スコットランド議会選挙。独立に影響を与える経済状況はいま:EU離脱でなぜサーモン輸出は壊滅的か

2018年3月、スコットランドの首都エジンバラで行われた親EUのデモ(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ今日5月6日、スコットランド議会の選挙が行われる(ウェールズも同様)。

与党スコットランド国民党(民族党)は、過半数を獲得したら、独立を問う二度目の住民投票を行うと公約している。

同党がどのくらいの議席数を確保するのか。予測は、過半数に届かないから、3分の2獲得まで、完全にバラバラだが、おそらく同党は単独過半数を獲得するだろう。

ニコラ・スタージョン党首のコロナ禍対策は高く評価されている。それに、独立して欧州連合(EU)に復帰するのが目標というシナリオも、好意的に迎えられているからだ。

今後の行方は、EU離脱がどのようにスコットランド市民に影響を与えたのかが、最も大きなポイントとなるだろう。「純粋に独立を願うナショナリズム」だけでは、スコットランド市民は独立を選択しないことは、前回の住民投票で証明されている。

まず考えたいのは、やはり経済だ。

EU離脱は、スコットランドにどういう影響を及ぼしているのか。主要産業の一つ、サーモン(鮭)をみてみたい。

2017年クリスマス前。仏ランジスの公益生鮮食品市場に並ぶスコットランドのサーモン。
2017年クリスマス前。仏ランジスの公益生鮮食品市場に並ぶスコットランドのサーモン。写真:ロイター/アフロ

ほぼ壊滅的な輸出業

スコットランドやノルウェー等が面する海は、たいへん豊かな漁場である。特産品はサーモン。漁だけではなく養殖も盛んである。サーモンは、英国の食料輸出品の第1位である。

英国がEUを離脱する前の2019年、サーモンの海外販売額は合計6億1800万ポンド(約940億円)だった。最大の市場はフランスで、単独で2億2100万ポンド(約336億円)を販売した。

EU全体へは、輸出量の56%、輸出額の52%を占めていた。スコットランドにとって、EU市場は最大の顧客だった。

ところがEUを離脱後、EUへのサーモン輸出がほぼ全滅した。3月に発表された公式の数字によると、1月には前年比98%減となったという。

ちなみに、その他の英国のEU向け生鮮食品の輸出も、同様だった。1月の輸出額は牛肉が91.5%、豚肉が86.9%、チーズが85.1%減少した。水産部門全体では、7億ポンド(約1064億円)の打撃があった。『ザ・スコッツマン』が報じた。

ブレグジットで、何が問題だったのだろうか。

毎回10ページ以上の書類

最大の問題は、書類である。

今まではEU単一市場内だったので、国内を流通するのとほぼ同じように輸出できた。しかし、ブレグジットですべてが変わってしまった。

今はEUへの輸出へは、第三国への輸出用の書類を提出する必要がある。注文ごとに数十ページにも及ぶ輸出衛生証明書を提出する必要が生じてしまったのだ。

業界のリーダーたちは、ブレグジット後の官僚主義的な手続きを早急に簡素化し、大幅な遅延を防ぐ必要があると、指摘している。

遅延はすでに、注文の喪失、売上の減少、顧客の不満につながっている。輸出遅延時間の問題は、3月に入って若干改善してきたそうだが、根本的な解決には至っていないという。

スコットランド・サーモン生産者団体(SSPO)が収集したデータによると、スコットランドのサーモン養殖経営者は、ブレグジットによる変化の直接的な結果として、1月に少なくとも1100万ポンド(約17億円)の損失を被った。

さらに、同団体の計算によると、企業は余分な書類作成に毎月20万ポンド(約3040万円)を費やしており、年間250万ポンド(約3億8000万円)の請求になるという。

