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本当に出た、プチデモンへのヨーロッパ逮捕状。どうするベルギー、どうするEU

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
(写真:ロイター/アフロ)

本当に出てしまった。

筆者が昨日、前の記事で「一番嫌な、ありうる仮定は、プチデモンにヨーロッパ逮捕状が出ることだ」と書いている間に、事態はすでに動いていた。

電光石化だ。

法的には二つのシナリオ

フランスのNHK「フランス2」の報道を見ると、氏の身柄拘束には、法的に二つの方法があるようだ。

「二つのシナリオが可能です。もしひとたびプチデモン氏が逮捕されると、彼はスペインに引き渡されることに同意するかもしれません。この場合10日間かかるでしょう。しかし、彼は反対することもできます。

またもう一つのシナリオは、ベルギーは彼を引き渡すのに60日間の猶予があります。この期間に、ベルギー裁判所は、スペインで請求された違法行為がベルギーで認められていることを確認する必要があります。これはあまり複雑ではありませんが、しかしスペインにおいてプチデモン氏の基本的権利が尊重されるようにする必要があります。どのみち、送還されるのは、(彼の身柄にとっては)安全な賭けです」

とのことだ。

「これはあまり複雑ではありませんが」

って・・・本当か?!

この報道は、フランスの国営放送のようなものなので。

フランス国家はカタルーニャの独立にはきっぱり反対の立場だから、テレビではこんな程度の表現だろう。

ベルギーが即刻氏を逮捕するとは思えないので、60日間はベルギーに検討する時間があるということだ。

60日間ということは、カタルーニャで行われる12月の選挙の結果を見る猶予はあることになる。

これらの日程を、プチデモン氏一党はあらかじめ計算していたのかもしれない。

本当にあのベルギーで、60日でカタがつくのか。

(つかないんじゃないか)。

前記事では、ベルギー政府内に氏の強力な味方が現れたこと、そしてベルギーの複雑な状況を説明した。

プチデモン・カタルーニャ州首相、ブリュッセルでの初めの一歩は小さな勝利か?

もし身柄引き渡しになったら

プチデモンの弁護士ベカエール(ベカルト)氏は、「彼はブリュッセルに居続けて、ベルギー当局と完全に協力することを約束している。もしベルギー裁判所が彼の身柄引き渡しを受け入れたら、彼は控訴するだろう」と言っている。

また、プチデモン氏は、ビデオメッセージで「スペイン政府はまさに民主主義を放棄した」とし、「カタルーニャの合法的な大統領」として「正当な閣僚とみなした者の即時解放を要求する」と述べた。「投獄は、選挙に反する行為で、選挙は前例のない抑圧の空気の下で行われる」と語り、「私たちを待っている抑圧は長く激しくなる」となんども繰り返した。

