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20世紀フォックスはワーナーを買収できるか?83歳のマードックがライバルを欲しがるワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

どんな映画よりも衝撃を与えるストーリーが、スクリーンの外で起こっている。

ルパート・マードックの20世紀フォックスがタイム・ワーナーに買収を持ちかけ、ワーナーが断っていたことが明るみに出たのは、先週のこと。ワーナーは、フォックスがオファーした800億ドルは低すぎるとし、自分たちは独立したままであるほうが、企業としてよりたくましくいられると宣言した。ワーナーは会社を売ろうなどとまるで考えていなかったのに、フォックスが一方的にアプローチしてきたのだ。

皮肉なことに、「断った」という報道であるにも関わらず、世間はあたかも近い将来、買収が実際に起こるかのように受け止めた。マードックがさらに高い金額をオファーするのは確実と見られ、1000億ドルまでつり上がるのではとの憶測も出ている。ワーナー側は保身の姿勢を強めるべく、買収に賛成する少数派の株主に動かされないように、月曜日に役員会を開いて会社のルールの一部を変更。だが、外の世界では、ワーナー買収を考える可能性のある、ほかの有力企業の名前まで飛び交い始めた。代表的なのはグーグルとアマゾンで、ほかにも、ディズニー、アップル、携帯電話会社ベライゾンなどがささやかれている。これらの会社は実際にはワーナーにアプローチはかけていないのだが、大規模な買収の試みが起こると、ほかの会社が名乗り出ることは往々にあるため、世間が先回りして騒いでいるわけだ。買収の期待を受けて、ワーナーの株価は、最初の報道の翌日、20%もアップ。以後も毎日上がり続けている。

フォックスは、20世紀フォックスのほかに、TVネットワークのフォックス、ケーブルチャンネルのFX、フォックスニュースなどを所有する。ワーナーは、ワーナー・ブラザースのほか、ケーブルチャンネルのCNN、HBO、TNT、TBSを持つ。両社が合併すれば、巨大なメディア会社が誕生することになる。

合併した新会社は、1年につき、10億ドルほどの経費を節約できるという分析もあるが、マードックがワーナーの買収を望む裏には、ケーブル会社同士の合併もある。テレビや映画などのコンテンツを視聴者に届けるケーブル会社が巨大になり、数が少なくなると、こちらも大きくなったほうが、料金の交渉の上で有利だという考えだ。さらに、83歳のマードックにとっては、自分の伝説を締めくくる最後の偉業なのではないかと見る人もいる。

マードックは、過去にも、ウォールストリート・ジャーナル紙に買収をオファーし、断られたものの、結局は手に入れてみせた実績を持つ。欲しいと決めたら絶対に自分のものにする彼は、今回も執念で打ち勝ってみせるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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