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デビッド・リンチ:初めての瞑想は「エレベーターの中にいたら突然ロープが切れたような感じだった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
YGBからナマステ賞を受賞したデビッド・リンチ(写真/鈴木香織)

来年放映開始予定の「ツイン・ピークス」続編の編集作業に追われているデビッド・リンチが、多忙なスケジュールを調整し、米西海岸時間25日(日)、マリブに集まった約200人の前に姿を現した。

リンチは、L.A.に本拠を置く非営利団体YOGA GIVES BACK(YGB)が毎年行うチャリティイベントで、ナマステ賞を受け取るべく会場を訪れたもの。YGBは、マイクロ・ローンを通じ、ヨガ発祥の地インドで貧困に苦しむ女性が自分のビジネスを始める援助をしたり、子供たちが学業を続けられる手助けをするなどの活動を行っている(筆者もボランティアチームのメンバーとして数年前から関わっている)。

会場風景(写真/鈴木香織)
会場風景(写真/鈴木香織)

ナマステ賞は、世界のヨガコミュニティに影響を与え、人道的活動にも貢献してきた人物に与えられる賞。超越瞑想(TM)を、40年以上、毎日実践してきているリンチは、11年前に自ら創設したデビッド・リンチ財団を通じ、恵まれない子供たち、退役軍人、DVや性暴力の被害を受けた女性、服役囚などに無料で瞑想を教える活動を続けてきている。

自分の財団のイベントですらめったなことでは顔を出さないリンチだが、デビッド・リンチ財団のCEOボブ・ロスが「これはデビッドにとってほかのどんな賞よりも意味があると思いますよ」と言っていたとおり、「この賞をいただけるのは、私にとって、すごく大きな光栄です」という言葉でスピーチを始めた。そして、「私はあくまで普通の人間。マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー(TMを始めた人)がいなかったら、平和や神について語ることなんて、できなかったでしょう。だから私はこの賞をマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーに捧げたいと思います」と続けている。

YGB創設者、三松佳代子から賞を受け取るリンチ(写真/鈴木香織)
YGB創設者、三松佳代子から賞を受け取るリンチ(写真/鈴木香織)

TMを始めたのはいつ頃かと聞かれると、リンチは、「1973年7月1日、午前10時半」と答え、場内を笑わせている。そこまでしっかり覚えているのは、それが人生を変える体験となったからだ。

「エレベーターの中にいたら、突然、誰かがエレベーターのワイヤーロープを切ったような感じでした。私は、ものすごいスピードで、内側へとどんどん落ちていったんです。そして、無上の喜びが押し寄せてくるのを感じました。肉体的、感情的、精神的な至福の中に、突然にして、どっぷりと浸かった。そして、自分はどうして今までこれを経験してこなかったのだろうと思いました。以来、1日2回、瞑想をしています。欠かしたことはありません。みなさんにも、本当にお勧めしますよ。これは、実際に効く、すばらしいテクニックなんです。」

写真/鈴木香織
写真/鈴木香織

L.A.の貧しい地区の学校を訪れ、子供たちと瞑想を行うのは、とりわけ大きな喜びを与えてくれるとも、リンチは語っている。

「TMは、正しい教育を受けたTM教師から直接伝授をしてもらうもの。その人たちからテクニックを教えてもらえば、やがて、自分ひとりで、いつでも、どこでも瞑想ができるようになります。でも、ほかの人たちと一緒に瞑想をすると、さらに深い体験になります。子供には純粋さがある。まだ汚されていない。だから、彼らと一緒に瞑想をすると、とても美しく、奥深い体験を得られるんです。いくつもの魂が一緒に解放されていくのを感じるのは、ものすごくパワフルですよ。」

TMが到達を目指す最高かつ永遠の境地には、「知らなかった知性、知らなかったクリエイティビティ、知らなかった愛、知らなかった幸せ、知らなかったエネルギー、知らなかった平和がある」と、リンチは言う。

「私たちの世界は、今、表面的に見ると、とても暗い状態にあります。でも、この境地は、とても明るいのです。本当の平和を求めるのであれば、暗いもの、否定的なものを、完全に取り払ってしまわないといけません。それが、真の平和の定義。戦争がない、というだけでは平和とは言えません。私たちには、明るさと平和を創造できるテクニックがあります。それがあるという事実が、希望をくれます。今、それを実行しようという人々がたくさん出てきていることにも、希望を感じます。このテクニックが生まれてすぐそういう動きが生まれなかったことには驚かされますが、暗いところから明るいところに行くのは大変で、時間がかかること。多くの支援が必要で、私はそのために、日々、努力をしています。」

写真/鈴木香織
写真/鈴木香織

YGBについては、「この団体も、他人を助け、良い教えを広めるという、すばらしい活動をしています」と言い、このチャリティイベントに出席してくれた人々に向かって、「みなさんがこの団体を支援してくださいっていることをうれしく思います。あらためて、この賞をいただき、ありがとうございました」と述べた。

ところで、この夜リンチが受け取ったナマステ賞像は、YGBが支援する南インドの兄弟が制作したものである。幼い時に父親が亡くなり、母親はひとりで兄弟を育てることができなかったことから、ふたりは、ある施設に入れられた。YGBは、その施設の子供たち21人を支援している(YGBが支援するインドの女性と子供の総数は現在900人以上)。兄弟は、メールを通じてL.A.のYGB本部と写真やメッセージをやりとりしながら、2ヶ月かけて、この像を完成させた。ステージでリンチに賞を手渡すのは、今年のトップスポンサーである氷室京介のはずだったのだが、氷室氏は出席できず、代わりに、YGB創設者でプレジデントの三松佳代子が渡している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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