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ジョニデ、ブランジェリーナ、ディカプ。2016年ハリウッドの10大ニュースを振り返る

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ブランジェリーナの破局は今年最もショックだったニュースのひとつ(写真:REX FEATURES/アフロ)

レオナルド・ディカプリオがついにオスカーを受賞し、ライアン・レイノルズが「デッドプール」で見事に返り咲いた2016年。ドウェイン・ジョンソンは「世界で最も稼ぐ俳優」と「生存する最もセクシーな男」の肩書きを獲得、「ローグ・ワン」は「スター・ウォーズ」シリーズの勢いのすごさを改めて証明した。

ほかにも、話題の人の過去のレイプ疑惑浮上から、思いもかけぬセレブカップルの離婚まで、この1年、いろんなことが起こっている。本日はキャリー・フィッシャー、クリスマスにはジョージ・マイケルが亡くなるなど、残念なニュースも多数あったが、ここではお悔やみ関係以外で特筆すべき10の出来事を振り返ってみる。

10:メル・ギブソンのカムバック

「マッドマックス」「リーサル・ウェポン」でハリウッドを代表するアクションスターのひとりとなり、「ブレーブハート」(1995)でオスカー監督となったギブソン。しかし、2006年の飲酒運転と、それに伴うユダヤ人差別発言で、彼の名声は一気にダメージを受ける。さらに2010年には、当時の恋人オクサナ・グリゴリエヴァがギブソンからDVを受けていたと主張し、彼は事実上、ハリウッドで干されてしまった。

だが、今年のヴェネツィア映画祭でお披露目された久々の監督作「Hacksaw Ridge」が高い評価を得て、ギブソンに再びポジティブな意味での注目が集まることに。今作は、豪アカデミー賞を、作品賞、監督賞を含む8部門で受賞。ナショナル・ボード・オブ・レビューの「今年のトップ10映画」のひとつにも選ばれ、ギブソンはゴールデン・グローブの監督部門にもノミネートされている。今年はまた、主演作「Blood Father」で、カンヌ映画祭のレッドカーペットにも登場した。現在は、プロデューサーと主演を兼任する次回作の撮影に入っている。共演はショーン・ペン。

時間がたったからとあっさり許してもいいのかとハリウッドの甘さを非難する声もある一方、ではいつが許していい「期限」なのかとの反論も聞かれたりもするが、とりあえず彼は、ハリウッドを再び堂々と歩き回れるチケットを取り戻したようだ。

「Hacksaw Ridge」の主演はアンドリュー・ガーフィールド
「Hacksaw Ridge」の主演はアンドリュー・ガーフィールド

9:ディカプリオとマレーシアの公金不正使用の関係

2013年の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の製作予算1億ドルを出したのは、ディカプリオのプロダクションカンパニーと同じビル内にオフィスを構えるレッド・グラニット・ピクチャーズ。同社の創設者のひとりは、マレーシア首相ナジブ・アザクの義理の甥で、マレーシア史上最大規模の公金不正利用に深く関与した疑いが持たれている。「ウルフ〜」の製作費もそこから出たと思われるが、それだけでなく、長年にわたり、さまざまな場で、ディカプリオの財団が彼らから多額の献金を受けてきたことも明るみに出た。これに伴い、ディカプリオの財団全体における不透明さもあらためて指摘されることに。環境保護主義者をうたってきたディカプリオは、熱帯林を破壊するマレーシア政府関係者と癒着しているとして、ほかの環境保護主義者から非難されることにもなった。この展開を受けてか、ディカプリオは、ヒラリー・クリントンの選挙資金集めパーティに自宅を提供する予定だったのを、直前になってキャンセルしている。それがクリントン側の意向だったのか、ディカプリオの意向だったのかは不明だ。

8:レスリー・ジョーンズVS人種差別者

「ゴーストバスターズ」を女性4人でリブートすることが発表されて以来、一部から猛反対の声が上がっていたが、公開が近づくと、4人の中で唯一の黒人であるレスリー・ジョーンズへのツイッター個人攻撃へとエスカレートする。彼女に人種差別、女性差別、ルックス差別のコメントを送った代表人物は、保守派のニュースサイト「Breitbart」の記者ミロ・ヤンノポーロス。責任を感じたツイッターのCEOは、ジョーンズに連絡し、ヤンノポーロスを含めた何人かのアカウントを閉鎖した。しかし、それでは終わらず、その翌月、ジョーンズは何者かにハッキングされ、運転免許証の写真、電話番号など個人情報や、彼女のヌード写真がネットに流出するという最悪の事態に発展している。

この騒動の間、ずっとジョーンズをサポートしてきたポール・フェイグ監督は、最近、ソーシャルメディアでの嫌がらせは「無視するべき。応戦はするな」と、教訓を語った。

7:ひとり勝ちするディズニー

今年の北米興行収入は、記録となった昨年をやや上回る見込みで、史上最高記録となりそうである。しかし、みんなが喜んでいるわけではない。北米の今年のトップ10映画のうち、6作はディズニーが配給した映画(『ファインディング・ドリー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『ジャングルブック』『ズートピア』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『ドクター・ストレンジ』)。ワーナーは「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」と「スーサイド・スクワッド」の2作、ユニバーサルとフォックスは、それぞれ「ペット」と「デッドプール」の1作ずつ。パラマウントとソニーの作品はない。

