大誤報:欧州議会選挙で日本のメディアが「EUで中道派過半数割れ、極右勢力躍進」の誤り

5月26日選挙結果を受けて「ヨーロッパは持ち堪えた」とブリュッセルで喜ぶ人たち。(写真:ロイター/アフロ)

今回は、伴野文夫さんに寄稿いただいた。

伴野さんはNHKの記者として、1968-72年ブリュッセル支局、72-73年パリ総局勤務と、欧州連合(EU)建設への道を、その目で見て報道してきた方である。

今回の欧州議会選挙に関して、とても鋭い分析をしている記事なので、ぜひご覧になって頂きたい(見出しのみ今井がつけた)。

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トランプ大統領が6月2日から3日間イギリスを国賓として訪問、今週中にも辞任するメイ首相と会談する。

なんでこの時期にと思ったら、「次の首相はジョンソンがいい、ファラージュも私は親しい」と公言した。

強硬な「合意なき離脱派」の二人を名指しで支援する、実に露骨な内政干渉だ。

選挙の正確な結果とは

日本のメディアは「中道派過半数割れでEU混乱」と大書して騒いだが、結果はまったく違う大誤報だ。 

◎親EUの新しい中道派は506議席で3分の2を超え、圧勝した。

総議席751、過半数は376、3分の2は501。

◎圧倒的多数の市民が、トランプが露骨に支援する反EUの極右ポピュリズムを拒否し、漸進的なEU改革を目指す中道派を支持した。

◎新しい中道派では、縮小傾向の大連立のドイツに対して、新党「共和国前進」の立ち上げで左右中道勢力を一体化し、「前進」を続けるフランスの発言力が強力になる。メルケル時代は静かにマクロン時代に移行しつつある。

◎中道派過半数割れは、ドイツのCDUとSPDの話。替わりにマクロン党と欧州全域、とくにドイツで躍進した緑の党が、新しい中道派の中核となる。

◎ドイツでSPDに替わる緑の党の躍進は、欧州政治の焦点が社会政策から環境政策に移りつつあることを意味する。

極右と一口に言うけれど

日本のメディアは、EU懐疑派は3分の1を取り、欧州議会は危機に陥ると書いた。懐疑派はskepticの翻訳語で、中身は極右、極左、穏健派など様々。イギリスの反EUメディアが、強硬派の存在をふくらませて大きく見せるために作りだした曖昧な言葉だ。

◎日本の報道は懐疑派と極右連合をごちゃまぜにしている。極右の集会の映像を使いながら、懐疑派全般のコメントをつけるので極右が躍進するように見えてしまう。

◎極右連合は、前回まではEU全否定だったが、17年の仏大統領選でマクロンに完膚なきまでに論破されたので、「国家と自由の欧州」建設に看板をかけ替えた。極右がEUの存在を原則容認する大転換をしたわけだが、それでも伸びなかった。バノン、サルヴィーニ、ルペン戦略の完敗だ。トランプの突然のイギリス訪問はトランプのヨーロッパ戦略失敗の焦りか。

フランス2テレビ:マクロン党がルペンを「アメリカから金を貰う不埒者」と猛攻撃。マリーヌが怒りで顔を真っ赤にして「嘘つきの中傷だ」と叫ぶ場面を放映した。

Le Monde Hebd.は3月16日、Ingerence de l’alt-right americaine と題する長文の記事で、トランプ、バノン周辺のアメリカの富豪たちが、ヨーロッパの極右に大量の資金をつぎ込んでいる実態を実名入りで詳しく伝えた。

◎極左を除く右派3派はあわせて175、二割をやっと超えたところ。このうち英保守党中心のECR63と、ファラージュのBrexit党中心のEFDO54の大半は、10月末の離脱までに議席につくことなく退場するので、最後に残る極右連合はENFの58だけになる。

このグループは、バノンやトランプ周辺の米財閥が支援するサルヴィーニやルペン、独のネオナチ系AfDの3党など。仏伊の両極右党は自国では第1党になったが、欧州議会全体からみればグループでわずか7.7% だ。

ルペンのRNは0.9%、1議席の差でマクロン党を抜いたと大騒ぎをしているが、前回14年の選挙の24.5%から1.4%減少、議席を3つ減らした。いま大統領選挙があれば、ルペンには友党がいないので、1対1の決戦投票になれば(ルペンに可能な最大の票を加えても)、60% vs 40% でマクロン勝利は間違いない。

