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トランプの“急所”をつかんだ!「SNL」で女性たちが猛烈に復讐

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ショーン・スパイサーを演じるメリッサ・マッカーシー/NBC

「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」が、トランプを最も苦しめる方法を見つけた。彼の側近の男たちを、女に演じさせることだ。

どんな小さなことに対してもトランプが腹を立ててツイートするのは、有名な事実。アレック・ボールドウィンが自分を演じる「SNL」についても、「全然可笑しくない」「偏っている」「見る価値がない」などとツイートをしてきた。しかし、先週末、特別出演したメリッサ・マッカーシーがショーン・スパイサー報道官を演じて大きな話題となった時、スパイサー本人は「ファニーだった」「でも、ガムはもっとゆっくり噛むべきだね」と余裕を見せるコメントをしたのに、トランプ自身は、沈黙を通したのである。

Politico.comがトランプの資金援助者の話として挙げるところによると、「トランプは自分の側近が弱く見えるのを嫌う」のだそうだ。ゴールデン・グローブ授賞式でのメリル・ストリープのスピーチに過剰反応したことからもわかるように、トランプはそもそも女性から見下されるのが大嫌いである。小柄で太めという、トランプがさんざん侮辱してきたタイプのマッカーシーに自分の側近を風刺されたのは、相当な打撃だったのだろう。

この思わぬ発見を、今週、「SNL」は、最大限に活かしてみせた。

オープニングでは、マッカーシーのスパイサーが再び登場。スパイサー本人のコメントに対抗するかのように巨大なガムをほおばってみせたり、トランプの出した入国禁止大統領令が人種差別にもとづくことを示すブラックな発言をしてみたり、おしまいにはハイヒールを履いた足を披露したりと、マッカーシーは先週以上の爆走ぶりを見せた。

NBC
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ハイヒールの下りは、ノードストロームデパートがイヴァンカ・トランプのブランドを扱わないと決めたことにからんで出てきたもの。マッカーシー演じるスパイサーは、「ノードストロームはバカだな」と非難し、「私も、彼女のバングルを愛用しているよ。きらきらしていて美しくて、たった39ドル99セントと、お手頃なんだ。そしてこの靴。これにはみんなが振り返るよ」と、足を上げて見せるのである。女が演じるだけでも嫌なのに、ジュエリーを身につけ、ヒールを履かせられたのだから、トランプにしたらたまらないに違いない。

そして次には、人種差別者として批判されながらも司法長官に承認されてしまったジェフ・セッションズが登場するのだが、これまたケイト・マッキノンが演じている。選挙中、マッキノンは番組内でヒラリー・クリントンを名演。最近はトランプの顧問ケリーアン・コンウェイを演じて好評だ。今週も、コンウェイ役でも登場した。

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だが、極め付けは、レスリー・ジョーンズのトランプだ。これはほかとちょっと違い、ジョーンズの役はジョーンズ自身である。ボールドウィンがトランプを演じるのを見ていて、「私もトランプを演じてみたい」と、彼女なりに努力をするというストーリー。苦労もむなしく、番組のプロデューサーにダメだしされてしまうのだが、トランプの姿のまま外に出たところ、たまたま車で通りかかったメラニア・トランプに夫だと勘違いされてしまうというオチだ。

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これら女性たちの攻撃には、復讐の意味もある。

ジョーンズ、マッカーシー、マッキノンは、昨年の「ゴーストバスターズ」に出演した。あの映画を女性キャストでリメイクすることには、早くから反対の声が聞かれていたが、最も悪質なバッシングをしたのが、Breitbart.comの記者ミノ・ヤンノポーロスだ。ヤンノポーロスは、キャストの中で唯一の黒人であるジョーンズに、人種差別、女性差別のツイートを送り続け、ツイッターから出入り禁止にされている(「ゴーストバスターズ」のレスリー・ジョーンズ、差別攻撃を受けた体験を語る)。トランプの上級顧問スティーブ・バノンは、Breitbartの元会長。Breitbartは、大多数のメディアがクリントンへの支持を表明していた頃、つまりジョーンズへの嫌がらせがピークにあった頃から、トランプ支持を打ち出していた。彼らがさんざん侮辱したジョーンズが、今度はその肌の色を活かして、彼らが賞賛する人物を侮辱してやったわけである。

そして次は、バノンの番だ。トランプを裏で操っていると言われるバノンを演じることになりそうなのは、なんと、トランプの宿敵ロージー・オドネルである。このアイデアは、もともと、ツイッター上で誰かがオドネルに提案したことから生まれた。オドネルが「やってもいいわよ。アレックのトランプに、メリッサのスパイサー。電話をもらったらやるわ。何日か準備の期間がいるけど」と返事をし、その数日後、彼女がバノンになりきった写真がツイッターに投稿されたことで、一気に実現の可能性が増した。今週末にも出るかと期待されたのだが、今回はトランプ叩きのネタが十分揃いすぎていたのかもしれない。

この回の「SNL」は、過去6年で最高の視聴率を記録している。これもまた、トランプにとっては、腸が煮えくりかえるようなことだろう。トランプが大統領になって少しでも何か良いことがあったとすれば、「SNL」がおもしろくなったことだという声は、あちこちで聞かれる。トランプが暴走を続けるかぎり、「SNL」も暴走する。トランプよ、女の怖さをぜひ思い知ってほしい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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