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コロナウイルスで飲んではいけない薬:【2続報】フランスのイブプロフェンとアセトアミノフェン使用の指針

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
パン屋でマスクをつけて働く人。ナントの近くヴェルトゥにて。3月17日(写真:ロイター/アフロ)

【注!】慢性疾患で、医師の処方でイブプロフェンを服用している人は、勝手に中断せずに、必ず医者に相談してください。あるいは、具合が悪くなってきているのに自己判断で飲み続けないで、必ず医者に相談して下さい。これはフランスでも盛んに発せられている注意です!

筆者が、フランスの厚生大臣が発表した「コロナウイルスにかかったら飲んではいけない薬」の第1報を日本で流してから、3日が経った。

そして今日3月18日、WHO(世界保健機関)が、「『イブプロフェン』をみずからの判断で服用しないでほしい」としたうえで、代わりに解熱鎮痛薬の「アセトアミノフェン(別名:パラセタモール)」を使うよう呼びかけた。

参考記事:「新型肺炎にはイブプロフェンの服用避けて、症状悪化させる恐れ WHO(時事=AFP)」等(Yahoo ヘッドライン)、「WHO 新型ウイルスへのイブプロフェン影響は『調査中』」(NHKニュースWEB)

フランスのヴェラン厚生大臣のツイッターの発言について、定例記者会見で、リンドマイヤー報道官が記者の質問に答えたのだという。

全身の力が抜ける思いがした。覚悟を決めて記事を発表したつもりだったが、この3日間、自分で思っていたよりも緊張していたのだろう。不思議なことに、18日朝にWHOの記事をみつけて、安心した夜になって、なんだか体調が悪くなってきた。

記事を発表した後の反響で、一番「これは大変だ」と重い責任を感じたのは、今何かの病気をもっていて、医者の指示でイブプロフェンを定期的に服用している人が、「恐くて飲めない」と言っているものだった。

すぐに医者に行って聞いてくれればいいのだけど、外出の自粛ムードで家にいるかもしれない・・・。そう思い、助言を与えてくれる情報を探した結果が、【1続報】で紹介した、『ル・フィガロ』の記事であった。

フランス語の情報で上位に来ていたということは、フランス人もあのヴェラン厚生大臣のツイッターを見て、不安になった人が多かったのだろう。それを解決するのに、よくまとまった記事だったのだと思う。

それから、日頃から頭痛や生理痛、発熱などで、イブプロフェンの薬をよく服用している人たちが「恐くて飲めない」と言っているのも気になった。

ただこちらのほうは、仏厚生大臣は、「パラセタモール(アセトアミノフェン)を服用して下さい」と別の方法を言っているので、重圧度は胃が痛くなるほどではなかった。

それでも「言いっぱなしは良くない」という思いが残っていた。そのために、この【2続編】を書いている。

フランスにおける薬剤師へのアドバイス

以下で紹介する翻訳は、「フランス医薬品・保健製品安全庁」(ANSM・以下「仏安全庁」)が昨年2019年10月3日に、同公式サイトで発表したものである。

タイトルは「アセトアミノフェン(パラセタモール)と非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の適切な使用:仏安全庁は薬剤師のアドバイスの役割を強化を望む:情報のポイント」。

日付からわかるように、この発表は昨年末に武漢から始まった新型コロナウイルス感染症が起こる前である。つまり、この新たなコロナウイルス感染症の経験と研究は含まれていない段階のものである。

【1続編】で書いたように、フランスでは2019年4月に、非ステロイド系抗炎症薬が、感染症を悪化させる役割について、調査の結果報告を出していたのだ。

そして、翌年2020年1月には、処方箋がなくても買える薬でも、リスクがあるものは薬局でカウンターの後ろにおいて、薬剤師を通すことになった。

薬剤師の役割が一層重要になることを見越して、この「情報のポイント」を公開したのだった。

人に感染するコロナウイルスは今まで7種類みつかっており、今までの6種類のコロナウイルスと、新型コロナウイルスの違いと治療法は、目下世界中で研究されている。

しかし、たとえ新型コロナウイルスの情報がまだの段階であっても、世界に先駆けて「イブプロフェンの服用を避けろ」と公に大声で叫んで、WHOにも認めさせたフランスの知見は、参考に値すると思う。

以下、翻訳です。

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「アセトアミノフェン(パラセタモール)と非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の適切な使用:フランス医薬品・保健製品安全庁は薬剤師のアドバイスの役割の強化を望んでいます:情報のポイント」。

出典:フランス医薬品・保健製品安全庁」(以下「安全庁」)公式ホームページ

2019年10月3日

安全庁は、パラセタモール(アセトアミノフェン)と特定の非ステロイド系抗炎症薬(イブプロフェンとアスピリン)を含む薬の使用に関して、薬剤師の助言の役割を強化したいと考えています。

