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なぜヨーロッパでは圧倒的にバイデン支持なのか。:アメリカ大統領選

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
10月28日、Delawareで演説するバイデン氏(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパ人に「もしあなたがアメリカ大統領選に投票できるなら、バイデン氏とトランプ氏のどちらに投票するか」を聞く調査がある。

様々な調査会社が、何度も世論調査をしているが、決まってバイデン氏が優勢である。

最新の結果は、調査会社BVAの調査が30日(金)に明らかにした調査だろう。AFP通信をはじめ、DW(ドイツ公共放送国際放送)などの欧州メディアが報じた。

調査には、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインのヨーロッパ5カ国の1万1000人以上が参加した。

一番バイデン氏を支持しているのはドイツ人で、66%だった。フランス人は57%だ。過半数を制している。

逆にトランプ氏に投票すると答えたのは、ドイツ人が8%で、フランス人が9%だった。1割にも満たないのだ。

またイタリア人は42%がバイデン氏に投票し、15%がトランプ氏に投票すると答えた。

ただ、これははっきりとバイデン氏を支持していることにはならないだろう。

フランス人の9%、ドイツ人の8%が、トランプ氏に「良い意見をもっている」と答えた。逆に、フランス人の大多数の83%がトランプ氏に「悪い意見をもっている」と答えている。このようにトランプ氏に対しては意見がはっきりしているのに対し、バイデン氏に対しては約半分の48%も「自分の支持をはっきりと決めていない」という。

バイデン優勢ではあるが、むしろ反トランプが強いという結果なのだ。当事国アメリカでの評価と似ている面があると言える。

トランプ氏を支持しない理由

ではなぜヨーロッパ人は、トランプ氏を支持しないのか。

まず、環境問題だ。

2015年、トランプ大統領は「パリ協定(2020年以降の、地球温暖化対策のための新たな国際枠組み)」から米国を離脱させるという決定をした。これは、ヨーロッパ人の間では最も支持されていない行動の一つだ。

欧州では環境保護は当然の共通課題となっており、欧州連合(EU)が環境政策を世界でリードしている。

しかもこれは、国連の取り組みだ。ここから脱退したことは、すなわち「アメリカは世界の取り決めなんて無視する」と言っているようなものだ。

このアメリカ脱退の動きは、欧州各国で1桁の支持しか得ていない(唯一の例外はスペインで、11%が賛成していた)。

メキシコとの国境に沿って壁を建設するというトランプ氏の計画も、同じように大変な不人気だ。

欧州では、冷戦で東と西に壁で分断された記憶がある。しかも、土地はつながっている。このあたりは日本人にはわかりにくい感覚かもしれないが、県境に壁をつくったと想像すると、近いと思う。

ヨーロッパ人は、人々を隔て隔離する壁が嫌いなのだ(でも「移民問題で必要かも」というジレンマに悩んでいる)。冷戦で東西に分断されたのは、アメリカとソ連という、当時の超2巨大勢力の世界的争いのためだった。思想の対立であり、権力争いだった。欧州は分断「された」のであり、好きでそうなったわけではない。

このことは、上記調査でドイツ人が最もバイデン氏を支持している国である理由なのかもしれない。

逆に最も壁建設を支持している国は、EUから離脱した英国の人々で、17%の支持を集めている。それでも2割にもいかないのだ。

国別の詳細な調査

もう一つ、国別の詳細な調査を紹介しよう。

以下は、Europe Electsが、調査会社Ipsosの結果を中心にまとめたものである。最終更新は10月27日となっている。

Europe Electsの公式サイトより
Europe Electsの公式サイトより

この表によれば、7割以上がバイデン氏を支持しているのは、以下の4カ国だ。

1位 アイルランド(80%)

2位 フィンランド(75%)

3位 スウェーデン(73%)

4位 ギリシャ(71%)

北の福祉国家(税金も高い)が強い。社会主義色が強く、バイデンの民主党とは親和性が強い。ギリシャも左派勢力(中道左派よりもっと左)が強い国だ。

逆に、トランプ氏を支持が(たった)2割を超えている国は、以下の4カ国だ。

1位 ロシア、トルコ、ポーランド(27%)

4位 ハンガリー(23%)。

4カ国とも、国のリーダーが大変保守的で強い国である。

一方で、「決めていない(Undecided)」が3割を超えて目立っているのは、以下の7カ国。

1位 ロシア(60%)

2位 ポーランド(45%)

3位 トルコ(43%)

4位 フランス(40%)

5位 ハンガリー(39%)

6位 スペインとイタリア(36%)

上記のトランプ氏を支持する割合が比較的高い4カ国が、全部登場しているのが興味深い。

また、フランス・スペイン・イタリアと、南欧で決めていない人の割合が多いのは特徴といえる。

これはどう分析して良いものか難しい。このラテン3カ国は、トランプ支持率は他と似たり寄ったりで低いが、バイデン支持率もそれほど高いわけではない。

つまり、トランプ氏は支持しないが、バイデン氏は魅力に欠け、「消去法でバイデン支持」という選択をすることに、より強いためらいを感じているーーということかもしれない。

トランプとバイデンに何を期待する?

