バックストップは北アイルランドに限定か。法の抜け道を探るジョンソン首相と政府。イギリス・ブレグジット

9月9日ダブリンにて共同会見。ジョンソン英首相とバラッカー・アイルランド首相。(写真:ロイター/アフロ)

バックストップは北アイルランドのみ?

今のバックストップ案は、イギリス全体が関税同盟に残るという内容だ。

この適用範囲を変えて、北アイルランドのみにバックストップを適用するという案が浮上している。9日にBBC放送が伝えた。

この内容は、欧州連合(EU)に言わせれば、北アイルランドとイギリスの双方に経済的利益があるという。

EUから見れば、単一市場、アイルランドの加盟国としての立場、そしてアイルランド和平合意の3つを保持するものである。

イギリス側から見れば、イギリスは関税同盟を抜けて、自由に他国と貿易協定を交渉することができる。そして、今までと同じように北アイルランドとの政治的関係を保つことができる。

北アイルランドから見れば、イギリスとEUの双方から経済的メリットを受けることができる。

北アイルランドの住民の過半数は、EUに残ることを希望している。EUに残ってEU市民であり続けることはできないものの、関税同盟の一員として、EUの経済的パートナーであることはできる。

ジョンソン首相は、農産品に関して、北アイルランドはアイルランドと同調する可能性があると示唆している。EUは、他の貿易の分野にも拡大すべきと言っている。

もともとバックストップは、当初は北アイルランドのみを想定したものだった。しかし、ブリテン島とアイルランド島をアイリッシュ海で分断して、国境線を引くかのような措置にイギリス側が猛反発。それならと、メイ首相(当時)の政府がイギリス全体を関税同盟に入れることを提案して現在の内容になったものだ。

もしこの内容になるとしたら、イギリス側が妥協したことになる。北アイルランドの強硬イギリス派の反対も予測できるというが、このようなことを認めたら、時間の経過とともに北アイルランドはアイルランドに統一されていくのは間違いないだろう。

ジョンソン首相と政府にとっては、「合意なき離脱と、どちらがマシだろうか」という選択になりそうだ。今、保守党がまとまろうとしている方向なら、「合意なき離脱がマシ」と考えるに違いないが。

イギリス政府側から、現在のバックストップ案に替わる具体的な提案は、まだない。

ジョンソン首相はアイルランドを訪問、9月9日両国首脳の会見を行った。

同国のバラッカー首相は、きまり悪そうに、しかしはっきりと「イギリスはまだ実効性のある提案はない」と述べた。

ジョンソン首相は「私は合意を望んでいる」「合意なき離脱は、われわれがすべて責任を負うべき、政治の失態を意味する」と述べた。

激動のイギリス議会

イギリス議会は激動であった。

◎下院(定数650)は9日、ボリス・ジョンソン首相が再び提出した解散総選挙の動議を否決した。

賛成293、反対46、棄権303で、実施に必要な434票を大きく下回った。

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前回は存在した、労働党議員3人の「賛成」が消えた。同党議員の「反対」も5人減って、棄権が一層増えた。一方で、保守党の棄権が、2人から6人に増えた。

◎バーコウ下院議長は、10月31日、この議会の閉会とともに、議長を辞職し、議員も辞職すると述べた。

彼は「議事進行がかたよっている」と、政府を怒らせて批判されていた。しかし彼は「この議会をおとしめることは、自らを危険にさらすことになるものだ」と延べ、野党側から立ち上がって割れんばかりの拍手を受けた。与党側からも何人か同じように拍手する人がいた。

◎「合意なき離脱を阻止する法案」は、9日午後エリザベス女王の裁可を受けて新法となった。スピード成立した法となった。

しかし政府は、この法案の抜け穴をみつけるべく努力しているという。陰謀説ではない。BBC放送の画面でドミニク・ラーブ外務・英連邦大臣が、はっきりそう述べたのだ。「もちろん政府は法を守ります。でも、この法律は法廷で争われることになるでしょう。我々はこの法律で何が求められるのかを見極めています。それは合法で、責任ある行動です」と。

国民の意志は今どうなっている?

国民投票で、EU離脱に賛成した人たちの中には、「合意なき離脱は積極的に希望はしないが、支持しても構わない」と考える傾向が見られるという。

サー・ジョン・カーティス、ストラスクライド大学教授(政治学)がBBCに寄稿した内容によると――。

教授は、4つの調査会社が7月から8月にかけて行った世論調査の結果を平均した。

離脱派のうち、合意なき離脱は「良い」結果だと答えた人は46%、合意なきブレグジットは「良い」結果ではなく、「受け入れられる妥協」だと答えた人は27%だという。

一方で、今年夏の世論調査では、合意なき離脱への反対が賛成を上回った。

なぜかというと、「3年前の国民投票に投票しなかった人たち」というのが、その答えだという。3年前に投票しなかった有権者で、合意なき離脱を支持するのはわずか21%。反対はその倍にあたる43%に上るということだ。

突き進むジョンソン首相

ジョンソン首相の政府による「解散・総選挙」の提案は、二度までも否決された。

これは首相の敗北だろうか。

BBCの論調を聞いていると「首相が合意をとりつけようとしても、与党は過半数に届いていない。遅かれ早かれ総選挙が必要である」となっている。二度もの総選挙の提案で、空気が変わってきたようだ。

一度目は、ジョンソン首相の敗北と騒いでいたメディアが多かったように見えたが、政治家が「総選挙を行う」と錦の御旗を掲げたら、反対するほうが分が悪いに決まっているではないか。

前の記事に書いたように、保守党はまとまろうとしている。「国民投票の結果をなんとしても尊重する党」「そのためには合意なき離脱もやむなしとする党」「国民に問いたいのに、総選挙を野党に阻まれた党」という存在だ。今は、「二度までも野党に阻まれた」に変わっている。

参照記事:なぜジョンソン英首相は総選挙をしようとするのか。羊の群れの議員たち:イギリス・ブレグジット問題で

党がまとまらなければ、どのような提案を出しても決して実現することはない。まとめるためには、党議拘束に逆らう議員は誰であろうと除名する。「独裁者」「国民の信託を得ていない」の批判は、総選挙を二度までも提案したことで、一層封じ込めらそうだ。

今のイギリスに必要なのは、強いリーダーだ。ジョンソン氏は根が軽いところが不安材料だが、イギリスは非常事態にあると言っても、戦争に直面しているわけではない。彼が今まで見せた「機を見るのにものすごく敏感な嗅覚と、それを見せつける言葉づかいと、パフォーマンス力」+「妙な愛嬌」という才能をもってすれば、この難局を乗り切れるかもしれない。

議会は休会に入ったが、その間、各党はどんな手を考えるのだろうか。