脚本流出の次は警察のボイコット。騒動はタランティーノの新作にプラスか、マイナスか

クリスマスの北米公開が予定されているクエンティン・タランティーノの「The Hateful Eight」が、米警察からボイコット運動を受けている。

きっかけは、先月、ニューヨークで行われたデモ「Rise Up October」に参加したタランティーノが、「僕は良識をもった人間だ。人が殺されるのを見て、黙ってはいられない。殺されたことは殺されたと言うし、殺人者は殺人者と呼ぶ」と、最近、警察が誤って一般市民を射殺する事件が続いているのを批判したこと。これを受けて、L.A.警察のトップ、チャーリー・ベックは、「タランティーノは、バイオレンスの本質を理解していない。彼はファンタジーの世界に生き、それで生計を立てている。彼の映画のバイオレンスは過激だが、彼は法的な手段を使うことと殺人を混同している」とコメントした。同じくL.A.警察に所属するクレイグ・ラリーは、「L.A.TIMES」に対して、一般市民も警察を支持し、「The Hateful Eight」をボイコットするだろうとの予測を示している。「警察を支持するアンダーグラウンドの一般人というのがいる。警察ではなく、それらの人々が、この映画を潰すはずだ」というのが、彼の見解だ。

一方で、これまで沈黙を守ってきたタランティーノは、今週火曜日になって、初めてこの件について発言。「この国における警察の暴力の問題をじっくり見ようとするかわりに、彼らは僕を非難している。僕を怯えさせ、黙らせようとしている。さらには、ほかの有名人が僕の側に立つことを妨げようとしている」と批判した。また、「ボイコットを叫んでいるのは警察の代弁者で、実際に警官たちがそれに乗るということを意味しない。警官の中には、僕のファンがたくさんいる」とも語っている。

「The Hateful Eight 」は、南北戦争後のワイオミングを舞台にしたウエスタン。2014年1月には、脚本が流出し、ネットで公開されたため、タランティーノが製作中止を宣言するという出来事があった(著作権侵害で訴訟も起こしたが、裁判所から却下されている。)脚本は、タランティーノが脚本を渡した数人の俳優のうち誰かが漏らしたと見られており、当時、彼は、激しい絶望感と怒りを表明している。

しかし、同年4月には、ティム・ロス、サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセルら俳優を集めて、L.A.のホテルでライブの脚本朗読イベントを実施し、その後、あらためて映画化を決意。先月には、映画が途中休憩を含む上映時間3時間の超大作で、70mmのウルトラ・パナビジョンによる限定ロードショー版も同時公開すると発表され、最近作2作もオスカーにノミネートされているタランティーノだけに、まだ誰も見ていないながら、またもやオスカー有力候補となるかと期待が寄せられていた。

タランティーノが自らライブ朗読でストーリーを公開したこともあり、この段階で、脚本流出事件が映画の興行成績に与える影響は、ほとんどないと考えていいだろう。問題は、警察のボイコットがかもしだしている論議のほうだ。「悪い宣伝でも、何も宣伝がないよりまし」という“常識”もあるが、「ゼロ・ダーク・サーティ」や「グローリー/明日への行進」などは、「事実と違う」といういちゃもんが入ったせいで、賞レースでの勢いを失った。その一方で、宗教関係者から強い反感を示されたにも関わらず大ヒットした「最後の誘惑」や「パッション」の例もある。

タランティーノのファン層や、彼の作る作品を考慮すると、おそらく「The Hateful Eight」は後者の分類に入る可能性が強いと思われる。そもそも、公開は、まだ1ヶ月以上先。警察のボイコット運動の勢いがそれまで持つかどうかも不明だ。タランティーノ作品を長年公開し続けてきているハーベイ・ワインスタインは、今後も変わらずに「The Hateful Eight」を支え続ける姿勢を示している。オスカーキャンペーンでは彼の右に出る者なしと言われるワインスタインのこと、この大騒ぎなどものともせず、オスカー戦線を突っ走りそうな気がする。