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「クリード」盗作で訴訟される。「マトリックス」から「アバター」まで、過去の判決はどう出たか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
盗作に対する訴訟ではシルベスタ・スタローンも被告に挙げられている(写真:ロイター/アフロ)

「クリード チャンプを継ぐ男」は盗作だとする訴訟が、先月、ニュージャージー州で起こされた。原告は、ジャレット・アレクサンダーという名の脚本家。彼は「Creed: Rocky Legacy」という脚本を書き、MGM、ライアン・クーグラー監督、シルベスタ・スタローンらに売り込んだと主張。自分のアイデアが採用されたら、当然、自分の名前がクレジットされ、ギャラももらえると思っていたが、被告は、自分の承諾を得ないまま、「クリード チャンプを継ぐ男」を製作したと述べている。MGMは、これは無駄な訴訟だと断言。そもそもロッキーのキャラクターはMGMが所有するものだとも指摘し、徹底して争う構えを見せている。

映画が大ヒットした後に、「それは自分のアイデアだった」という人が出てくるのは、ハリウッドではよくあることだ。全世界で27億ドルを売り上げ、史上最高のヒット作となった「アバター」など、5度も訴訟されている。原告の中には、SF作家や脚本家もいるが、イエスやエイジアのアルバムカバーのデザインをしたアーティストのロジャー・ディーンも、「アバター」のビジュアルは自分の作品を盗んだものだと、5,000万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こした。だが、この5件とも、ジェームズ・キャメロンが勝っている。

「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」は、スーパーナチュラル小説の作家ロイス・マシューから訴えられている。彼は業界紙「Variety 」にディズニーを非難する広告まで出したが、敗訴。それでもあきらめず2013年に違う弁護士を立てて2度目の訴訟を起こした。このケースは、まだ判決が下りていない。「マトリックス」は、ソフィー・スチュワートと、トーマス・アルソースというライターから、別々に訴訟されている。が、スチュワートには証拠が欠けている、アルソースは彼の脚本と映画には似ている部分が少ないことを理由に、どちらのケースも、原告の敗訴に終わった。このスチュワートというライターは、「ターミネーター」に対しても同様の訴訟を起こしている。

アニメも例外ではなく、「ファインディング・ニモ」はフランスの児童文学作家から、また「カーズ」はイギリスの脚本家から訴訟された。いずれのケースも、ピクサーの勝訴に終わった。

まるでヒットせず、評判も最悪だったのに、わざわざ「それは自分のアイデアだった」と名乗り出すケースも、時にはある。エリザベス・バンクスが主演した2014年のコメディ「Walk of Shame」は、北米興収がわずか5万9,000ドルで、海外ではいっさい公開されなかった。Rottentomatoes.comでも、たった12%の支持しか集めていない。しかしダン・ローゼンは、これが自分の書いた脚本「Darci’s Walk of Shame」の盗作だと訴訟を起こした。訴状によると、ローゼンは、バンクスと、バンクスの夫でプロデューサーのマックス・ハンデルマンに会って脚本を見せている。夫妻は興味を示したが、その後、連絡はなかった。しかし、ここでも、判決は、スタジオとプロデューサーの味方をしている。実際にバンクスやハンデルマンがローゼンの脚本を見たと信じる根拠はあるとしながらも、そもそもこのコンセプト自体にオリジナリティがないことなどを理由に、この判決を出したということだ。

「Walk of Shame」のケースはとくに、盗作の訴訟でスタジオに打ち勝つことがいかに難しいかと証明するものだろう。2006年には、フリーランスライターでポーカープレイヤーのジェフ・グロッソが、「ラウンダーズ」は、当時ミラマックスと“ファースト・ルック”契約(良いアイデアはまず他社でなく自分のところに持ってくるという契約)を交わしていたゴッサム・エンタテインメントに提出した自分の脚本「Shell Game」の盗作だとミラマックスを訴訟した。しかし判決は、グロッソにギャラを払うという約束はゴッサムがしたものであり、ミラマックスは関係ないとして、グロッソは敗訴している。「Walk of Shame」の場合は、そこから一歩進んで、被告が原告の脚本を見ていることを裁判長が認めたのに、勝てなかったのだ。

一方で、非常に稀ではあるが、盗んだ側が盗んだことを認めて、謝罪したケースもある。シャイア・ラブーフが監督した短編映画「HowardCantour.com」が2013年末にオンラインで公開されると、グラフィックノベル作家のデビッド・クロウズが、これは自分が2007年に発表した作品の完全なる映画化作品だと非難した。クロウズは、「僕はラブーフに会ったことはない。彼の映画もひとつも見ていないと思う。僕が6、7年前に書いたとてもパーソナルなストーリーを、せりふだけでなくビジュアルまで使って、自分の作品だと言ったことに、強いショックを受けた」と、Buzzfeedに対して語った。これを受けて、ラブーフは、かなりあっさりと謝罪をしている。しかし、その謝罪コメントがまた問題。「僕は、僕の家族をがっかりさせました。僕は、心の底から、自分の罪を悔やんでいます」というその言葉は、タイガー・ウッズが言ったコメントと、まったく同じだったのだ。さらに、クロウズがサンフランシスコ周辺在住であるのは知っているだろうに、ラブーフは、空に雲で文字を書くスカイライターを雇い、L.A.の空に、「ダニエル・クロウズ、ごめんなさい」というメッセージを書かせている。そのメッセージについての報道が出てまもなく、クロウズは、「もうこれを終わらせたい」と訴訟に踏み切った。誠意のない謝罪をしても、逆効果になりかねないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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