激しくなる一方のハリウッドとトランプの対立。オスカーはどうなる?

「Hidden Figures」のタラジ・P・ヘンソン(中)は熱いスピーチをした(写真:ロイター/アフロ)

「次のオスカー授賞式は、明るく、楽しいものにしたい。映画へのノスタルジアを感じさせるような」。

オスカー授賞式の新しいプロデューサーに選ばれた昨年秋、マイケル・デ・ルカとジェニファー・トッドは、そんな抱負を語っていた。演技部門20人がすべて白人という事態が2年連続で起こったことから、昨年のオスカーでは、ホストのクリス・ロックが人種問題についての過激なジョークを連発し(オスカー授賞式:クリス・ロックの発言語録。「オスカーに黒人部門を」など衝撃コメントの数々)、政治色が濃くなったのを受けてのことだ。

だが、このコメントは、大統領選の前に出されたもの。ハリウッドに嫌われるトランプが勝ってしまった後のゴールデン・グローブ授賞式で、メリル・ストリープがトランプ批判のスピーチをしたことは話題になったが、本当に就任してしまい、信じられない大統領令を連発するようになった今、反感は増すばかりである。それが最も顕著に表れたのが、西海岸時間29日(日)の映画俳優組合(SAG)賞授賞式だった。

映画とテレビで活躍するスターが揃うSAG授賞式は、監督組合(DGA)、プロデューサー組合(PGA)など出席者が地味なほかの重要な組合系の授賞式と違い、ケーブルチャンネルとはいえ、テレビで生中継される。つまり、全米の視聴者にメッセージを伝える上で、すばらしい機会なのだ。

最初に舞台に立ったのは、アシュトン・カッチャー。「SAG-AFTRA会員仲間のみなさん、ご家庭で見ていらっしゃるみなさん、こんばんは」と挨拶した彼は、次に、トランプが出した特定の国からの渡航者に対する入国拒否命令のせいで全米の空港に人が拘留されているのを受け、「今、空港にいる人たち。あなたたちは、僕のアメリカに属する人たちです。あなたたちは、この国を作っている要素の一部。僕たちはあなたたちが大好きです。あなたたちを歓迎します」と語り、大きな拍手を受けた。

個人的な体験も交えた、力強いメッセージ

そのすぐ後には、最初の受賞者であるジュリア・ルイス=ドレイファス(コメディシリーズ部門)が、「私は移民の娘です。父はナチ支配下のフランスから逃亡してきました。私は愛国心に満ちたアメリカ人です。移民の禁止は大きな汚点であり、アメリカという国に逆らうものです」と発言。助演男優賞(映画)を受賞した「ムーンライト」のマハーシャラ・アリも、個人的な経験をふまえた感動のスピーチをしている。「僕の母はクリスチャンの聖職者です。17年前、僕がムスリムに改宗したと電話で知らせた時、彼女は喜びませんでした。でも、今では、そういった違いは置いておいて、僕は母を母として、母は僕を僕として、見ることができます。僕らはお互いを愛しています。(自分がムスリムだということは)新しい靴を買ったみたいなもの。たいしたことじゃないのです」という彼の言葉に、会場はまたもや大きな拍手を捧げた。

演技だけを対象とするSAGで、作品賞的な部門ととらえられているアンサンブル部門を、60年代にNASAで大活躍した実在の黒人女性を描く「Hidden Figures」が取ったこと自体も、何かを伝えていると言えるかもしれない。

ここに出てくる女性の数学者たちは、ジョン・グレンを宇宙に飛ばすために欠かせない人々だったにも関わらず、その存在は、これまでほとんど知られてこなかった。当然のことながら、彼女らは、NASAの内部でも差別を体験している。それでも、この女性たちがベストを尽くしたことを讃える主演のタラジ・P・ヘンソンは、「この映画は、異なる部分は忘れて、人間として協力することを語る映画です。そうすることで、みんなが勝つのです。いつだって、愛は勝ちます」と語った。

功労賞を受賞したリリー・トムリンは「今、トランプが法律を変えています。ナチも、法律を変えました。勝手に法律を変えて、好き放題にしたのです。私たちは常に注意を払い、止めるべき行動は止めなければいけません」と注意を喚起。テレビのミニシリーズ部門で女優賞を取ったサラ・ポールソンは、アメリカ自由人権協会(ACLU)への寄付を呼びかけた。ACLUは、トランプが出した、難民と特定の国からの渡航者を禁止する大統領令に対し、全力で闘う姿勢を見せている。

脚本家やプロデューサーも立ち上がっている

立ち上がっているのは俳優たちだけではない。入国禁止令に抗議すべく、「セールスマン」で外国語映画部門にノミネートされているイランの映画監督アスガー・ファルハディがオスカー授賞式への欠席を表明したのを受けて、脚本家組合(WGA)は、「出生地や宗教のせいでわが国に入国できないというのは、憲法違反であり、間違っています。(中略)人権、とくに言論と宗教の自由は、すべてのアメリカ人と、より良い人生のためにやってくる人々にとって、非常に重要なものです。カンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、オスカーにもノミネートされた『セールスマン』の監督アスガー・ファルハディと出演者が入国できないかもしれないということを、私たちは非常に辛く感じています。昔から、エンタテインメント業界は、移民たちのイマジネーションによって築かれてきました。物語の語り手の組合である私たちは、違った国から来た人、あるいは違った信条をもつ人々が、独創的なものをこの国で作り出してくれることを歓迎してきました。私たちは彼らに感謝しています。彼らを支持します。彼らのために闘います」と声明を発表している(『セールスマン』の女優タラネ・アリシュスティは、監督より先にボイコットを表明している)。また、SAGの前夜に行われたPGA授賞式も、PGAプレジデントによるオープニングスピーチから、「ラ・ラ・ランド」のマーク・プラットの受賞スピーチに至るまで、トランプ批判の連続だったと報道されている。

ファルハディの「セールスマン」は外国語映画部門でオスカー候補入りしている
ファルハディの「セールスマン」は外国語映画部門でオスカー候補入りしている

トランプが就任してたった1週間でこれだけのことが起きてしまった事実を考えると、オスカーまでのあと4週間弱の間に何が起こるか、まったくわからない。しかし、不幸にもまだトランプが大統領の地位にとどまっているのならば、「政治色の薄い、明るく楽しいオスカー」は、ありえないだろう。昨年の「白すぎるオスカー」は、主にアカデミーとハリウッド映画業界に限られた話で、どうでもいい人にとってはどうでもいい問題だったが、今の状況は、アメリカに住むすべての人々を強い危機感に陥れているのである。そもそも、今年のホストのジミー・キンメルも反トランプを表明してきた人で、彼がホストを務めた昨年のエミーでも、彼は数々の批判ジョークを飛ばした。冗談ではすまされなくなった今、キンメルは、西海岸時間来月26日の授賞式にどう挑むだろうか。