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1Kが家賃9万円!でも人気に。首都圏に“プチ高級賃貸”が続々登場している理由

櫻井幸雄住宅評論家
2月に完成した「ブランシエスタ浦安」にも、家賃9万円前後の1Kがある。筆者撮影

 1Kというのは、居間兼寝室がひとつで、独立したキッチンが付いている間取り。多くの単身者が賃貸で住む居住形態である。

 このところ話題に上がることが多い「風呂なしの古いアパート」も、間取りは1Kになりがちだ。

 風呂なしで古いアパートの1Kであれば、東京でも3万円程度の家賃で探すことができる。その一方で、家賃3万円のおよそ3倍となる月額賃料9万円前後の賃貸マンション1Kや1DKが首都圏で増えている。

 1K、1DKで家賃9万円は周辺相場からしたら高めというケースが多いのだが、それでも人気は高い。「風呂なし物件」とは対極に位置する、“プチ高級賃貸”の1K、1DKがつくられ、人気になっている理由を最新事例と共に紹介したい。

続々誕生する1Kで9万円台の“プチ高級賃貸” 

 2023年2月、千葉県の浦安市内に地上7階建ての最新賃貸マンションが完成し、報道陣にその建物が公開された。マンションのことなら〜のテレビCMで知られる長谷工グループがつくった「ブランシエスタ浦安」全208戸である。

 近年、首都圏では不動産会社が運営する賃貸マンションが増加している。そのなかには、住友不動産の「ラトゥール」シリーズに代表される高級賃貸物件が多く、月額家賃が3LDKで100万円以上というケースも珍しくない。

 その結果、不動産会社が大家さんの賃貸マンションは家賃が恐ろしく高い、と思われがちなのだが、じつは、そこまで高額でない物件も多く出されている。

 それが、月額家賃9万円前後の1K、1DK、そしてスタジオタイプと呼ばれるワンルームタイプだ。

 三井不動産レジデンシャルが展開する賃貸マンション「パークアクシス」シリーズでも大田区の西馬込や千葉県の柏市内で家賃9万円台の1Kやスタジオタイプを探すことができる。

 伊藤忠都市開発が展開する賃貸マンションの「クレヴィアリグゼ」シリーズも、品川区内で家賃8万9000円の1Kが入居者募集中だ。

 そして、2月に完成したばかりの「ブランシエスタ浦安」も全208戸のうち、2LDKは最上階に位置する14戸のみ。残り194戸は1Kと1DKで、数が最も多いのは家賃9万円前後の1Kとなっている。

「ブランシエスタ浦安」の1K住戸は21.45平米と22.16平米の広さで、エアコンが設置されている。筆者撮影
「ブランシエスタ浦安」の1K住戸は21.45平米と22.16平米の広さで、エアコンが設置されている。筆者撮影

 今回、報道陣に公開された「ブランシエスタ浦安」は、鉄筋コンクリート造と木造のハイブリッド構法で建設されたもの。最上階である7階に配置される2LDKはすべて木造となっている。

ハイブリッド構法で建設された「ブランシエスタ浦安」の最上階は木造になっている。2LDKの家賃は20万円を超える。筆者撮影
ハイブリッド構法で建設された「ブランシエスタ浦安」の最上階は木造になっている。2LDKの家賃は20万円を超える。筆者撮影

 木造の2LDK住戸は天井が高く、最も高い部分で天井高が約3.2メートルに達し、すべてロフト付きになっている。

 最先端の賃貸マンションになっているのだが、住戸の多くは家賃8万5000円から9万7000円の1K……そこには東京の単身者用賃貸マンションに求められる、ある事情があった。

家賃補助の範囲内で、安心・快適な住まいを求めると……

 家賃9万円前後の1Kが多く供給される理由は、企業が出してくれる家賃補助の上限金額がからんでいる。

 現在、日本で家賃補助を出してくれる企業は限られるし、その金額も大きくはない。厚生労働省の調査によると、令和2年における「住宅手当など」の平均額は1万7800円だった。

 この金額は企業による差が大きく、家賃補助などの名目でもっと多くのお金を出してくれるところもある。が、社員の福利厚生に力を入れる企業でも、家賃補助の上限は月額で9万円までとか9万5000円まで。9万円台のケースが多いのが実情だ。

 9万円も家賃補助を出してくれるなんてうらやましい、と感じる人は多いだろう。たしかに恵まれた条件なのだが、家賃相場が上がっている首都圏では、それだけあれば夢のような暮らしができる、とはいえない。

 通勤の便利さ、街の魅力、建物の安心感、住居の快適さなど総合点の高い住まいを借りようとすれば、1人暮らし・家賃補助9万円台でも物件探しに苦労することになる。

 この9万円台までの家賃補助で、安心・快適な賃貸マンションを探すとき、不動産会社が提供する“プチ高級賃貸”の1K、1DK、スタジオタイプがニーズにマッチした物件になってくるわけだ。

不動産会社が提供する賃貸ならば、共用施設も充実

 不動産会社が提供する賃貸マンションならば、鉄筋コンクリート造もしくはハイブリッド構造で耐震性や遮音性、断熱性、そして防犯性が高い。快適に暮らすことができるし、共用施設が充実するという特徴も備えやすい。

 たとえば、「ブランシエスタ浦安」の場合、共用部としてWi-Fi付きのシェアラウンジや入居者専用のフィットネススタジオも備える。

「ブランシエスタ浦安」の入居者専用フィットネススタジオ。入居者は無料で使用できる。筆者撮影
「ブランシエスタ浦安」の入居者専用フィットネススタジオ。入居者は無料で使用できる。筆者撮影

 エントランスにはオートロックが備えられ、ホテルのような内廊下方式で、内廊下も冷暖房完備となる。

 このようにつくりのよい賃貸マンションを山手線内側の都心部で借りようとすれば、家賃は10万円をゆうに超えてしまう。

 そこで、山手線の外側、もしくは23区の外側が候補地となる。

 「ブランシエスタ浦安」の場合、建設地は東京メトロ東西線で大手町駅から通勤時22分(日中は16分)の浦安駅を最寄りとし、同駅から徒歩7分。住所は千葉県だが、都心に通勤しやすい立地といえる。

 山手線内側の純都心部でなくても、十分便利で魅力的な場所がみつかるわけだ。

 首都圏では山手線の外側に位置する凖都心、近郊外で“プチ高級賃貸”の1Kや1DK、スタジオタイプは今後も増えてゆくものと考えられる。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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