ちょっと前のものだが、10月8日に発表されたYouGovの調査結果も出しておこう。

イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、スウェーデン、デンマークの7カ国を調査したものだ。

YouGovのサイトより(以下同)。翻訳は筆者。
YouGovのサイトより(以下同)。翻訳は筆者。

別の表も紹介しよう。

上段の質問は「トランプの大統領としてのパフォーマンスは、どうだと思うか」

下段の質問は「もしバイデンが大統領になったら、どうであると思うか」

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紫:素晴らしい・良い  緑:並み  アイボリー:わからない  赤:ひどい・貧弱

調査結果に対して、YouGovは以下のように評している。

バイデン氏に対する見方も抑えられていて、この民主党員が「素晴らしい」または「良い」大統領になると思う人の割合は、7カ国で17~23%と、依然としてかなり低いです。

その代わり、バイデン氏なら平均的な大統領になれると思う人(32~55%)や、そもそもバイデン氏のことを知らない人(21~45%が「わからない」と答えている)の方がはるかに多い。しかし、バイデン氏が貧弱な、あるいはひどい大統領になると思う人はほとんどいません(6~13%)。

バイデン氏が自国に良い影響を与えると思う人は29~49%、世界に良い影響を与えると思う人は36~58%となっています。多くの人が「わからない」と答えています。7~18%の少数の人々が、バイデン氏がマイナスの影響を与えると予想しています。

加えて、国際関係、気候変動、新型コロナウイルス、経済、テロリズム、平和の6つの分野にわたって、調査対象となった7カ国の欧州市場の人々は、どの国でも、どの指標でも、バイデン氏はトランプ大統領よりも良い仕事をするだろう、と考える傾向があります。

その中で、トランプ氏は「米国経済の改善」(16~29%)と「国際テロとの戦い」(16~27%)で最も高い評価を得ています。バイデン氏は「米国と自国との関係改善」(43~69%)で、最も高いスコアを記録しています。

「米国と自国との関係改善」ということは、そんなに関係が悪いのだろうか。

欧州とトランプの摩擦

欧州で「自国との関係改善」といえば、まっさきに思いつくシーンが2つある。

1、2018年10月、G7における貿易論争。トランプ大統領は、アメリカは「皆からタカられる貯金箱」となっていることに、いたく不満だった。

上はメルケル首相のインスタグラム、下はマクロン大統領のツイートだ。

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トランプ大統領に迫るように囲む、G7参加首脳の面々。SNSでどのような写真を各国首脳が流したかで話題をさらった。つまり、どの国も、いかに自分の国の首脳がトランプ氏に強く迫っているように見えるか、競っていたわけだ。

筆者の感想を言うなら、各国首脳が競えば競うほど、トランプのアメリカのボスぶりが際立ったように見えた。なんというか、情けないというか、仕方ないというか・・・。

2、NATOの会議

2017年5月、トランプ大統領は「もっと軍事費を払え」と欧州首脳に説教をした。ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)の会議が開かれた時のことだ。

トランプ大統領の隣で苦虫をつぶしたような顔で立っているのは、ソトロテンベルグNATO事務総長だ(ノルウェー人)。

欧州首脳はまるで校長先生のいうことを聞くように並んで立っている。ビデオ冒頭で押しのけられたのは、モンテネグロの首相だ。

日本と欧州は似ている?

欧州がバイデン氏に比較的好意的なのは、もともと欧州の素地からきているかもしれない。

欧州は、アメリカや日本に比べて「真ん中」の軸がかなり左寄りである。欧州の「中道左派」は、アメリカでは「極左」とみなされることが珍しくもない。ただの中道左派の政策や発言(=珍しくもない並み)があると、共産主義者呼ばわりする人もいる。

もともと(世界基準で見れば)欧州大陸は左派大陸であるといえる。左派の人々は世界規模で党や団体が連帯しており、一つの組織の中でつながっていたり、共に活動していたりすることも関係あるかもしれない。

一方で、「もっとカネを出せ」と迫るトランプ大統領は、今までアメリカに守られるのにすっかり慣れてきた欧州にとって、耳の痛い、都合の悪い政治家だ。今までにないタイプのアメリカ大統領だ。

この困惑の状況は、日本と大変似ている。日本も、アメリカに守られるのに慣れきっている。中国の軍事覇権(と経済の脅威)の問題がなければ、トランプ大統領支持率は、日本でそれほど高くなかったかもしれない。

「強力な大統領トランプ」に期待する声が日本では強いということは、日本の軍事的な緊張度(潜在的でも)がそれだけ高く、欧州のほうがずっと平和であることを意味するのだろう(テロと国家の軍事は違うと思う)。

分裂して民主主義度が低いままの東アジアと、欧州連合を構築して集団安全保障体制を築いたヨーロッパとの違いなのかもしれない。東アジアは、50年後を見据えて、何とかできないものだろうか。

参考記事:次期アメリカ大統領は高齢者決定。いま先進国、欧州と東アジアのリーダーの平均は何歳か。驚きの結果に。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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