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ジェシカ・アルバの自然派ブランド、集団訴訟を受けて1億7,000万円の支払いに合意

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ベイビー用品で始まったジェシカ・アルバのブランドは、今や年商3億ドル(写真:Splash/アフロ)

ヒットを飛ばしてきた“女性起業家”ジェシカ・アルバが、初めての大コケに直面した。彼女の自然派ブランド、オネスト・カンパニー(The Honest Company)が集団訴訟され、155万ドル(約1億7,000万円)を支払うはめになったのである。

オネスト・カンパニーは、アルバに長女が生まれて間もなかった頃、「自分の望むような ベイビー用品がない」と思ったことがきっかけで生まれた。創業したばかりの2011年、彼女は、「私は以前から環境問題を意識してきた。でも、自分に子供が生まれたことで、わが娘や、ほかの子供たちの安全を第一に考えるようになったの」と、安全な原材料だけを使い、環境にやさしく、かつセンスのいいベイビー用品を作るという方針を明らかにしている。

当初はオンライン販売のみだったが、みるみるうちに業績は上がり、 大手自然派スーパーのホール・フーズ・マーケットや、ノードストロームデパート、ディスカウントチェーンのターゲット、ウォルマートなどでも販売されるようになった。商品の幅も、もはやベイビー用品に限らず、サンスクリーン、洗剤、栄養サプリメント、タンポンなど、今では100種類以上ある。2015年には、独立したコスメブランド、オネスト・ビューティもデビューさせた。

しかし、 目立つようになれば、それだけトラブルが降りかかってくる可能性も増えるというもの。近年、同社は、数々の訴訟に悩まされてきたが、 今回の集団訴訟は、液体洗剤に、同社が使用しないとうたうラウリル硫酸ナトリウム(SLS)が入っていたことをめぐるものだ。 昨年、「Wall Street Journal」紙が、その事実を裏付ける報道をした時、オネストは、自分たちが使っているのはSLSではなく、刺激の少ないSCS(ココアルキル硫酸ナトリウム)であると反撃した。和解金の支払いに応じた今も、自分たちは嘘をついていないという姿勢は貫いており、 「和解することにしたのは、訴訟が長引くとお金がかかり、事業に支障が生じるためです。 自分たちの商品が安全で効果的であると、私たちは自信を持っています。消費者のみなさん、および小売店の方々のサポートに、感謝いたします」と声明を発表している。

SLSもSCSも、原材料はココナッツオイル。だが、SCSは生のココナッツオイルだけを使い、SLSのように精製されておらず、分子も小さいので、刺激が少ないとオネストはいう。原告側は、それでもSCSがSLSの一部であることには変わらず、つまりは看板に偽りありだと主張していた。 訴訟が起きてから和解が成立するまでの間に、オネストは、商品の成分を変えている。

和解条件のひとつとして、オネストは、今後、SCSを含む商品について「SLSを含まない」とうたわないことに合意。また、過去に対象商品を買った人は、レシートがなければ50ドルまで、あればそれ以上の返金を要求できる。

男性誌の“セクシーな女性”から、「Forbes」に名前が出るビジネスウーマンに

年商3億ドルのオネストにとって、155万ドルは、たいした金額ではない。だが、イメージの問題が出てくる。たとえば、同社は近年、株式市場上場を目指してきたが、SLSに関する集団訴訟がふたつ別々に起きたあたりから、その動きはストップしている( 裁判所の命令で、それらふたつの訴訟はひとつにまとめられている)。昨年秋には、ユニリーバに買収されるという話が出たものの、こちらも結局、発展しないままだった。そこにもこれらの訴訟問題が関係したのかどうかは、わからない。

いずれにしても、かつて“最もセクシーな女性”として男性誌を飾ったアルバが、今や「Forbes」「Wall Street Journal」に取り上げられる存在に変わったことは確かだ。大手化粧品会社から自分の名前の香水を出す、ファッションブランドとコラボして単発で服をデザインするなど、虚栄心を満たしてくれる程度の”副業”に手を出す女優はたくさんいても、自分で起こしたビジネスを17億ドルの価値があるとされるところまで成功させた人は稀である。「イントゥ・ザ・ブルー」や「ファンタスティック・フォー」など、人々の記憶にほとんど残らない映画で、とりあえずスクリーンに華を添えていた彼女にこんな才覚があると、誰が想像しただろうか。

女優業も、あきらめてはいない。会社経営の合間に時々映画に出るのは、気晴らしになるし、美しさを保つモチベーションにもなるだろう。だが、あいかわらずたいした映画に恵まれないアルバの、最もおもしろい主演プロジェクトは、言うまでもなくオネストだ。映画にストーリーがあるように、会社にも紆余曲折がある。上りっぱなしできていたところへ、“オネスト(正直)”はそうじゃなかったかもしれないという、ショッキングなシーンが出てきてしまったわけだが、大事なのは、この先どう続くのかということ。ここから立ち上がって思いもかけない勝利を達成してみせてこそ、王道のハリウッドエンディングである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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