◎シャンゼリゼの暴力デモを暗に支援したメランションの「不服従のフランスFI」は極右以上の完敗だった。17年の大統領選19.8%→今回6.3%に激減した。フィリップ政府は暴力集団Black blockを徹底的に取り締まる破壊活動防止法を制定、黒覆面を被ってデモを行うことを禁止する。1500人程度とみられる中核メンバーを、個別に面識して排除する方針のようだ。

◎日本メディアが大間違いをした原因は、EUが大嫌いな英メディアのロンドン情報を丸飲みで書くためで、大陸側の情報をしっかり取材していれば、こんな誤報は避けることができる。

◎英ファラージュのBrexit党は31.6%と個別の政党で最高の得票率を獲得したが、前述のように、今年10月末にはいずれかの形で離脱することになるので、反EUの議席は大巾に減ることになる。

4大紙の見出しを検証

なぜこんな大誤報がまかり通るのか。日本の大新聞、テレビの報道は予想の段階から、一貫して、見出しが「中道2大会派の過半数割れ、極右勢力の3分の1に迫る躍進」だった。選挙後506の数字が出てからも見て見ぬふりで、基調は変わらない

4大紙の5月28日の見出し一覧は次のようなものだった。

○日経新聞;朝刊第2面。メインの見出しは、「EU統合試練 懐疑派三割」。

サブ見出し「移民、財政, 溝深く」。

新しい親EU派の躍進にまったく触れていない。

○朝日:27日夕刊1面で、「中道2会派過半数割れ」。

翌28日朝刊3面でメイン「欧州議会 中道2派退潮」、サブ「過半数割れ 親EU多数派維持」。サブの過半数割れがどこにかかるのか不明。

この朝日の記事には各会派の確定議席数が、親EUと反EUにきちんと分けて掲載されている。合計すると親EU計504となるが、この数字は記事になっていない。さすがに親EUが多いのに気が付いてサブに突っ込んだのか。

○読売:「EU懐疑派 仏伊で第1党」サブ「議席3割へ 予算審議難航も」

4紙のなかでも最悪のでたらめ見出しだ。読売はよほど極右がお好きらしい。

○毎日;第1面メイン「2大会派 過半数割れ」サブ「親EU、3分の2は維持」

3分の2がサブであっても見出しに出た唯一の例。毎日は第6面を全面使って特集。「欧州政治 地殻変動」。横見出し「新興の親EU会派台頭」。中央横見出し「懐疑派躍進に歯止め」。不十分ではあるが、4紙で唯一のまともな特集だ。

今後はマクロンの党が主導権

選挙前の中道2派は人口が最大のドイツの保守CDUと社民SPDの大連立2党だ。17年から退潮気味の両党が、欧州議会でも長年確保していた過半数を割ることは大いに予想されていた。そしてSPDから流出する票が緑の党に流れていることは、去年10月の二つの州議会選挙と年末の世論調査で明確になっていた。

縮小するメルケル党に替わって、拡大するマクロン党が今後主導権を握ることになる。マクロン党は18年11月以来の黄色いヴェスト・デモで、支持率を最低の20%まで下げていたが、国民大討論集会を全国で開くなど努力した結果、支持率を7%戻し、黄色いデモ以前の状態に回復した。これも報じられていた。前述の緑の党の躍進と合わせて、早い時期から欧州議会選の見出しが、「中道派の過半数割れ」ではなく、「新しい親EU中道勢力の登場」であることは予想できることだったのである。

手前味噌で恐縮だが、私は講演会やメール通信でそれを大いに力説してきた。大メディアによる今回のような誤れる報道が行われないように、EUといえば混乱とか分裂とか書きたがるワンパターンの書き方を止めて、確かな情報分析をしてほしい。

各メディアは、親EU圧勝の結果をよく吟味して、新しい情勢を解析する特集記事を書くべきだと思う。とくに全メディアがほとんどノータッチのマクロン革命について、大いに考察してほしいと思う。

米英のアングロサクソン・メディアの大部分は、EUの結束を敵視していて、様々な形で攻撃を加える。トランプ大統領の登場以来この傾向は異常に強まっている。日本にとってEUは敵視すべき対象ではないのに、米英のEUこきおろしの情報をそのままキャリーしているのが実情だ。そしてその実情を自覚するところがないのだ。アングロサクソンが噴出する有害な濃霧にすっぽり浸っている現状を自ら認識してほしい。

スマホ文化は一人が書くと横並びで同じことを書く。見出し文化は思考停止を意味する。考えるジャーナリズムが失われないことを心から願うものである。