同団体の責任者、タヴィッシュ・スコット氏は、ゴーブ英内閣府担当相(国務相)から、「この問題を検討する」という、口頭での確約を得たと述べた。

彼は「今の書類は、鮭のような腐りやすい製品のために設計されたものではないのです。だから、私たちが輸出業者が使用するべき書類であってはならないはずでした」という。

このことは、英国は、鮮度が極めて大事な冷蔵保存の水産品を(冷凍保存ではなく)、EUやEUの規則が適用されている地域以外に輸出した経験がないことを意味しているのではないか。つまりゼロから適切な書類づくりの勉強が必要ということか。

漁業は、ブレグジット交渉の大きな争点となった。漁業を守れというのは、領海を守れ、つまり領土を守れの代替として、英国ナショナリズムを鼓舞した。

しかし、英国の水産品の主要輸出先はEUである。当時から「輸出相手はEUなのに、そんなEUを敵とみなすような主張をしてどうするのだ」という冷静な声はあったが、ナショナリストの声にかき消されていた。

国の数値がおかしい

ところで、今、別の問題がもちあがっている。

最近明らかになったのだが、英国歳入関税庁(HMRC)が発表した1月の数字によると、スコットランド産のサーモンはわずか86トンしかヨーロッパに輸出されていないというのだ。ノルウェーの「サーモンビジネス」、アイルランドの「フィッシュサイト」ほか、多数のメディアが興味を示している。

EUユーロスタットの公式統計では4500トン輸入したことになっている。前述のスコットランドの団体(SSPO)は約5000トンを輸出したと言っている。つまり、実際に行った量の約3%しか、英国の役所に登録されていないことになる。

同団体によると、数字の収集方法に何か問題があったようで、誰が悪いのか、どこから問題が発生したのかわからないという。

この問題は、スコットランドの業界団体側、EU側は数値を把握して、両者はそこそこ一致しているのに、英国の役所だけが変である状況を示している。

「実際にどれだけの魚がヨーロッパに流れているのか、きちんとした基準値が得られなければ、ブレグジットの影響を知ることはできません」と、同団体の戦略担当ディレクターであるハミッシュ・マクドネル氏はいう。

彼は英国議会のスコットランド問題委員会で証拠を提出し、「英国政府が発表した輸出統計の妥当性について深刻な問題がある」と国会議員に述べた。現在、調査中だという。

このようなシステムの問題については、スコットランドに限らず、英国中の貿易事務が大混乱なのに違いない。コロナ禍問題で隠されがちだが、英国全土の輸出入業者が悲鳴をあげているのだろう。

この問題が解決するのはいつのことだろう。

生活を脅かされているスコットランドの漁業関係者が気の毒でならない。

そういえば最近、フランスのスーパーの棚で、サーモンが減ったような気がする。でも、サーモンの大半はノルウェーから来ているし、サーモンがなくてもフランスは豊かな食料には困らない。

こういう規模や気候による「食料経済格差」というのは、なんだかとても切ない。だからこそ余計に、政治に対する怒りが増してしまいそうだ。

スコットランドのゆくえ

今後の行方は、とにかくどのくらいスコットランド国民(民族)党が議席数と得票率を得られるかによると思う。まずは、選挙結果に注目だ。

スタージョン党首は、コロナ禍が収まるまでは、もし勝利しても住民投票は行わないと言っているので、どのみち今年は超ビッグな動きはなさそうだ。

ここで、大胆に筆者の予測を立ててみたい。

もし将来、住民投票が行われて独立派が6割以上を占めたら、おそらく独立は加速して行われるのではないか。それが同党のレゾンデートル(存在理由)だからだ。独立と同時に、EUに加盟申請するだろう。EU側の扱いとしては「新規加盟国の申請」となるに違いない。

そしてEUは、おそらくセルビアやモンテネグロと同時の加盟を認めるのではないだろうか。ちなみに、2つの国の加盟は、早くて2025年と言われていたが、コロナ禍による遅れを考えたら、最速で2028年あたりかもしれない。