「ファインディング・ドリー」は今年の北米興収1位映画
「ファインディング・ドリー」は今年の北米興収1位映画

今年、ディズニーはまた、世界興収が創業以来初めて60億ドルを超えるという記録も達成している。昨年はユニバーサルがこれを達成しており、史上2回目だ。

ディズニーは、近年、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムを買収してきた。ピクサーのジョン・ラセターをトップに迎え入れてからは、本家ディズニーのアニメも次々にヒット作を送り出している。一時はドリームワークスの配給も手がけたディズニーだが、世界の幅広い観客に受ける大作映画に焦点を絞り、通向けのシリアスな小作品は基本的には作らないというのが、最近の姿勢である。

6:ジョニー・デップのDV疑惑

ジョニー・デップとアンバー・ハード夫妻、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー夫妻は、セレブ離婚における今年の2大ニュース。だが、ショック度としてはブランジェリーナのほうが大きかったため、こちらを1ランク下にした。

そもそもデップとハードを本当にお似合いカップルと思っていた人はそんなに多くないはずで、彼らが続かなかったこと自体は、そんなに驚きではないだろう。だが、ハードがデップにDVを受けていたと主張したことから、この離婚劇は複雑でどろどろしたものになった。デップの過去の女性たちをはじめ、彼を良く知る人たちは、彼がDVをしていたとは「絶対信じられない」とデップを弁護している。

揉めに揉めたが、最終的にふたりは、デップがハードに700万ドルを払うことで和解(前の記事でも述べたが、カリフォルニアには悪かったほうが払うという慰謝料制度はなく、収入が高いほうが低いほうに対して払うようになっている。この700万ドルは、デップがDVをしていた、あるいは離婚の原因を作ったと認めるものではない)。和解後も、ハードはDV被害者に訴えかける公共広告に出演したり、雑誌にDVに関するエッセイを執筆したりしている。これに対し、デップは、今のところ表向きには何の行動も取っていない。

5:ブランジェリーナの親権争い

ハリウッドきってのスーパーカップルも、永遠には続かなかった。結婚したのは2014年だが、ふたりが交際を公にしたのは2004年で、12年を経ての破局である。

報道されているところによると、ふたりは離婚の可能性について話はしていたようだ。だが具体的にならないうちに、ジョリーが不意打ちで申請をした。彼女はお金をいっさい求めていないが、事実上の単独親権を求めている。子供思いで知られるピットは、当然、共同親権を要求している。

カリフォルニアでは、相手に相当の問題がないかぎり、裁判所は共同親権を好む。9月にプライベートジェット内で起こったとされるピットと長男マードックス君の争いが大事になったり、仮の合意のもと、現在、ピットが自由に6人の子供たちに会うことができないようになったりしているのは、状況を自分に有利に運ぶための、ジョリーの策略ではないかと見る向きは少なくない。

子供たちのプライバシーを尊重するふたりとしては、裁判沙汰は避けたいところだろうが、ピットが共同親権を得るためには、それしか方法がないかもしれない。年明けの展開が注目される。

4:中国のハリウッド爆買い

日本に来る中国人観光客の爆買いは話題になったが、今年、ハリウッドでも同じことが起こった。大連万達グループ(ワンダ)は、今年、「GODZILLA ゴジラ」などを製作したレジェンダリー・エンタテインメントや、ゴールデン・グローブ授賞式番組などを製作するディック・クラーク・プロダクションなどを買収。すでにアメリカで2番目の映画館チェーンAMCは買収していたが、今年はほかにアメリカのカーマイク、ヨーロッパのオデオンとUCIも買収。中国最大の劇場チェーンのオーナーであるワンダは、その勢力を世界に広げたわけだ。ワンダはまた、パラマウントの親会社ヴァイアコムがパラマウントの49%を売りに出そうとしていた時にも名乗りをあげている。この買収は、ヴァイアコムのお家騒動で話自体がなくなっている。

ほかにも、ドリームワークス・アニメーションが「カンフー・パンダ 3(日本未公開)」を中国と共同製作して大成功させたり、スピルバーグがアンブリン・パートナーズの一部をアリババに売ったりという動きがあった。アリババは「スター・トレック BEYOND」と「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>」に出資もしている。

一方で、中国の興行成績の伸びは減速気味。中国は今年にも北米を抜いて世界最大の映画市場になると見られていたが、あと5年くらいはかかりそうな感じだ。それでも間違いなく、ここはハリウッドが気にせずにはいられない市場である。

3:「The Birth of a Nation」の凋落

今年、業界内で最も話題に上がった映画のひとつが、19世紀の奴隷暴動を率いたナット・ターナーについての、この映画。早い時期にオスカー有力候補と言われていた今作は、もはやすっかり忘れ去られている。

