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メリル・ストリープ、68歳に。すべてを手に入れた女性の、ユーモアあふれる発言を振り返る

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今月8日、AFI授賞式でダイアン・キートンのためにスピーチをしたストリープ(写真:Shutterstock/アフロ)

アメリカ時間本日6月22日は、メリル・ストリープの誕生日。現代に生きる最高の女優は、68歳になった。

イェール大学で演技を学び、ニューヨークの舞台で演技をしていたストリープは、「タクシードライバー」(1976)のロバート・デ・ニーロに衝撃を受け、映画にも興味を持つようになる。それからまもなく、「ディア・ハンター」(1978)でデ・ニーロと共演し、初のオスカー候補入りを果たすのだが、今作に出た最大の理由は、恋人ジョン・カザールに残された人生を、できるだけ一緒に過ごすことだった。スタン役で今作に出演したカザールは、映画の公開を待たずに肺がんで亡くなっている。

翌年公開の「クレイマー、クレイマー」では、2度目のノミネーションにして、初のオスカー受賞を果たす。83年には「ソフィーの選択」で再び受賞。3度目の受賞は2012年と、間が空いたが、その間もノミネートされ続け、今年も「マダム・フローレンス!夢見るふたり」で、20回目の候補入りを果たしている。これは史上最高記録だが、ストリープに言わせれば、「つまりは、賞を逃した回数でも史上最高記録ということ」だ。

来年にはロブ・マーシャル監督の「Mary Poppins Returns」が控え、最近は、「マンマ・ミーア!」の続編製作が発表された。男優と違い、一定の年齢を超えると女優には仕事が来なくなるハリウッドで、彼女はあいかわらず売れっ子ぶりを証明し続けてきている。 「マンマ・ミーア!」では、キャラクターが設定された年齢よりも上なのに、第一希望で声がかかっているのだ。

伝記もの、感動作、ロマンス、コメディ、ミュージカル、何でもお手の物で、毎回、完全にキャラクターに溶け込んでしまう。誰よりもすごいフィルモグラフィーを誇る彼女はまた、 40年近く添い遂げてきた夫との間に4人の子供を育てた、妻であり、母でもある。「幸せをつかむ歌」(2015)で母と共演した長女のメイミー・ガマーは、「母はいつも私たちのそばにいてくれた。私たちが幼い頃は、2週間以上、仕事で家を空けることはなかったし、私たちが学校に通うようになってからも、ロケ地がどこかで作品を選んでいたわ。母は、キャリアと家庭のバランスを上手にとってきたの。全部を手にしたのよ」と語っている。

女性の権利のためにも、貢献してきた。「フェミニストですか」と聞かれると、「というより、ヒューマニストね」という彼女は、昨年の国際女性デーに、男女平等を訴える手紙に署名している。昨年のアメリカ大統領選ではヒラリー・クリントンを支持し、民主党全国大会にも登壇した。今年のゴールデン・グローブで、トランプの姿勢を批判するスピーチをし、トランプが「最も過大評価された女優」と逆にストリープを批判したのは、記憶に新しい。

今月8日には、旧友ダイアン・キートンがアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)の生涯功労賞の授賞式で舞台に立った。ストリープ自身も、2004年にこの賞を受賞している。

誰からも愛され、尊敬され、豊かな人生を送ってきた彼女は、神々しいオーラを放つ一方で、すばらしいユーモアのセンスで笑わせてもくれる。何度が彼女にインタビューしてきた筆者の思い出に残る言葉を振り返る。

オスカーに最もノミネートされた人物であることについて:

インタビューではよくそのことを聞かれるけれど、普段、そういうことはまったく考えないの。本当よ。撮影現場でそういう話題が出ることもないし、それを考えたって、白髪が減ったり、若くなったり、スリムになったりするわけじゃないでしょ。それは自分で感じるものではなく、自分について誰かが言うことにすぎない。「あの人、髪がきれいよね」とか、そういうのと同じ。(2009年)

ハリウッド女優の多くが整形することについて:

この国の特定の街の、ある種の階級の人々の間では、何もやっていないほうがおかしいと思われたりするのよ。昔は、真っ白で完璧な歯並びの人なんて、いなかったわよね?歯というのは、ちょっと黄色くて、まっすぐではないのが普通。でも、今では、ごく稀に、(美容歯科で)何もやっていない人に会うと、「どうしてあの人はやらないのかしら」と思う。整形も同じで、ある意味、周囲に馴染むようなものなのよね。そうしないとみじめに感じたりするから。そして、何かやった時、最初に言われるのが「あら、きれいになったわね」という言葉。その裏には、「やってくれてありがとう。なぜなら、私もやったから」という意味がある。(2009年 )

歳をとった女性に厳しいハリウッドで、今も次々に良い役を獲得していることについて:

この業界は、女性に意地悪。あのベティ・デイビスだって、50歳にして「彼女はもう終わり」と言われたのよ。50歳なんて、私にしたら大昔だわ(笑)。なのに、私はなぜか、まだ入れてもらえている。歳をとったのに、前とは違うおもしろいことをやらせてもらっている。すごく幸運よ。どうしてなのかは、わからない。当人である私にしたら、「あら、また別のお仕事がきたわ」という感じなの。(2011年)

キャリアと家庭をうまく両立させてきたことについて:

うまくやれてきたのかどうかは、わからないわ。大変だけど、がんばる価値はある。家庭なしの人生なんて、考えられないもの。どちらも犠牲にしてしまうけれどね。誰かをいつも不満にさせてしまうのよ。家族の誰かか、仕事の関係者か。家族は、私に最大の喜びを与えてくれる。仕事は、いわばデトックス効果がある。私の中に潜む、いろいろなものを吐き出させてくれるの。演技がなかったら、フラストレーションを感じると思う。私はエネルギーにあふれるタイプだから、どこかで発散しないといけないの。子供に当たるより、こっちの方がいいでしょ?(2008年)

女優業を休もうと思ったことはあるかについて:

そんなふうな考え方を、私はしないのよね。何事においても、戦略を立てないの。妊娠だってそう。たまたま妊娠したの(笑)。でも、今は、ちょっと休もうかと思っている。この2年半に、7本も映画に出たのよ。何も撮影しないで2年が過ぎたことだってあるのに。私は プロデュースをしない。自分の企画を立ち上げようとしない。おもしろいと思うものが来たらやるだけ。(2009年)

若い俳優たちから尊敬の目で見られることについて:

初めて私に会った時、彼らは緊張するわね。私が何度ノミネーションされたとか、そういうことを聞いているからでしょう。だけどすぐに私がせりふを忘れたりして、「なーんだ」と思われる(笑)。緊張はそこで終わりよ。(2008年)

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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