安全庁は、処方箋なしで自由に買うことができるこれらの医薬品が、2020年1月から薬局で自由に買えなくなくなることを望んでいます。

この措置は、これらの医薬品の使用を安全にすることを目的としています。この文脈では、矛盾する局面が、安全庁によって関係する複数の研究所に対して開始されたばかりです。

パラセタモール(アセトアミノフェン)と非ステロイド系抗炎症薬は、大人と子供の鎮痛剤または解熱剤として、自己判断で最もよく服用される薬です。 現在、これらの薬は、薬局で自由に買うことができるものがあります。

これらの薬は、正しく使用すると安全で効果的ですが、不適切に使用するとリスクをもたらします。

実際、パラセタモール(アセトアミノフェン)は、過剰に服用した場合、重篤な肝臓障害を引き起こす可能性があり、それが肝臓移植につながる可能性があります(フランスにおける薬が原因の肝臓移植の第一の原因です)。

非ステロイド系抗炎症薬は、特に腎臓の合併症、重篤な感染性合併症を引き起こす可能性が高く、妊娠6カ月目(無月経24週間を超える)の初めから服用した場合には、胎児に毒性があります。

一般的に使用されるこれらの薬の適切な使用を促進するために、安全庁は、これら全てがもう自由に買うことができなくなり、薬剤師のカウンターの後ろに配置され、特に処方箋なしで購入を希望する患者に対して、薬剤師の助言の役割を強化することを望みます。

この措置は、これらの薬の使用を安全に使用するために安全庁がとってきた行動の延長線上にあります。パラセタモール(アセトアミノフェン)が含まれる薬の箱には、数カ月後には、過剰に服用した場合に肝臓に与えるリスクを警告するメッセージが書かれるようになることは、特に大事です。

痛みと発熱、あるいはどちらかの場合、特に咳やアンギーナ(訳注:胸が締め付けられるような状況)などの一般的な感染症の状況では、安全庁は、患者と医療従事者に、適切な使用の規則を尊重しながらパラセタモール(アセトアミノフェン)を使うことを忘れないように呼びかけます。

・できるだけ最も短い期間、最も少ない量を服用すること。

・1回あたりの最大の投与量、1日の最大の投与量、開けなければいけない最短の間隔、および最長で何日間服用していいかの推奨期間(処方箋がない場合は、発熱の場合3日、痛みの場合5日)を尊重すること。

・他の薬でパラセタモール(アセトアミノフェン)が使われていないか確認すること(痛み、発熱、アレルギー、風邪の症状、またはインフルエンザのような病気に使用されています)。

・特別な集団に注意を払うこと(マイナス50kg、軽度から中度の肝不全、重度の腎不全、慢性アルコール依存症など)

非ステロイド系抗炎症薬を使用する場合:

・最も短い期間、有益な最低限の量で使用すること。

・症状が消えたらすぐに治療を中止すること

・水痘の場合は使用を避けること。

・発熱の場合、治療を3日以上延長しないこと。

・痛みの場合、治療を5日以上延長しないこと。

・ 2つの非ステロイド系抗炎症薬を同時に服用しないこと。

安全庁は、すべての非ステロイド系抗炎症薬は、妊娠6ヶ月の初めから禁忌であることを忘れないよう呼びかけます。

(翻訳終わり)

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◎筆者の追記

上記のように、非ステロイド系抗炎症薬(イブプロフェンとアスピリン)を含む薬は、一般的な感染症の状況で、発熱で3日、痛みで5日を超えるなと書いてある。それでも新型コロナウイルスについては、仏ヴェラン厚生大臣は、服用をそのものを避けろという、さらに厳しい内容を警告した。

理由は「大量の非ステロイド系抗炎症薬の服用」について、特に併存疾病のない若者で、重篤な状態になった患者についての報告があったから、そして医学誌ランセット(The Lancet)に最近掲載された仮説があったからなのだろう。未知のウイルスだから、一層用心したことがうかがえる。

大変気になるのが、日本の厚労省の指針である。

公式ホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」の「問28」には、以下のように書いてある

先日「相談・受診の目安」として公表しました以下の条件に当てはまる方は、「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください。

・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)

・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合。高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など))がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方。

・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合 ・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合

この中で特に「 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)」が気になって仕方がない。どう考えるべきだろうか。医療関係者だけではない、すべての人(特に経験者)の実体験と見解、そして意見が必要なのではないか。

一番最初の記事にも書いたように、激しい議論があってもいいから、情報公開をして、人間の知恵を結集して事態改善に向かうことを願っています。

●フランスの現在の指針:コロナウイルスでリスクのある薬【後編】:日本薬剤師会が参照としている資料の内容とは/フランスANSM

●コロナウイルスでリスクのある薬【前編】:日本薬剤師会が参照としている資料の内容とは/WHOとEMA

EU機関「欧州医薬品庁」(EMA)の結論(同年5月):EU機関がコロナ感染症でイブプロフェンのリスクを認める:取説書の内容変更を指示。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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