また、「我々は、カタルーニャ人が今までそうしてきたように、暴力なしで平和にこの状況と戦わなければいけない」とも言った。

この氏の訴えに対して、ブリュッセルにいる、EU関係の人はどう動くのか。

ヨーロッパ逮捕状が出て、自分の膝元に本人がいるのに、「これは内政問題だし、国家間の問題だから、スペインとベルギーで勝手に決めてください」って、それはないだろう。

どこに逃げて戦うか

筆者としては、もし万が一本当に逮捕か身柄拘束という危機になったら、ブリュッセルのEU機関の内部に避難することをお勧めしたい。

筆者の記憶に間違いがなければ、EU機関の建物内で何か起きたら、ベルギー警察が執行するが、ベルギー政府の判断だけでは動けないはず。EU側の許可がいるはずだ。

いまEUは、裏で何をやっているかは知らないが、表向きは「スペインの内政問題」という態度を崩していない。

でも、プチデモン氏がEU機関の建物に避難したら、もうその表向きを保つことができない。

決断を迫られるのだ。

もしEU機関の中に逃げたプチデモンを、EUが許可して拘束するとなったら、今までEUが築いてきたものは恐るべき打撃を受けるだろう。

一番お勧めなのは、欧州議会である。

欧州議会は、議会という「EUの民主主義の場」であり、EUの政策を加盟国のリーダーや国家権力で決めるのに反感をもっている人が、たくさんいる。

警備もそれほど厳しくないし、中には加盟国の旗が並ぶホールもあって、空間としても抜群で、メディアの方々も受け入れやすい。

次にお勧めなのは、地域委員会・経済社会評議会の建物だ。

やや地味だが、この機関は、国別だけではなく、地域別にEU内の社会問題を考える機関だから、地域の理解に深くて事情に詳しい人が多い。

欧州議会の隣だし、警備もさほど厳しくないし、欧州議会ほど大きくはないが程よいサイズのホールもある。確か長イスもあった。ここも悪くない。

コンシリウム(欧州理事会、EU理事会)は、加盟国の権力に対する反抗を示すには良いだろうが、それはプチデモン氏の戦略や考えとは異なるように思う。

それに、警備が厳しめである。

欧州委員会は、いかにも役所然とした建物なので、違う感じだ。

筆者ごときが考えるくらいだから、同じことを考えている人は他にもたくさんいるだろう。

国家とEUの理念の対峙

加盟国が、自分の国の分裂を恐れて、「スペインの内政問題」と目をつぶりたいのはよくわかる。

そもそも、EUは加盟国でできあがっている組織だから、加盟国が動かないなら、EU機関が動かないのはわかる。

でも、そうじゃないものを、「一つの欧州」というものを、マーストリヒト条約以来、築こうとしてきたはずなのだ。

特に今のヨーロッパの若者は、EUを研究する私の仲間たちは「みんなが対等なヨーロッパ市民」というものに夢をもっている。

本当にプチデモン氏を、EUがつくった「ヨーロッパ逮捕状」で、テロリストと同様に扱うのか。

彼は、ヨーロッパの首都、ブリュッセルにいるのに。

目の前でそんなことが起こるのを見過ごすのか。

国家の理念とEUの理念が対峙したとき、どういう結果になるのだろうか。

【参照】共同通信の引用。

プチデモン氏、出頭拒否

「法的根拠ない」と主張

2017/11/2 10:57

【バルセロナ共同】スペイン北東部カタルーニャ自治州の独立問題を巡り、スペイン司法当局に事情聴取のため出頭を命じられているプチデモン前州首相は1日「カタルーニャの正統政府」名の声明を出し、出頭命令を「法的根拠がなく、懲罰を目的としたもの」と主張。ロイター通信が伝えた。プチデモン氏の弁護士はAP通信に出頭命令には従わない考えを示した。

さらに、プチデモン氏には「反逆」など三つの容疑がかけられているが、滞在中のベルギーにとどまり出頭を拒否する構えだ。10月31日の記者会見でも「偏った司法の権力行使で自由と安全が保証されない恐れがある」と述べ、当面帰国しない考えを示唆。

スペイン北東部カタルーニャ自治州の独立問題で、スペイン検察当局は2日、ベルギーに滞在中で「反逆」など三つの容疑があるプチデモン前州首相ら計5人の前州閣僚の拘束令状発付を司法当局に請求した。AP通信などが伝えた。司法当局が要否を判断する。

令状請求は欧州連合(EU)を通じて身柄拘束と移送を求める手続き。司法当局はプチデモン氏ら計14人に事情聴取するため、2日の出頭を命じていたが、5人は拒否していた。身柄拘束とスペイン送還が行われれば、プチデモン氏を支持する独立派と反独立派との緊張が一層高まりそうだ。

検察当局はこれに先立ち、首都マドリードの裁判所で聴取に応じた独立派ナンバー2のジュンケラス前州副首相ら9人の身柄拘束も要請しており、司法当局が同様に要否を検討している。(共同)

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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