次の狙いはオスカー?積極的なアワードキャンペーンに見るネットフリックスの野望

主演のエイブラハム・アター(左)と監督のキャリー・ジョージ・フクナガ(写真:ロイター/アフロ)

来年2月のオスカー授賞式でプレゼンターが封筒を開ける瞬間、スタジオ関係者の隣で、ネットフリックスのエクゼクティブたちも、胸を高鳴らせているかもしれない。1年前なら誰も考えなかったそんな風景が、現実味を帯び始めた。

今週火曜日に発表されたインディペンデント・スピリット賞のノミネーション結果で、ネットフリックスが配信する「Beasts of No Nation」が、5部門で候補入りした。6つで最多ノミネーションとなった「Carol」と、たったひとつ違いだ。インディペンデント・スピリット賞はオスカーを予測する上で必ずしも頼りにはならないが、これで大きなはずみをつけたのは間違いない。

「Beasts of No Nation」は、キャリー・ジョージ・フクナガ監督(『闇の列車、光の旅』)が7年かけて実現させた情熱の一作。紛争の続くアフリカで、家族と生き別れた少年が、子供の戦士にさせられ、武器をもって戦うようになっていく様子を描く、重要なメッセージをもつ作品だ。

製作費は約600万ドル。ネットフリックスは全世界配給権を1200万ドルで買った。北米では10月16日に劇場公開されたが、同日にネットフリックスでもストリーミング配信開始が決まっていたため、劇場主の反対に遭い、公開館は非常に限られて、興行成績は非常に低くとどまっている。しかし、もともとネットフリックスは、劇場公開で儲けようとは思っていない。劇場公開をすることで、オスカーの資格が得られるのである。

実際、ネットフリックスは、アワードシーズンに向けて、最初から綿密な戦略を取っている。世界プレミアは、ヴェネツィア映画祭。ここでは、主演のエイブラハム・アターが、マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞している。続いて、近年ますます重要度を上げているトロント映画祭に出品し、批評家や映画ジャーナリストに見てもらった。そしてアワードシーズンがより本格化する頃になると、L.A.とニューヨークで週に2回程度の試写会を組み、ジェイク・ギレンホールやベン・スティラーなどのセレブリティを特別ゲストに招いて、投票権をもつ人々に招待をかけている。もちろん、スクリーナー(DVD)も郵送しているし、投票権をもつ人の多くはネットフリックスに加入していて、見ようと思えば自宅でいつでも見られるのだが、地味な作品だけに、華やかな会をもうけて確実に見てもらおうという狙いだろう。L.A.の街角には、大きな看板広告もお目見えしている。

ここまで真剣にアワードキャンペーンを行ってくれるのは、フィルムメーカーにとって、ありがたい話だ。2013年には、プレミアムケーブルチャンネルHBOが長編映画「恋するリベラーチェ」を製作配給し、カンヌ映画祭で世界プレミアまでしたが、アメリカではHBOのテレビ放映のみで、劇場公開はされなかったため、エミー賞やゴールデン・グローブでは健闘したが、オスカーをはじめとする主要な映画賞の資格はなかった。HBOはその後も、著名なキャストを配した、劇場映画に匹敵する秀作を作ってきているが、ネットフリックスはもう一歩先に進み、完全なる劇場映画として同等に戦おうとしているのである。

大手スタジオは、近年ますます、スーパーヒーロー物や大型アクション映画など、ブランド名があり、シリーズ化可能な作品を好み、大きく稼げる見込みの少ない大人向けのドラマを作らなくなってきている。最近、アメリカでケーブルチャンネルの独自制作ドラマの質が急速に向上しているのも、映画では自分のやりたいことをやらせてもらえないとわかった脚本家たちが流れてきていることが大きい。「Beasts of No Nation」のような映画は、現在のメジャースタジオが絶対に作らない映画。VOD配信が主で、劇場公開は取って付けたように限定、というのは、一見、理想的な形ではないが、今回のネットフリックスが見せたやる気に心を動かされ、自分のプロジェクトを持ち込んでみようかと考えるフィルムメーカーは、少なくないだろう。

すでにテレビでは「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」などの成功で、エミー賞の常連になっている。賞に引っかかることで作品の知名度が増し、会員数の増加へとつながってきた。次なる目標にオスカーを掲げるのは、しごく当然の動きと言えるかもしれない。テレビの概念をがらりと変えてみせたネットフリックスは、映画界にも大きな影響を及ぼしていくのだろうか。