黒人俳優ネイト・パーカーが監督、主演、共同脚本を務めたこのインディーズ映画は、今年1月のサンダンス映画祭で、観客賞と審査員賞の両方を受賞。配給会社はどこもこぞって欲しがり、激しい競売の末、フォックス・サーチライトが、サンダンス史上最高値の1,750万ドルで競り落とした。その頃はちょうど、オスカーの演技部門候補が全員白人であることに対する“白すぎるオスカー”バッシング(次の項目を参照)が起こっていたため、主要キャストがほとんど黒人であるこの映画のおかげで来年は大丈夫だと、人々は希望を感じたりもしたのである。

自信満々のフォックスは、賞狙いの10月を北米公開日に据え、9月のトロント映画祭での上映も決まった。しかし、その少し前になって、パーカーと共同脚本家のジーン・マクジャニーニ・セレスティンが、ペンシルバニア州立大学在学中に、レイプ事件で逮捕されていたという事実が浮上(パーカーは無罪、セレスティンは有罪を宣告されたが、セレスティンの有罪判決も、後に覆された)。

パーカーはこのことを隠していたわけではないのだが、それまでは比較的無名だったので、誰も気にしなかったのだ。だが、オスカー狙いの傑作を作った話題の人となると、話が違う。彼らを告発した女性が2012年に自殺していたことがわかると、騒ぎはさらに大きくなった。

この過去の事件が明るみに出た当初、パーカーは、「自分のあの時期から逃げようと思ったことはありません」などとする長いメッセージをFacebookに投稿。だが、トロント映画祭での記者会見では、その質問を直球で投げかけた記者に、まともに答えることをしなかった。テレビのインタビューでも、彼は、自分が無実の判決を受けたことを主張し続けたが、裁判での記録には、告発者が決して性交に合意していたとは思えない記述が多々あり、「あの映画は絶対見ない」などというコメントが、ソーシャルメディアを飛び交った。

映画は北米6位デビュー。北米興収は1,500万ドルとまったくぱっとせず、海外での公開もキャンセルされた。結果、フォックス・サーチライトは大きな赤字を出している。

2:“白すぎるオスカー”論議

今年のオスカーの主演男女優、助演男女優の全20人の候補者は、全員が白人。昨年も同じだったので、2年連続だ。ノミネーションが発表されたとたん、ソーシャルメディアを「#OscarsSoWhite」のハッシュタグが飛び交った。スパイク・リーやウィル・スミス夫妻は、授賞式ボイコットを表明。「降板してくれ」とかなりのプレッシャーを受けたというホストのクリス・ロックは、授賞式で、人種に関するかなりブラックなジョークの数々を口にしている。

アカデミーは、即座に行動に出た。こういう結果になった理由のひとつは、会員が圧倒的に高齢の白人男性中心ということであるため、今年は普段よりずっと多い人数の新会員を招待し、意図的にマイノリティ、女性、若い人を増やしている。まだ現役で仕事をしている人の意見を反映させるべく、投票権に関するルールも変更した。そのせいで、それほど多くはないものの、投票権を失った長年の会員も実際に出ており、年寄り差別だと非難する声も聞かれる。

これらの努力にどこまで影響力があるかはまだわからないが、来年のオスカーにおいては、すでに黒人監督と黒人キャストの「Moonlight」やデンゼル・ワシントンが監督と主演を兼任する「Fences」が食い込むのは間違いなく、またもや真っ白ということにはならないはずである。

1:ドナルド・トランプVSハリウッド

金と名声でたいていのことは自分の好きなようにできるハリウッドの大物セレブたちが、今年は信じられない敗北を経験した。表向きだけでも200人以上ものスターが一丸となってヒラリー・クリントンを応援し、多額の政治献金もしたのに、大統領に選ばれたのは、ハリウッドではジョークの対象でしかなかったドナルド・トランプだったのである。

そんな結果は絶対にありえないと思っていたからこそ、マイリー・サイラス、レナ・ダナム、バーバラ・ストライザンド、エイミー・シューマー、チェルシー・ハンドラーら何人かのセレブは、「もしトランプが勝つようなことがあったら、外国に移住する」とまで宣言していた。おかげで彼女らは、選挙後、トランプ派からさんざんバカにされたり、嫌味を言われたりするはめになってしまっている。

しかし、ハリウッドはまだ降参はしていない。選挙後も、アレック・ボールドウィンは「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」でトランプを演じ続け、大好評を買っている。トランプは当然、それが気に食わず、ツイッターでSNLを攻撃しているが、それがまた笑いのタネになっている。

トランプの就任式で歌ってほしいと依頼されたエルトン・ジョン、セリーヌ・ディオン、アンドレア・ボチェッリ、ガース・ブルックスなど大物ミュージシャンらは、みんなこぞって断っている。そんな中、ボールドウィンは、「僕はトランプの就任式で歌いたいです。AC/DCの『地獄のハイウェイ』を歌います」「就任式は、彼が出ていく日までのカウントダウンが始まる日です。彼は、出ていきます。1月20日、そのカウントダウンが始まります」とツイートした。

年明けを待たずして、ハリウッドはカウントダウンを始めているのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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