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いよいよ期日の8月31日。23ヵ国の最終的な退避情報。アフガン人退避ゼロの日本の、「この国のかたち」

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
8月28日ドイツのラムシュタインの米軍基地。アフガニスタンから避難してきた子供(写真:ロイター/アフロ)

とうとう8月31日になった。

アフガニスタンからの撤退期限である。

ロイター通信が、前回の情報を更新していたので、紹介したい。

少なくとも、以下の一覧表を見る限りでは、米軍以外はもう残っておらず、すべてが避難任務を完了したようだ。

一部、前回と同じ情報が入っているが、全体をみるためにそのまま残してお伝えしたい。

アメリカと同盟国は、タリバンがカブールに侵入する前日の8月14日以降、総力を挙げて11万4000人以上を避難させたという。

◎アメリカ合衆国

ワシントンは8月14日以降、5400人の米国民を避難させた。

国務省のスポークスマンによると、国外に脱出しようとしている米国民が、まだ約350人いるという。

◎英国

国防省によると、タリバンがアフガニスタンを支配するようになってからの2週間で1万5000人以上の人々を避難させた。その後、英国の最後の軍用機が28日土曜日の遅くにカブールを発った。

◎カナダ

カブールに駐留するカナダ軍は26日(木)、自国民とアフガニスタン人の避難活動を終了したと、統合参謀長代理のウェイン・エア将軍が発表した。

同氏によると、カナダは約3700人のカナダ人とアフガニスタン人を避難させたか、避難を促したとのこと。

◎ドイツ

ドイツは26日(木)に避難を終了した。ドイツ軍は4100人以上のアフガニスタン人を含む、5347人を避難させた。

ドイツは以前に、アフガニスタンの現地スタッフやジャーナリスト、人権活動家など、避難が必要な1万人を確認したと発表していた。なお、ベルリンの外務省報道官は27日、約300人のドイツ人がアフガニスタンに残っていると述べた。

◎フランス

フランス国防省は27日金曜日、アフガニスタンからの避難活動を終了したと発表した。この作戦では、2600人以上のアフガニスタン人を含む、約3000人がフランスに移送された。

(人権活動家や、ジャーナリスト、芸術家を含んでいるという)。

◎イタリア

イタリアでは、アフガニスタン人4890人を含む5011人が避難、そのうち1301人は女性で、1453人が子供である。最後の避難便は、27日金曜日に出発した。

◎スウェーデン

スウェーデンのリンデ外相は27日(金)、カブールでの避難任務を終了したと発表した。リンデ外相によると、現地で雇用されている大使館員とその家族を含め、合計1100人が避難した。

◎ベルギー

デ・クロー首相は26日木曜日、ベルギーが避難活動を終了したことを発表した。1400人強の人々が避難し、最終便は25日(水)の夜に、パキスタンの首都イスラマバードに到着したとのこと。

◎アイルランド

アイルランド外務省は、26日(木)に緊急領事団の活動が終了し、36人のアイルランド市民を避難させたと発表した。

現在判明しているのは、アイルランド市民とその家族約60名、さらにアイルランドの居住権を持つアフガニスタン国民15名が、アフガニスタンにとどまったままであり、支援を求めているが、これは当初の予測をはるかに上回るとしている。

◎ポーランド

モラヴィエツキ首相は24日火曜日、女性300人、子供300人を含む約900人をアフガニスタンから避難させたと発表した。

◎ハンガリー

ハンガリーのベンコ国防相は26日木曜日、ハンガリー市民と、以前ハンガリー軍で働いていたアフガニスタン人とその家族など540人を輸送し、アフガニスタンからの避難を終了したと発表した。

◎デンマーク

国防省によると、デンマークは25日(水)に、残っている外交官と軍人を乗せた最後の避難便をカブールから出発させた。

同省によると、デンマークは8月14日以来、外交官やその家族、元通訳者、デンマーク国民、そして同盟国の人々など、約1000人をアフガニスタンから退避させた。

◎ウクライナ

ウクライナは28日土曜日、出国を希望するすべての国民を避難させたと、大統領の参謀長のアンドリー・イェルマーク氏が発表した(彼は著名な映画プロデューサーという経歴をもつ)。

