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“アイスバケツチャレンジ”は現代版“不幸の手紙。”セレブ支持で広がるキャンペーンの問題点

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

アメリカで“アイスバケツチャレンジ”がセンセーションを巻き起こしている。ジャスティン・ティンバーレイク、レディ・ガガ、ドウェイン・ジョンソン、クリス・プラットなどハリウッドスターや、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグまでが潔くバケツ一杯の氷水をかぶる映像が流れ、この夏の一大現象になりそうな勢いだ。

目的は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)研究の基金集め。参加者は、このチャレンジを受けて立ちますと宣言した上で、バケツ一杯の氷水をかぶり、終わるとほかの誰かを指名する。その映像をFacebookやツィッターに載せ、名指しされた人は、24時間以内に自分も同じように氷水をかぶるか、あるいはALSのチャリティに100ドルを寄付しなければならない。具体的に誰が思いついたアイデアなのかは明らかになっていないが、効果はすばらしく、7月29日の時点で、すでに1560万ドルが集まったという。昨年同時期の寄付金額は180万ドルだった。

セレブが楽しそうにやっているせいで、明るくポジティブなイメージを受けるかもしれないが、どんどん次につなげるこのシステムは“不幸の手紙”と同じ。チャリティという正しい目的があるとはいえ、100ドル払うか氷水をかぶるかの選択を迫られるのだから、名指しされて迷惑と感じる人も少なくないはず。氷水をかぶったことで寄付するのを避けたと思われたくないがために、氷水をかぶるが寄付もすると宣言する人もいる。シカゴでは、氷水をかぶる時にケガをし、10代の少年が死亡するという悲劇的な事故も起きた。また、深刻な水不足に悩まされているカリフォルニア州では、水の無駄遣いを指摘する声もある。

ALSは治療法が確立されておらず、ほとんどの患者は症状が出てから2年から5年で死亡するという難病。しかし、非常に稀な病気でもあり、アメリカ疾病予防管理センターによると、全米の患者数は1万2000人。それに比べて、たとえばアルツハイマー患者は520万人、糖尿病患者は2580万人いる。

このチャレンジが現れるまで、ALSのことを何も知らなかったという人たちに、その存在だけでも知らせることができたのは、成功といえるだろう。だが、この一過性のブームが去ってからも寄付金が集まり続けるかどうかは大きな疑問だ。乳がんやAIDSの予防やリサーチのためには、チャリティウォークやチャリティランをはじめとする毎年恒例のイベントが長年各地で行われ、着実に人々の注意を喚起し続けている。氷水がもたらしたこの勢いを、ALS協会が、今後どう有効に活かしていくかが注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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