Yahoo!ニュース

「たたら侍」、アメリカの批評家の感想は

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「L.A. Times」の批評は、かんばしくない

「たたら侍」が、西海岸時間2日(金)、アメリカ公開された。

300館規模の公開で、北米公開前にL.A.映画批評家協会から昨年度の最優秀アニメにも選ばれていた「君の名は。」とは違い、「たたら侍」は、L.A.で2館の限定公開。それもあってか、今作を取り上げていない媒体がほとんどで、 rottentomatoes.comにも 点数が出ていない。そんな中でも、「L.A. Times」と「New York Times」、そして業界紙「The Hollywood Reporter」は、扱いは小さいながら、批評を掲載している。

3紙の評価は、さまざま。厳しいのは「L.A. Times」で、見出しは「すぐに退屈になってしまう、戦士の物語」。場面写真のキャプションも、「優れた演技と美しい撮影も、この退屈さを救えない」だ。本文には、「錦織良成監督は、細かいところまで最大の注意を払い、長年引き継がれてきた製鉄技術や、1567年の日本人の日常生活を描写している。その儀式的とも言える精密さに値するストーリーを作ることに、同じレベルの努力をつぎ込まなかったのは残念だ」と語っている。さらに、「非常に美しく撮影され、演技もすばらしく、最初のバージョンから15分カットしたにも関わらず、バトルシーンは緊張感と信憑性に欠ける」とも述べた。

青柳翔の演技への評価も分かれる

バトルシーンについて、「New York Times」の感想は違っている。同紙は、「錦織監督は太陽の光がまだらに差し込む島根県の風景と、日本の封建社会を見事にとらえた。彼の描くバトルシーンは、残虐さを最低限に抑えつつも、神妙かつ信憑性あふれる闘志に満ちている」と書いた。青柳翔の演技についても、「青柳氏は、細かなニュアンスを含む重み、そして静けさを持って、このヒーローを演じた。彼が人間離れした戦士になっていくのではなく、むしろ文明社会の高き理想を追求する退役軍人のようであるところが、最高に良い」と絶賛。その一方で、「女性のキャラクターがきちんと描かれていない」とも語る。 本文が「錦織良成監督のアクション時代劇『たたら侍』には、ちゃんばらシーンもたくさんあるが、このジャンルにありがちでないものにしているのは、ストーリーのおかげだ」という文で始まっていることからも、 好意的な批評と言って間違いないだろう。

「The Hollywood Reporter」も、基本的には気に入ったようだ。毎回、本文の前に付く要旨の一文は、「このジャンルに魅力的なひねりを与える思慮深い作品」。だが、こちらは青柳翔の演技についての意見が異なる。この批評家によれば、「(最初)、物語の責任はどっぷりと青柳に降りかかるのだが、それはやがて変わっていく。それは良いことだ。彼の演技は悪くないのだが、心の中の葛藤を表現しきっていないのである。彼の友人である新平を演じる小林直己は、青柳に欠けているその部分を兼ね備えているのだが、映画は彼を上手に生かしきっていない」とのことだ。最後は、「美しい風景をうまくとらえた佐光朗の撮影は、脚本が語る職人芸の伝統と誇りを見事に伝える。心ときめくアクション映画とは言えないが、剣劇シーンのいくつかは、たたらの価値ある製鉄技術を見せつけるものである」という文章で締めくくっている。

「この世界の片隅に」も北米公開が決定

次に気になるのは、「この世界の片隅で」への反応だ。今月中旬のL.A.映画祭での上映に続き、8月11日には北米公開されることが、つい最近、決まったのである。配給は、シャウト・ファクトリーと、「君の名は。」を北米公開したファニメーション・フィルムズ。「君の名は。」は、英語字幕付きと英語吹き替え版のふたつのバージョンで公開されたが、「この世界の〜」は字幕版のみになるようである。夏の大作がほぼ出終わった後で、同じ日に公開されるのは、ホラー映画「Annabelle: Creation」、ブリー・ラーソン主演の「The Glass Castle」、アメリカのアニメ「The Nut Job 2」などだ。今作は、娯楽大作疲れしたアメリカの観客にとって、思いもかけなかったお宝になりえるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事