彼によると、外国人ジャーナリスト、権利活動家、女性、子供を含む600人以上を避難させたとのことである。

◎オーストリア

オーストリアは、オーストリアの市民権、居住権、労働許可証を持つ109人が避難した。シャレンベルグ外相は、30日月曜日の記者会見で、数十人が残っていると述べた。また、認識している限りでは、その中に市民権を持っている人はおらず、新しい人が毎日オーストリア当局と連絡を取り合っていると付け加えた。

◎スイス

スイスは、ドイツ軍の協力を得て、2週間で387人をアフガニスタンに送還した。そして避難を終了したと、外務省が27日金曜日に発表した。しかし、まだ11人のスイス人が滞在しており、そのうちの何人かは国際機関で働いているため、同省は引き続き連絡を取り合っているという。

◎オランダ

オランダ政府は26日、8月15日以降、アフガニスタンから2500人を避難させ、そのうち約1600人をオランダに連れてきたと発表した。オランダ大使は26日、最終便でアフガニスタンを出発した。オランダにはもう外交官は残っていない。

◎スペイン

スペインは、アフガニスタンからの人々の避難を完了したと政府が発表した。

政府の発表によると、27日(金)の早朝、カブールを離れた81人のスペイン人を乗せた最後の2機の軍用機が、ドバイに到着した。中には、4人のポルトガル人兵士と、NATO加盟国のために働いていた83人のアフガニスタン人も乗っていた。

スペインは今回の救助任務で、欧米諸国や国連、欧州連合(EU)で働いていた1898人のアフガニスタン人を避難させた。

◎トルコ

トルコは、27日金曜日、エルドアン大統領によると、小さな「技術グループ」を除いて、アフガニスタンからすべての兵士と民間人を避難させた。

チャヴシュオール外相は23日の週の初め、約1000人のトルコ国民を含む、少なくとも1400人をアフガニスタンから避難させたと述べた。

◎カタール

カタールは26日(木)、これまでに4万人以上の人々をドーハに避難させたと発表し、「国際的なパートナーと協議しながら、今後数日間、避難の努力を続ける」と述べた。

◎アラブ首長国連邦

UAEは26日(木)、これまでに3万6500人の避難を支援したと発表した。そのうち8500人は、UAEの国営航空会社や空港を経由してUAEに到着した。

◎インド

インドはアフガニスタンから565人を空輸した。そのほとんどは大使館員や現地在住の市民だが、アフガニスタンのシーク教徒やヒンズー教徒を含む数十人のアフガニスタン人も含まれていると、政府関係者が述べた。

◎オーストラリア

オーストラリアのモリソン首相は27日(金)、9日間でオーストラリアは4100人を避難させたが、そのうち3200人以上は豪市民と、同国のビザを持つアフガニスタン人。予定されていた最後のフライトは、空港襲撃前だったと述べた。その他の避難者は、 同盟パートナーからの避難者である。

また、首相は、オーストラリアの現地での作戦は完了したと言った。オーストラリアのビザ保有者の一部がアフガニスタンに残っていることを認めたが、国は正確な数を把握していないと述べた。

アンドリュース内務大臣は、オーストラリアは人道的プログラムの一環として、今後数ヶ月の間に少なくとも3000人以上の人々を避難させることを約束していると述べた。

◎ニュージーランド

ニュージーランド国防軍(NZDF)は、カブールから3便のフライトを運航して、最後に予定されていたフライトは、テロ攻撃前に出発したと、政府の声明で発表された。

爆発時にカブールにいた国防軍の人はおらず、カブール空港内にニュージーランドの避難者はもういなかった。暫定的な数字によると、少なくとも276人のニュージーランド国民および永住権保持者、その家族、その他のビザ保持者が避難したという。

日本はアフガン人退避「ゼロ」人。なぜこうなったのか。

この表をみる限りでは、ほぼすべての国が27日金曜日までに退避を終えている。唯一の例外は、英国の28日土曜日遅くである。

かつてアフガニスタンを支配し、アメリカの強力な同盟国の英国ですら、29日から31日はアメリカのみの期間とした。

日本の岸防衛相も27日までと言っていたが、そのとおりだった。

日本は、23日に輸送命令を出して、1機目の軍用機がカブール空港に到着したのが25日。26日までには最低でも10ヵ国が、数百から数千人移送したのちに任務を完了している。遅すぎる。間に合うわけがない。

