところで、このウィンフリーという人は、いったいどういう人物なのだろうか。彼女のトーク番組が放映されていない日本では、名前こそ聞いたことがあっても、ぴんと来ない人が、ほとんどだろう。

 ウィンフリーは、1954年生まれの63歳。世界初の黒人女性ビリオネアで、 ハワイ、サンタバーバラ近郊、シカゴ、テリュライド、フロリダなどに豪邸をもつ。

 だが、生まれは貧しい。母はティーンエイジャーの時に彼女を出産し、ウィンフリーは6歳になるまで祖母に育てられた。9歳になる頃から、従兄弟、叔父、知り合いの男性などに性的暴行を受け、14歳で妊娠。男の子だったが早産で、出産後まもなく死亡している(1986年から現在に至るまで事実婚状態の夫との間には、子供がいない)。

 高校では弁論部に所属。テネシー州立大学には、返済義務のない奨学金を授与されて進学した。メディア業界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、高校3年生の時に始めた地元テネシー州の黒人向けラジオ局のアルバイト。その後、ナッシュビル、ボルティモアなどのテレビ局を経て、シカゴの局でトーク番組のホストを務める。その番組に出ている彼女に目をつけたのが、その時たまたまシカゴにいたクインシー・ジョーンズだ。スティーブン・スピルバーグの「カラーピープル」をプロデュースしていたジョーンズは、ウィンフリーにソフィアの役をオファーし、彼女は映画デビューすることに。作品は高く評価され、ウィンフリーはオスカーの助演女優部門にノミネートされた。最近では「大統領の執事の涙」「グローリー/明日への行進」などに出演。今年はウィザスプーン、クリス・パインらと共演するディズニーのファンタジー映画「A Wrinkle in Time」が控えている。

 しかし、彼女を国民的スターにしたのは、1986年に始まった 「The Oprah Winfrey Show」だ。

女性誌「O」(oprah.com)
女性誌「O」(oprah.com)

 昼間の番組としては、今もアメリカ史上最高の視聴率記録を誇るこの大人気トーク番組は、セレブのインタビュー、本の紹介、“オプラのお気に入り”などのコーナーで構成され、ここで紹介された本や“お気に入り”の物は、たちまちベストセラーとなった。太めである彼女は、長年の間に痩せたり、元に戻ったりしたが、そのたびに彼女のダイエット法が話題になったりもしている。人の気持ちがわかる、懐が深くて視野が広い人、というイメージを決定づけたのも、この番組。 毎回彼女が表紙を飾る女性誌「O」も大成功し、2011年には自らのチャンネルOWN(Oprah Winfrey Network)も立ち上げた。現在の総資産は30億ドル(約3300億円)と言われる。

 長年の民主党支持者。彼女がオバマを支持したおかげで2008年の選挙に集まった票は、100万以上と推測される。2013年には、オバマから大統領自由勲章を授与された。オバマ夫妻はウィンフリーの個人的な友達でもあり、世界観を共有もしている。もし本当にウィンフリーが立候補するならば、オバマ夫妻が絶大に応援することは間違いないと思われる。

トランプ:「オプラは立候補しない。しても私が勝つ」

 ウィンフリーの立候補の可能性については、エンタメやゴシップメディアだけでなく、CNNや「The Washington Post」、政治関係のウェブサイトなど、まじめなメディアも大きく取り上げている。今週火曜日、このことについて意見を聞かれたトランプは、「私はオプラに勝つよ。(彼女が出たら)楽しいだろう。彼女のことは、よく知っている。彼女は立候補しないと思うね」と語った。

 同じ日には、ウィンフリーの長年の大親友でテレビ番組ホストのゲイル・キングが、 ウィンフリーは本気で考えていないと語っている。「私は昨夜も遅くまで彼女と話していたの。彼女は、興味は持っているわ。それは、絶対よ。それにオプラの番組を長年見てきたから、途中で人が考えを変えることはよくあるとわかっている。オプラのキャンペーンマネージャーになるためなら今の仕事を辞めると言ってきた人もいるわ。オプラはこの国が好きで、人のために奉仕するのが好き。でも、今、積極的に(立候補を)考えているとは思わない」と、キングはCBSの番組内で述べた。

 一方、同じく民主党で、女性の議員であるエリザベス・ウォーレンは、CNNのインタビューで「アメリカは次もまたビリオネアのセレブリティを大統領にしたいと思うでしょうか」と聞かれ、「わからない。それはオプラ次第でしょう。オプラにああしろ、こうしろとは言えませんよね。私がわかっているのは、今、未来の若者たちのために闘うべきことがたくさんあるということ」と答えている。

 2020年に立候補を狙っていると言われているウォーレンにしたら、ウィンフリーはとんでもないライバルだ。ウィンフリーがオバマを応援しただけで100万票が集まるのだから、本人が出て、オバマが応援に回るとあれば、相当に手強い。

 果たして2020年は、ビリオネアセレブリティ同士の争いになるのだろうか。しかも、男vs女、白人vs黒人である。そんなことになれば、彼らの討論中継が、これまでにふたりが司会を務めたテレビ番組の記録を上回る視聴率を上げるのは間違いないだろう。さらに、こちらは話半分どころか10分の1くらいに聞いておいたほうがいいにしても、2024年にドウェイン・ジョンソンが出馬を考えているとも言っている。これもまたハリウッドストーリーと呼ぶべきか。良くも悪くも、L.A.とワシントンの距離は、これからも近くあり続けそうだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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