結局、アフガニスタン人は、米政府から要請された14人を輸送しただけとなった。旧政権の政府関係者らで、「国内にとどまれば、迫害される恐れがあった」という。

(ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカの輸送機は45分おきに出ていたという。それに、利用価値がありそうな大物は、とっくに逃しているだろう。それなのに、こんなにギリギリに別個に日本に託す「迫害されるかもしれない旧政府関係者」とは一体・・・。国際問題を引き起こしかねない、とんでもない「ババ」でなければいいが)。

日本が自発的に退避させたアフガン人は「ゼロ」である。

なぜこんなに遅くなったのか。結局、政府も政治家もおそらく官僚も、日本人の退避のことだけを考えていた、外国人を移送するつもりなんてなかった、諸外国を見てマズイと本気で思い始め、やっと重い腰をあげたーーそういう風にしか見えない。

「外国人の移送は初めてのことだから」とか、「憲法のせいで」とか、そういう問題が、ないとは思わないし、関係ないとも思わない。

(米政府による空港までのバス輸送の提案も、理由の一つかとは思うが)。

しかし、根本にあるのは、日本という「この国のかたち」の問題なのに違いない。

日本は、常日頃から難民を受けいれていない。日本の2020年の難民受け入れ数は、たったの47人。入国管理局の外国人収容所は、刑務所と同じと言われている。自由も人権も無視。

そして「実習生」という名の、ごまかしだらけで歪んでいるが、欲にだけは忠実な「移民労働者受け入れシステム」は、国際的に批判されている。

ついこの前、名古屋の出入国在留管理局で、たった33歳で亡くなった、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんの事件がニュースになった。

先日は、茨城県の東日本入国管理センターで、警備員が収容者をの首を腕で絞め、全治2週間のけがを負わせた。たかだかサッカーボールの問題で。

これらのことは、やっと見え始めた氷山の一角に過ぎないだろう。

アメリカ国務省は今年の7月、世界各国の人身売買に関する2021年版の報告書を発表した。日本については、国内外の業者が外国人技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」としている。

多くの日本人が無関心で知らないのに、アメリカ国務省のほうが詳しく知っているという情けなさ。それだけ日本の外国人に対する扱いはひどくて、国際機関に報告が言っているのだろう。

それほど移民が嫌ならば、腹をくくって、いっそ全く入れなければいいものを。それならば、批判されても筋は通っているのに。

このようなことを平気でしている国の政府や政治家が、何よりも人道主義で「現地のアフガニスタン人スタッフを、助けなくては! 彼らの命が大事だ」と考えて、彼ら外国人を率先して「日本に迎えて受け入れよう」だなんて、思うわけがないのだ。

もちろん、そういう政治家を選び、そういう政治を許して無気力に黙っている私たち国民も。

これが今の日本の、ごまかしだらけで歪みっぱなしな「この国のかたち」なのだろう。

「アフガニスタン人の仲間を助けて欲しい」と、必死で訴えていた現地で働く日本人はいたし、自衛隊の人たちは大変厳しい情勢の中、救出に全力を尽くすつもりだったに違いない。でも、大もとがこれでは・・・。

日本人は、穏やかで、とても気持ちが優しいところがある。そうかと思うと、どこまでも他者に冷たくなれる、極めて酷薄なところがある。

この刃(やいば)は、わかりやすく外国人に向かうだけではなく、日本人自身にも向かうことがある。その冷酷さを正当化する言葉が「自己責任」である。

とても美しい島国、日本で見られる、人々の偏狭な心の冷たさ。

このリストには、今回新たにウクライナの情報が入っている。

世界有数の大国・日本と異なり、政治的にも経済的にも外交的にも、大変不安定な国である。国の東側では、ロシアからの揺さぶりで、内戦も続く。

それでも、自国民だけではなく、アフガン人の女性や子供を入れて600人は退避させた。日本との違いが辛い。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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